遅刻した子と悩める子
お母さんたちに送られ、幼稚園に着いたのはお昼過ぎだった。
「回収にうかがいました」
お弁当屋さんが幼稚園から重箱を回収し、トラックに積む。
三段重ねの重箱は園長先生が食べたのだろう。たぶんきっとおそらく。
「こんにちは、リン姉。おとねちゃん、アニーちゃん」
玄関でミコトちゃんと挨拶する。
慣らし保育を終えた子がひとりいると教えてくれた。
その子は今、お外にいてミコトちゃんは紹介するという。
「ぼくは後にするよ。急にいっぱい覚えるの、大変だろうから」
おとねちゃんとリン姉はミコトちゃんとお外に行き、ボール遊びに合流する。
(エリーちゃんとシイちゃんと遊ぼう。今日はなにをしようかな)
たまご組にいる二人と会いに、お部屋の中に入っていく。
「どうしたの?エリーちゃん、シイちゃん」
お部屋の中で二人は気だるそうにため息をついていた。
「こんにちはアニーちゃん。実はね、弟が生まれたの」
悩める声でエリーちゃんが挨拶してくれて、忘れていたぼくも返す。
シイちゃんのところも生まれたらしく、お祝いの言葉を言いそうになった。
げんなりしている二人を見て、言葉を飲み込む。
「お母さんたちとられちゃった……」
寂しげなエリーちゃんとシイちゃんの声が同時に耳に届く。
「ああ、そうそう。魔法の練習はお昼過ぎだぜ……」
シイちゃんが気落ちした声でぼくに言う。
幼稚園は午前中はお勉強で、午後はお昼寝してのびのびと遊ぶ。
魔法の時間はこのどっちかで行っていて、今日は午後からと教えてくれた。
(ここはぼくがなんとかしよう!)
友達のために心を奮い立たせる。
思い立ったが吉日と、ぼくはすぐ行動に移す。
「お茶いる?一息入れようよ」
「ありがとうアニーちゃん」
水でも飲んで落ち着けとはよく言ったもので、少し元気な声が返ってきた。
「あ!そうだ!魔法の時間のお茶のとき、ぼくの分のお菓子も食べる?」
「それはアニーちゃんのよ」
「アニーちゃんも食べて大きくなるんだぜ」
ふたりの元気がまたしぼんでいく。
「それなら先生に相談しようよ」
「もうしたぜ」
「お父さんとお母さんにも言ったわ」
みるみるしおれていく二人の元気を呼び戻そうと、ぼくは声をかけ続ける。
「えとえとえーっと、文字やお絵かき、ぼくがやるよ。そうしたら休めるよ」
「自分でやる」
「うみゅう……またお茶入れてくるね」
困ったに出る言葉を口にして、とぼとぼとお茶のポッドにまた足を運ぶ。