育てはぐくむ環境を
「本はかさばるし重い!場所をとるうえ痛む!環境的に電子書籍にすべきだ!」
「電子書籍は目にも悪いし眠りも浅くなる!物を大切にする心を養うべきよ!」
前半とはうってかわって後半では激しい意見が飛び交う中、通る声を聴く。
「根拠を示してくれ」
「希望的観測かな、それは」
「楽天的すぎる。もう少し楽観的に考えてくれ」
たまにその人が話すと、場の流れが変わる。
「あれがうちの社長だよ」
しゃがんで教えてくれた社会人さんが立ち上がるときに、肌が粟立つ。
「魔の気配?」
ぼくがつぶやくと、社会人さんたちは襟を正して周囲を見る。
「だからか!会議が理屈ばかりになったのは魔が差したからか!」
「こういう時のためのマニュアル!」
ぼくたちを守ろうと社会人さんたちが動く中、通路の奥から声が届く。
「熱を持つ水掛け論に水をさし、肝と頭を少し冷やそう」
おじいちゃんぐらいの年齢の人が姿を見せると、会議が少し静まった。
「む。少しでは弱かったか。さて――」
チラッとぼくたちを見る。
それを受けてぼくとおとねちゃんとリン姉は目配せする。
終えたらすぐに杖をかざし、言葉を紡ぎはじめる。
杖と服が変わっていく中、社会人さんたちの魔法を真似て魔法を紡ぐ。
「会議に舞った言葉の花を、再度咲かせて支援する」
少し時間をかけヒヤシンスが咲くと、会議室は水を打ったように静まり返る。
「社長!」
「え?この人も?」
「うちは社長が複数いるんだ。こちらがCOOであちらがCEO」
社長の負担を減らすために執行や経営、財務など役割分散があるという。
「教育は全員でやっている。慣れた魔法を使うのが上達のコツだ」
COOさんはぼくたちと社会人さんに向け、再度魔法を唱えた。
「養花雨が育み芽吹く若き芽を、家と会社で育てていこう」




