固まるぼくとお約束
看護師さんのぬいぐるみが聴診器を取り出すと、一瞬で消えて首にぶら下げた。
「魔法ってなんでもできちゃうんだね」
「そうね。怖い魔法も上手に使いこなせたら、なんでもできちゃうよ」
「ぼくが生まれたりとか?」
ふっとよぎった疑問をほいっと投げてみる。
「あり得るね。全員の記憶や写真、思い出も作り出すことだってできるんだよ」
看護師さんに代わり、耳ざとい白衣の先生がまじめな顔で答えた。
「そうなの?なら、ぼくどうなるの?」
「大丈夫。こういったときはちゃんと決められているから安心してね」
「存在を認めたほうが手っ取り早いのかもね」
先生の答えに緊張するぼくをみて、看護師さんがおどける。
「だからねアニーちゃん、魔法はみんなのために正しく使うって約束できる?」
先生と看護師さんと約束して、おとねちゃんのところに向かう。
「おとねちゃんもこれから先生に会ってくるからね」
ぼくが答えるとお母さんは困った顔で笑う。
「アニーちゃん、行ってきまーす」
テレビを見ていたおとねちゃんが気づき、駆け寄ってきてお母さんに抱き着く。
行ってらっしゃいと見送るぼくの隣で、ロップールが鞄の中に忍び込む。
入り口には赤ちゃん研究室とある部屋の中には、何人かの子どもが集まっていた。
(なにかあるのかな……行ってみようかな)
足を向けた瞬間、服選びの時の感覚がこみ上げた。
(え?また?なんで?)
集団から注がれる瞳に怖さと恥ずかしさを覚え、体が固まる。
(お母さん……おとねちゃん……)
母さんは困った顔をした理由がわかり、ギュッと目を閉じた。
どれぐらいそうしていただろう。
おそるおそる目を開けると人だかりは消えており、その場所に急ぐ。
(なにがあるのかな……あ!トラのぬいぐるみさん!)
箱にいるトラのパペットに手を伸ばすと、誰かの指に当たった。
視線を移すと、ぼくより背が少し高い子が近くにいる。
譲ろうと手を引くと、その子も同時に手を引いた。
「ど、どうぞ」
声が重なる。
おろおろしているぼくにその子はパペットを手に取り、はいと差し出す。
ぼくが受け取るとその子はにっこり微笑み、また箱に視線を戻した。
(お、お礼を……どうやって言おう?どう話しかけよう?)
緊張で頭の中が真っ白になっていき、二の足を踏む。
その子がカエルのパペットを手に取ったとき、ピンときた。
「ああああありがとう……がお。いい一緒にお話ししようがお」
トラのパペットを顔の前に出して、話しかけた。
「わかったケロ。どんな話をするケロ?」
少し間が開いたあと、カエルのパペットがぼくに答えてくれた。
「えとえとえっと……カエルさん決めて」
精一杯の勇気を出して、カエルさんに答える。
がおをつけるのを忘れたことに気づくのは、しばらくしてからだった。