逢魔が時の黄昏に
「はじめまして。自分は冬将軍、冬の精霊です」
冬将軍さんはぼくたちと挨拶をしあい、先生とも言葉を交える。
そして状況を伝え始めた。
「春の精霊さん、寝ちゃったの?」
「はい。この豪雪も春の力が弱くなったのが原因でして」
「そこでまほタマにお願いしに来たってわけですね」
先生はそう区切るとぼくたちを見る。
「今年から変わったと聞いてのう」
「変わったってなにが?」
おとねちゃんがぬらりひょんさんに元気よく聞く。
「こういうことは今までは見習いさんたちにお願いしていてのう」
中学生が見習いさんよ、と先生がぬらりひょんさんから説明を引き継ぐ。
「見習いになるとお外で魔法が使えて、できることが一気に増えるの」
「えー、なんでそんな先なの?」
「今は準備期間なの」
幼稚園や小学校で準備をして中学校で本格的に魔法を学ぶ。
中学で優秀な成績を修めた場合、高校で魔法のアルバイトが認められる。
「見習いさんたちが大変だから、まほタマやまほヒナにも白羽の矢が立ったの」
まほヒナはみんなとの交流期間でもあり、まほタマにもお鉢が回ってきた。
「だからこの杖を私たちに?」
「みんなが魔法を使えるためにってばっかり……」
「いろんな見方があるからね。杖にもいろんな理由があるの。それに――」
「早く春の精霊さんを起こしに行こうよ!」
期待しているのよ、先生が言うとおとねちゃんはやる気に満ちた声を上げる。
「そうね。今動けるのはみんなだけだし、お願いしちゃおうか」
寒がりのエリーちゃんはストーブの前に陣取っていた。
「では行くとするかの」
春の精霊さんは今、ぬらりひょんさんの隠れ家で眠っているという。
「着替えたよー。あれ?先生も来るの?」
「ええ。なにかあった時のために、ね」
先生から宝石を受け取ると、ぬらりひょんさんが杖で床を軽くついた。
切り替わった世界で真っ先に瞳に飛び込んできたのは、枯草だった。
枯草の草原を夕方と夜のはざまの薄暗さが包む。
「では案内するかの」
ぬらりひょんさんが提灯を棒にぶら下げて、案内を始める。
冬将軍さんが続き、おとねちゃん、リン姉、ぼく、先生の順で歩く。
「怖いよう……」
カラスの鳴き声や枯草の揺れる音が、ぼくを恐怖に誘い込む。
「そう言えば泣く子や悪い子は食べちゃうぞって神様の御使いさんがいてね――」
「えー!怖いよう怖いよう……そうだ!こんな時は!」
どんどん膨れ上がる怖さを乗り越えるため、ぼくは花の魔法の言葉を紡ぐ。
「スノードロップ、そばにいて」
近くに咲いたスノードロップの花が慰められて、ぼくの心に希望がともる。
揺れる枯れ草の音におびえると、おとねちゃんが早口で花の魔法を紡ぐ。
「ここに咲いてよ、カランコエ」
おとねちゃんは震える手で素早く、カランコエの花をみんなに手渡した。




