聞くこと教え示すこと
「ごきげんよう、プリンセス」
静寂を破る声に顔を向けると、どこかで見た子がいた。
右足を引き右手を体に添え、左手を横方向へ水平に差し出して頭を下げる。
「ドギーちゃん!?」
お辞儀の後の照れて笑う顔を見て、ぼくはびっくりして声を上げた。
改めて挨拶を交わし、ドギーちゃんと手をつないで少し歩く。
「もう少し大きくなってからやると、みんな見とれちゃうよ。もちろん僕もね」
年中さんか年長さんぐらいからと、ドギーちゃんは優しく教えてくれた。
「うん、わかった。ありがとう。ところでドギーちゃんは男の子?」
「そうだよ。あの挨拶はカテーシーとボウアンドスクレープと言ってね――」
ドギーちゃんはぼくの唐突な質問に優しい笑みを浮かべて答えてくれた。
「そういえばドギーちゃんは上のクラス?まほタマだよね?」
「ぼくはみんなの側だから」
またやらかした。
あまりにあまりな思い込みに、ぼくは頭を抱える。
「大丈夫だよ、アニーちゃん。僕のお父さんもお母さんも妹も魔法使いだから」
頭をポンポンして、ドギーちゃんは優しい口調でぼくに話す。
「大丈夫……なの、それって?」
「うん。魔法が使える家族で僕だけがみんなの側なのはきっと意味があるんだ」
背中もトントンしてくれて、そのリズムにぼくは落ち着いていく。
「魔法使いとみんなをつなぐために、僕は生まれてきたんだろうなって」
「ドギーちゃん……」
「なんてね。これは僕の最初の記憶。黄色髪で青い目の人が教えてくれたこと」
お父さんが頭をよぎり、その頭をドギーちゃんがなでる。
「ぼくの最初の記憶はドギーちゃんと遊んだことだよ」
「ありがとう、アニーちゃん――ってごめん。つい妹をあやす感じで」
今度はエリーちゃんが思い浮かぶ。
大丈夫だよありがとう、と気まずそうなドギーちゃんに答えてほほ笑む。
ドギーちゃんも笑みを返してくれたところで、お母さんの声が聞こえた。
「またねドギーちゃん。今度は一緒にお花とか見ようね」
「うん。またね、アニーちゃん」
「魔法見せてくれてありがとう。これはお礼の服のカードよ」
リン姉が喜びの声を上げ、感謝とともに服のカードを受け取り配り出す。
合体魔法もやって、今メガネの先生が何かを機械に入力している。
「なにか質問あるかな?」
「どうして魔法は一回だけなんですか?」
「どうしてだと思う?」
手を挙げて質問するおとねちゃんに、メガネの先生が答える。
「どうして質問を質問で返すんですか?」
「その質問に意味があるのか、考えてほしいからよ」
リン姉の質問に、メガネの位置を直して先生がきっぱりと言い放つ。
「どこまで考えたか自分の意見もくっつけてから、質問してね」
先生の言ったことを心の中で復唱して、意味を考える。
「ひょっとして魔法の回数を増やす方法があるんですか?」
少しして、考えすぎたのか頭が痛みだす中でぼくはメガネの先生に質問した。
「正解。魔法の回数は増やそうと思えば、増やせるわ」
メガネの先生はにっこりとほほ笑み、ぼくに答えた。