冬将軍と春眠と
かけっこが終わると、みんなで手洗い場に行って手を洗う。
その間に先生はポッドに魔法をかけ、お茶を入れたコップを配る。
ぼくたちはそのお茶でガラガラうがいをして、ゴックンと飲み込む。
「目が覚める成分を魔法で消したんだって」
「眠いんなら顔洗おうよ」
「もしくはお昼寝よね」
うがいしながらみんなの声を聴いていると、風が出てきた。
「花冷えね。早くお部屋に戻りましょう」
寒の戻りかな、と思っているぼくをリン姉が正す。
「あったかいような寒いような変な感じ」
廊下のコップ置き場にコップを戻したおとねちゃんが言う。
「季節のバトンの奪い合いかな」
冗談めかしてぼくが口にすると、園長先生がやってきた。
「アニーちゃん、おとねちゃん、リンちゃん。お客さんですよ」
お客さんと聞いておとねちゃんの後ろに隠れ、様子をうかがう。
「どうも、お久しぶりです。実は春の精霊がまた寝てしまいまして」
「それでまた手伝ってほしいの」
冬将軍さんの声がして、その時一緒にいた先生の声が続く。
ぼくたちはそのまま園長先生の隣のお部屋に案内される。
「今は冬の季節を弱めて対応しています」
案内されたお部屋で園長先生と冬将軍さんはお茶を飲む。
「あれ?前回は冬を強めて起こしたんでしょ?」
「はい。今回はそれでも眠りっぱなしのため、どうしたものかと」
おとねちゃんの質問に冬将軍さんはわかる言葉で答えた。
「ほかの春の精霊の方々も、みな寝入っていまして……」
「その原因を探るのね!」
リン姉が興奮気味に話すと園長先生は微笑む。
「はい。今回は駆け出しの魔法使いさんも協力してくださるそうです」
園長先生はさわやかに話し、奥の扉に視線を移す。
すると扉が勢いよく開いた。
「おーほっほっほ!皆様ご機嫌うるわしゅう!」
髪型がドリルの人がぼくたちに声をかける。
「えーっと、どう返すのかな?」
「ごきげん、よう?」
前にドギーちゃんから受け取った言葉を、おとねちゃんに渡す。
「では。くれぐれもお気をつけて」
園長先生に車で送られ、ぼくたちは神社に到着する。
そのあと案内された場所には、しめ縄が巻いてあるサクラの大木があった。
「このサクラはこの神社の御神木なのよ」
先生が簡単に説明すると、冬将軍さんがご神木に手をかざす。
満開に咲くサクラのご神木の表面が波立つ。
「ではまいりましょうか。自分が先陣を切りますので」
おとねちゃん、リン姉、ぼく、先生、駆け出しさんの順でご神木に入っていく。