バトンのように受け取って
「あのね、あのね。おとねちゃんがずっと眠ったままなの」
朝の時間、ぼくは少し遅れてお兄ちゃんに会い相談する。
ことの顛末を聞いたお兄ちゃんは、急いでお母さんにと促す。
お母さんが魔法を使っても、おとねちゃんは寝息を立てていた。
「キスしたら起きるかな」
王子様のキスでお姫様が起きたおとぎ話を思い出す。
(お兄ちゃん帰ってきてよう。おとねちゃんの王子様はお兄ちゃんなんだよ)
王子様になろうかと考えている間に、お母さんはおとねちゃんを車に運ぶ。
「お母さんはこれからおとねちゃんを病院に連れて行くわね」
そういうとお母さんはいったんお庭に出てすぐ戻ってきた。
「アニーちゃんが幼稚園に行ってもし起きている子がいたら、これを渡してね」
お母さんはこの間咲いたヒナソウを容器に移し、袋に入れて渡してきた。
ぼくはそれをバトンのように受け取って、幼稚園のカバンの中に入れる。
「え、エリーちゃんだけ?」
エリーちゃんは驚きの声を上げるぼくに挨拶して、状況を聞いてくる。
二人だけで朝の会をやっていると、シイちゃんが遅刻してきた。
「目覚ましの音聞いて耳ふさいだんじゃね?」
「お母さんが病院に行くから早起きしたの」
「エリーちゃんのお母さん、病気なの?」
「さあ。もうすぐお姉ちゃんになるのよって言われた」
「エリーちゃんも?こっちはお兄ちゃんって言われたぜ」
楽しそうに話す二人に、お母さんから渡されたヒナソウを渡す。
いつも賑やかな教室ががらんとしていて、寂しさのあまりつい下を向く。
「先生、ピアノ弾いてよ。音楽を楽しみたいの」
「まずは楽しもうぜ。なにやるにしてもさ」
ピアノの演奏と兄や姉になる二人に励まされ、ぼくは元気を取り戻す。
魔法の時間はミャリャウさんたちもお休みで、その分お昼寝タイムが増えた。




