思う気持ちと現実と
「お父さんのパートナーって背中に羽の生えた空飛ぶ妖精さんなの?」
「そうだよ。名前はプライトと言ってこれくらいの大きさかな」
お兄ちゃんの手ほどの妖精さんはぼくに似た性格で、すぐに姿を消すという。
仲良くなれるかなと思い、ヒツジのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
「いろんな妖精さんがいるからね、思い込みは世界を狭くしちゃうよ」
先入観と呼ばれるそれは、時として人をたやすく傷つけ誤解を生む。
「どうしたら世界を広くできるの?」
「そうだね……例えば分かった?って聞かれて、分かったって答えたとするよ」
おとねちゃんの言葉にゆっくりとお兄ちゃんは口を開く。
「どのくらい分かっているか、お互いに確認する必要があるよね」
「お話しするの?」
「そうだね。このときに聞き方が強いと相手がおびえちゃうからね。それと――」
帰るのは来月頭になりそうと、お兄ちゃんは重たそうな口を開いた。
「うーん。おじいちゃんのお手伝いもあるから、そっちに合わせたのかな」
朝の話を幼稚園でリン姉に伝えると、少し考えてから自分の意見を話す。
「興味のある所に行くって言ってくれたから、ね?」
リン姉とおとねちゃんを励ましていると、先生が来て魔法の時間が始まった。
ホウキを受け取りに行くとミュリューさんがぼくたちに手渡す。
「ミュリューさんか……ミャリャウさんがよかったな」
研究所でのことを思い出したのか、おとねちゃんがポツリとつぶやく。
「実はね、ミャリャウさんからメッセージを受け取っているの。見る?」
見たい、とぼくたちが言うとミュリューさんは動画を再生する。
「オレ個人としては、同じ人が同じグループを見続けたいと思う」
いつもの笑い声で始まり、ミャリャウさんは最初に自分の意見を口にした。
「それと同時に独り占めするのはどうかな、というのもある。だから――」
画面の中のミャリャウさんは真面目な顔で話す。
「お兄さんは嬉しいな。ミュリューお姉さんの言うことを聞いてくれると」
動画が終わって少しすると、みんなでミュリューさんからホウキを受け取った。
「順番だから、ね」
ミュリューさんはしゃがんで目線を合わせると、斜め前からにっこり微笑む。
「一度にできることはひとつだけ。順番をつけてやっていくのも大切だからね」
元気に返事をしてホウキに乗ると、大空に向かって羽ばたいた。
落っこちては跳ねるが何度も続く中、やがてお茶の時間になる。
「お茶の時間が終わったら、みんなにやってほしいことがあるの」
宝石を配るから交換してね、と先生がおっとりした口調で言う。
「今から渡すボールを地上にあるカゴまで運んでいってほしいのよ」
グループごとにボールが渡され、リン姉が受け取る。
「これからグループごとに地上に送るから、みんな気をつけて行ってきてね」
ぼくたちの番になると、ミュリューさんが来てシルクハットを舞いあげる。
舞い降りた地上には、草がびっしりと生えていた。
ぼくたちの背以上もある草が、行く手を阻む。
近くにある切り株に集まり、ぼくたちは作戦を練り始めた。