兄とホウキとお姉さん
「ミュリュリュリュリュ!今回は私が魔法の世界に案内するわね!」
魔法の時間では、新しい人のミュリューさんがシルクハットを高く投げた。
横に回転した帽子が目線まで落ちてくると、雲の世界に移動していた。
「花よ、花花咲き誇れ!きれいに咲いたその中で!コケモモの木よ集まって!」
「花よ、花花咲き誇れ!きれいに咲いたマンサクよ!杖をホウキにできますか?」
「花よ、花花咲き誇れ!きれいに咲いたその中で!ヒイラギになれぼくの杖!」
ぼくたちの杖がそれぞれの木のホウキに姿を変える。
宝石の光はわずかに明るさが落ちただけだった。
「うん!大成功!」
喜びを分かち合い、大空に向かって今飛び立つ。
「落ちるー!落ちちゃうー!」
ホウキと一緒に空から落ちていく中、朝のお兄ちゃんとの会話が頭をよぎる。
「僕の番だね。まずは大丈夫だってようやくわかったよ」
お兄ちゃんはぼくの中にいたから、いろいろ調べるために海外へ行ったと話す。
「そうだったの?わたしてっきり興味本位で海外に行っちゃったってばっかり」
「おとねちゃんもアニーちゃんも僕には大切だからね」
だからこそ、最先端の知識と技術があるヨーロッパに行く必要があったという。
「たぶんきっとおそらくは『ほぼ確実に』って意味だと思うよ」
お兄ちゃんがお父さんの言っていたことについて教えてくれる。
「言葉を繰り返すのよね。まず最初にとか、最もベストとか」
「返事を返すとか舞を舞うとか歌を歌うとか」
「うん。それらは重ね言葉と言って、気をつけようって言われているものだよ」
おとねちゃんとぼくの言葉に、お兄ちゃんはゆっくり答えた。
「同じ言葉を繰り返すと、意味を強める魔法になるんだよ」
優しくて暖かい柔らかな瞳で、お兄ちゃんはぼくたちに教えてくれた。
ドギーちゃんもお兄ちゃんと同じ目をしていて、気になって聞いてみる。
「その子もお兄ちゃんだったりしてね。僕と同じく」
お母さんが働いている間、ぼくたちの世話はお兄ちゃんがしてくれた。
お父さんがいれば、と思い時間を作っては探していたという。
「どうやったのかって?それはね、こうするのさ――イチリンソウが家に咲く」
お兄ちゃんがもう一人リビングにやってきて、オレンジソーダを配ると消えた。
「やっぱり疲れるね。距離があると」
「すごーい!lこれがお父さんの魔法?」
「母さんの魔法も使えるよ。そうだね……奏でて音を、独奏曲」
お父さんが帰って来るように、あえて英語にしたとお兄ちゃんは話す。
優しい音楽の中、おとねちゃんはオレンジソーダをストローでごくごく飲む。
ぼくはというと、オレンジソーダのしゅわしゅわはじける音と様子を眺める。
「炭酸、抜くね」
お口の中がイタイイタイになるから待っていたことになぜか気づかれた。
テレビから出た手がゆっくりとストローを回し、氷とコップが音を奏でる。
コップの演奏が止まり、ジューズを受け取るとお兄ちゃんにお礼を言う。
「今日は杖を魔法でホウキにして飛ぶんだね。気をつけるんだよ」
おとねちゃんとお兄ちゃんの弾む声も音楽に、ぼくはストローを口にした。