まったくもって、まがわるい
「粉はね、こうふるいにかけてゆっくり落とすのよ」
お母さんがぼくの後ろに立って手を取り実践する。
おとねちゃんはそれを見て、ゆっくりと粉をふるう。
コン。
パキッ。
ぐしゃ。
おとねちゃんの手に取った卵がつぶれる。
「卵はね、こうコンコンってひびを入れてひっくり返して反対側にも入れるの」
前にシイちゃん教えてくれた割り方と一緒だった。
(卵を割るふりをして教えてくれたんだよね)
身振り手振りでシイちゃんがエリーちゃんとぼくに教えてくれた。
お母さんがお昼のかき揚げを作ろうとしたら、洗濯機の音が鳴る。
「ボッポウ、少しお願いね」
白青黄色のマークの消火器の上にとまったボッポウが鳴く。
近くの電気のコードをまとめ、パートナーたちとかき揚げの種をこねる。
こねこねこねこねこねこねこねこねこねこねこねこね。にゃーお。
どこかで子猫たちが鳴く中、楽しくこねているとコンロが気になった。
視線を移すと、ボワッと炎が舞い上がる。
慌てておとねちゃんが水をコップにくみ、鍋にいれた。
「ボッポウ!」
火の勢いが増した瞬間、ボッポウが消火器を使って火を消す。
ぼくが額の汗をぬぐうと肘がコップにあたり、コップが床に落ちていく。
あろうことかコンセントに水がかかり、差してあるプラグに火の手が上がる。
「ボッポウ!」
新しい消火器を構えたボッポウが火を消す。
「え?なんで巻いたコードが燃えるの?」
ボッポウがさらに新しい消火器を向ける。
使った消化器は、すべて中身を出し切るまで使っていた。
「うわーぐちゃぐちゃ……」
「どうしよう。お母さんに楽してほしかったのに」
「大丈夫よアニーちゃん!こんな時こそ魔法で戻すの!」
ロップールたちが持ってきてくれた杖を手に、ぼくたちは花の魔法を紡ぐ。
「ちょっとしおれたお花でも!回復させる新聞紙!」
しおれたお花に新聞紙をまき、深く水を張った花瓶にさすと回復する。
キッチンに新聞紙が舞い、ほんのわずかによくなったところにお母さんが来た。
「時は譜面を戻りゆく」
宙に譜面と文字が出て、音符の位置が巻き戻る。
キッチンも食材も元通りになった。
空になって倒れた消火器の横で、お母さんにごめんなさいをする。
「火をつけたままにして、ごめんなさい」
油を使う場合、少しでも離れるのなら必ず火を消す。
コンセントも水滴やホコリがたまるから、年に一回は抜き差しする。
電気のコードは極力伸ばし、火災にそなえようとお母さんは教えてくれた。