笑みがこぼれる小さな手
「魔がいるから、ちょっとお願いね」
ぼくたちがお部屋に入るとすぐに、エプロン姿の先生が飛び出す。
ポカンとしていると、赤ちゃんがぐずりだした。
「まずはエプロンしようぜ」
「扉は閉めておいたよ」
シイちゃんとミコトちゃんの声で我に返る。
(なんでドアノブを上にあげると扉が開くの?普通下だよね?)
ドアノブに興味が湧く中、ぼくはエプロンをつけていく。
「どうして泣くの?なんで?」
みんながオロオロする中、ぼくは魔法を唱えようと杖を手に取る。
『魔法は発表会までは内緒よ』
先生の言葉をはたと思い出し、手を止めた。
(えとえとえーっと……そうだ!)
ぼくは近くのベッドにしゃがみ、音の魔法を紡ぐ。
「思い知りたい、赤ちゃんの」
魔法を唱え終えると、赤ちゃんの気持ちが流れ込んできた。
杖をロップールに預け、ベッド近くの踏み台を上り赤ちゃんを抱きあげる。
そして背中をトントンと叩いて体を揺らし、赤ちゃんをあやす。
「さびしかったんだって」
「なんだかお兄ちゃんみたい!あ、お兄ちゃんはねいつも一緒に魔法の――」
練習しているとエリーちゃんが続けたところで、赤ちゃんがまた泣く。
「アニーちゃんはそのまま、赤ちゃんの思いを私たちに教えてね」
リン姉の声があたふたしかけるぼくの耳に入った。
「えとね、えとね、リン姉。赤ちゃんはおなかがすいたんだって」
「積もり積もって集まって、ミルクの入れ方教えてよ」
リン姉もこっそり身を伏せ、言葉の魔法でミルクの入れ方を学んで実行する。
「こっちは……動ける赤ちゃんのお部屋かな。あハイハイして――」
固まるエリーちゃん越しにお部屋を見ると、ロッカーの上に赤ちゃんがいた。
「赤ちゃん守る音になれ」
隠れたおとねちゃんが、落下する赤ちゃんの下に音符のクッションを作りだす。
「まるでムササビだぜ……つたい歩きで外に出ようとするなんてさ」
赤ちゃんを抱きあげてシイちゃんが言う。ミコトちゃんは扉の鍵をかけた。
みんながバタバタと走り回る。
その様子をぼくは杖を持ったロップールと眺めていた。
(なにかできること……ぼくにもなにかできること……)
エリーちゃんが転んだ子をあやす中、ぼくは赤ちゃんたちに目を光らせる。
ひと段落して外にあるポットからお茶をいれ、みんなに手渡す。
そのお茶をシイちゃんとミコトちゃんは一気に飲むと立ち上がった。
「赤ちゃんたちを見てくるぜ」
「みんなはもっと休んでいて。休むのも仕事のうちだよ」
「私も行くよ」
リン姉も立ち上がり、赤ちゃんたちの様子を見に向かう。
ぼくたちの番になり、赤ちゃんの様子を見に行く。
眠っている赤ちゃんが手を伸ばし、指を差し出すと小さな手が握ってくれた。




