描いて飛び出す魔法の絵
おとねちゃんが来て出かけようとすると、お母さんも声を上げ代わりに行く。
「ボッポウ、起きて。出かけるよ」
「ボッポウ?」
鳥かごで眠っていたお母さんのパートナーのコノハズクを起こして玄関に戻る。
「いらっしゃいアニーちゃんおとねちゃん」
失礼しますとリン姉のお家にあがる。
リン姉のお母さんとお父さんにも挨拶して、今日は何をするか話し始めた。
「実はね、今日はやってほしいことがあるんだ」
リン姉のお父さんがスケッチブックとくれよんを取り出し、ぼくたちに見せた。
「お絵描き?幼稚園でよくやるよ?」
「そうだね。すてきな絵を描くよね」
リビングにリン姉の描いた絵が飾ってある。
「ただ、このくれよんは魔法のくれよんでね。描いた絵が、ほら」
リン姉のお父さんがスケッチブックにサッカーボールを描く。
その絵をくれよんの後ろで軽く押すと、ボールが飛び出し転がって消えた。
「うわー!わたしもやるー!やりたーい!やらせてー!」
目を輝かせたおとねちゃんがくれよんをねだる。
「はい、おとねちゃんの。これがアニーちゃんので、これがリンちゃんのだよ」
「ありがとー、おじさん!」
「リン姉のお父さん、だよ。おとねちゃん」
失礼に当たるからこんな感じに呼ぼうと、幼稚園の先生が教えてくれた。
さっそくぼくたちはお絵描きをはじめる。
ぼくは家にあるぬいぐるみ、おとねちゃんは食べ物や人形、リン姉は宝石や服。
そして三人ともたまに背景にお花を描く。
(ぼくもおとねちゃんもリン姉もお花が好き。お母さんもリン姉のお母さんも)
お母さんがリン姉のお母さんと知り合えたのも、お花が理由だった。
ウサギとクマとネコとイヌとイルカのぬいぐるみを書き終え、顔を上げる。
ちょうどおとねちゃんが人形とボールを出し終えていた。
(黒くて長い髪がお母さん、白い髪のおじいちゃん、それとお兄ちゃんと――)
ぼくとおとねちゃんとあともう一人、黄色い髪で青い瞳の大人が描かれていた。
「このくれよんには、もうひとつ魔法があってね」
ぬいぐるみが消えたタイミングで、リン姉のお父さんが話しかけてきた。
「相手が着たいと言ってくれたら、描いた服を着させることができるんだ」
その言葉を聞いた瞬間、リン姉とおとねちゃんが相互に着たいと言う。
直後に二人の目線がぼくに向き、合わせる。
お絵描き会はこうしてお着替え会へと姿を変えた。
おとねちゃんリン姉ぼくの順にぐるぐる回り、またぼくの番になる。
「アニーちゃんの黄色い髪には青が似合うよねー」
「赤も似合うよ。リボンつけようよリボン」
今、ぼくが着ているのはフリルのついた水色のエプロンドレス。
それにおとねちゃんが書き加えた大きな赤いリボンが頭の上に現れる。
「恥ずかしいよ……」
「どうして?」
「目立つから恥ずかしいの!」
聞いてきたおとねちゃんに言い返す。
するとリン姉は何かひらめいたのか、おとねちゃんの耳元でささやく。