川の向こうへ橋渡り
「アニーちゃんこっち!」
おとねちゃんの声で路地裏へ走り出す。
前方のリン姉とおとねちゃんのペースが急に落ちる。
「ちょっと休憩入れようよ。魔法の時間から動きっぱなしだよ」
今日の魔法の時間はリン姉の占いとおとねちゃんの行動力で突破した。
あの時もリン姉とおとねちゃんは全力で、ぼくはマイペースで走っている。
息の上がった二人の手を取って一緒に路地裏を抜けると、河川敷に出た。
「占いによると、この橋の向こうに見習いさんたちがいるそうよ」
橋の近くでは作業服の人たちがラクダに似た脚立、足場台を組み立てていた。
「よーし、大きくするぞ」
作業服を着た人たちのヘルメットがとんがり帽子に変わりマントを羽織る。
魔法を唱えたのか、足場台は大きくなり川に小さな橋を架けていた。
「よし、作業開始!」
ヘルメットと作業服の姿に戻ると、足場台に足をかけた。
その様子を見ながら道を歩き、橋にたどり着く。
橋の上にはフードをかぶった人がいる。
「こんにちはー!」
頭上でロップールたちが騒ぐ中、リン姉とおとねちゃんが挨拶した。
「どうしたのアニーちゃん。急に私たちの手を取って」
「あの人怪しいよ!晴れているのにフードだよ!」
目を光らせ続けているパートナーたちもしっかりと頷く。
「その通り」
フードの人がぼくの声と様子を見て満足そうな声を出す。
「怪しい人に注意して。一次試験はクリアです。さすがまほヒナ、勘がいい」
「私まほタマ!おとねちゃんとアニーちゃんは、来年まほタマ!」
リン姉の言葉に、フードの人の顔が引きつった。
フード越しからもわかるほどの青筋を立て、道をふさぐ。
「どうしてここにいるんです!早く帰って今すぐに!みんな心配しています!」
フードの人はすごい勢いでまくしたてる。
「もー!私たちは見習いさんの魔法を見たいだけなのに――」
「上流で魔が出たぞー!」
「作業中止!ヨシ!」
向こう岸に指差し作業服の人たちは川を渡ると、魔法使いの衣装になる。
「あの橋使っちゃおう!」
おとねちゃんは橋と道の隙間を通り抜け、河川敷へ向かっていく。
急に強い風が吹き、足場台にいるぼくたちを襲う。
「ふえ?」
ぼくはその風に吹き飛ばされ、転落防止の柵の隙間から勢いよく川に落ちた。
ここ数日の雨で水かさが増したのか、ぼくは押し流されていく。
「アニーちゃん!」
リン姉とおとねちゃんが河川敷を走ってぼくを呼ぶ。
返事をしようとすると、魔の気配を感じた。
「言葉において我願う。流される子を助けろと」