魔法使いの卵たち
コンパクトを開けて手をかざすと、光に包まれる。
光が収まると、ぼくはとんがり帽子とマントと魔法使いの服装に着替えていた。
「みてみてアニーちゃん。どうかなどうかなアニーちゃん」
着替え終えたおとねちゃんが元気よく聞いてくる。
「似合うよおとねちゃん。赤はおとねちゃんにぴったりだね」
「えへへ、ありがとうアニーちゃん。アニーちゃんの青もぴったりよ」
とんがり帽子もマントもトップスのデザインは同じで色だけ変わっている。
アンダーはおとねちゃんとリン姉がスカパン、ぼくはハーフパンツ。
「ありがとう、おとねちゃんもアニーちゃんもお似合いよ」
「そりゃ双子の姉妹だし。ありがとねリン姉」
ぼくはやっぱり恥ずかしくて、リン姉に似合うよとお礼を言ってもじもじする。
「雪よ降れ降れ降り積もれ!みんな遊ぼう!この場所で!」
深く帽子をかぶり直す先誰かの声が聞こえ、白いものが舞い降りた。
「これは、雪?」
「みんな!雪合戦しよう!」
受け止めた雪の結晶が溶けていくのを眺めていると、おとねちゃんが叫ぶ。
雪はすぐに降り積もり、リン姉も雪だるまを作り始める。
スキーをやりだす子も出てくる中、ぼくはせっせと雪うさぎを作り始めた。
「寒さに強い蛍出ろ!雪の中を舞い踊れ!」
誰かの声が響き、目の前でホタルが舞う。その直後、目の前が暗くなる。
舞い散る雪をホタルが照らし、幻想的な空間を作りだす。
「そうだ迷路を作ってみよう!みんなで迷え!ラビリンス!」
また誰かの声が聞こえ、床から雪の壁が勢いよく出現する。
「おとねちゃん?リン姉?みんなーどこー?」
呆然としていたぼくは少しして我に返ると、暗闇の奥の向こうへ呼びかけた。
帰ってくるのは静寂で、怖さと寒さと寂しさとみっつの思いが入り混じる。
視線を落とし涙ぐみ積もった雪を見ていたら、急に明るい光を放つ。
「ロップール?」
「うさっ」
落ち着いて、とロップールが言っている気がして嬉しくてまた涙ぐむ。
気がつくとぼくは、ロップールを両手でやさしく抱きしめていた。
改めて魔法の怖さを知るぼくに、看護師さんと先生が思い浮かぶ。
(魔法は怖いからこそ、どう使うかが大切なんだ……だから!)
誰かが魔法で助けてくれたのなら今度はぼくが助ける番と、一歩を踏み出す。
「行こうロップール、みんなを助けに――ってそうだ!雪ウサギさんも!」
肩に乗ったロップールの頭をなでていると、視線の先に雪ウサギがいた。
この子たちも連れて行こうとロップールに話すと、心地よい返事がくる。
「雪ウサギさん、ついてきて。ぼくと一緒にゴールまで」
杖の光が消えて雪ウサギたちが宙に浮き、周囲を跳ね回る。
迷路を進んでいくと十字路が見つけ、右から左に誰かが駆け抜けた。
両手で杖を胸の前に抱き直し、おびえてすくむ心を励まそうと試みる。
(こういう時は魔法で――ってさっき使っちゃった)
周囲を跳ぶウサギたちが、混乱するぼくの心を癒し安心させてくれた。




