杖と魔法とタンポポと
「あ、母さん」
カエルさんの口調が変わり、視線の先に顔を向けると大きな人がいた。
「僕もう行くね。ありがとう、楽しかったよ」
「あ、ありがとう。ぼくも楽しかった」
遊んでいた子はカエルのぬいぐるみを片づけ始める。
「あ!僕はドキー。自己紹介まだだったよね」
「……アニー。ぼくは、アニー」
「名前で呼ぶのはね、なによりも心に響く魔法なんだって。またねアニーちゃん」
片づけ終えたドギーちゃんは固まるぼくにそう微笑むと、すぐに歩き始める。
「え、あ、あうん。またね、ドギーちゃん」
振り向いたドギーちゃんに手を振ると一瞬立ち止まり、微笑むとまた歩きだす。
「アニーちゃん見っけ!どうしたの?すごく楽しそう」
それからすぐにおとねちゃんがやってきてぼくに言う。
「んとね、知り合った子とね、ぬいぐるみで遊んでいたの」
「だから笑顔なんだね」
おとねちゃんに言われて頬に手を当ててみる。
「お母さんお母さん、赤ちゃん研究室ってなに?」
車が家に到着し、降りるときにお母さんに聞いてみた。
「赤ちゃんやアニーちゃんおとねちゃんぐらいの子を研究しているところよ」
「あそこにいただけだよ?わたしたち」
「「それだけで研究になるのよ。私も気分転換もできるし」
お母さんはおとねちゃんの質問に答えると、車のトランクを開ける。
そこにはどこかで見た細長いケースがふたつあり、おとねちゃんの目が輝く。
「一回だけ魔法が使える杖よ。借りてきたの」
「雲に乗りたいし、空も飛びたいし、おなか一杯食べたいしえーとえーと――」
おとねちゃんと何をしようか相談していると、庭に落ちた二つの影に気づく。
「白いタンポポ集まって」
ぼくとおとねちゃんの声が合わさる。
「これから過ごすこの子たち、二人のお家を作ってよ」
白い綿毛がクッションに、葉っぱと茎が絡まると光って籠に変わり行く。
籠が猫ちぐらに似た形になると、ロップールとポビーは両手をあげ喜んでいた。