朝に話そうあったこと
「――って感じかな。はじめて魔法使ったときは」
おとねちゃんが画面先のお兄ちゃんたちに、先日の迷路のことを話していた。
今日はお休みで今は朝。宿泊先に着いたお兄ちゃんたちと、オンライン会話中。
話が迷路のことになると、あの日のことが脳裏に去来する。
(あのあと雪うさぎさんたちも消えちゃってしんみりしちゃったな)
先生が写真を撮ってくれたおかげで、雪ウサギさんたちとはいつでも会える。
魔法の杖の光が消えた子から助けると、先生たちは決めていたと言う。
(おとねちゃん、本当に楽しそう)
お兄ちゃんとおとねちゃんの話が歌となって、ついうとうとと船をこぐ。
「お兄ちゃんのパートナーは翼の生えたお馬さんなんだね。おじいちゃんは?」
「わしの頃は一人じゃったよ」
何でもかんでも自己責任の時代だったと、おじいちゃんは揺り椅子に座る。
「アニーちゃんたちは大丈夫かの?しばらく三人だけじゃが」
急に話を振られ、ドギマギするぼくの肩にそっと手を置きお母さんが答える。
お兄ちゃんのパートナーのペガがヒヒンと鳴いて、ぼくを励ます。
「ひとつ聞きたくての。ポビーはどうしてクマーって鳴くんじゃ?」
「本物のクマ怖いもん」
ロップールもポビーにあわせているのだろう。
おじいちゃんが頷いたところで、ボーンという音が聞こえる。
近くの時計が、日付が変わったことを教えてくれた。
「わしたちはそろそろ眠るよ。次からはどうするの?朝早くてもよいか?」
「うん、平気。お日様が昇るころ?」
「それくらいじゃと助かるの。アニーちゃんも大丈夫かの?」
また急に話を振られ、しどろもどろに答える。ちゃんと話は聞いておこう。
「おやすみなさい。また明日」
ぼくたちの魔法のあと、お兄ちゃんは画面から手を伸ばし頭をなでてくれた。
「さて、今日は一日晴れの予報。遊びに行こうか、リンちゃんの家に」
「はーい!ってリュック忘れた!持ってくる!」
言うが早いか、おとねちゃんはバタバタとリビングを飛び出した
(いざとなったらお兄ちゃんの記憶で助けよう――ってあれ?)
代わりを務めようとお兄ちゃんがしていたことを探ってみる。
どれだけ思い出そうとしても、なぜかすっかり忘れていた。
「どうしたの、アニーちゃん。悩みごと?」
「んとねんとね。お兄ちゃんの代わりをしたくて記憶を探検中なの」
「お兄ちゃんの記憶はお兄ちゃんのだからね。どうして記憶がいるの?」
「みんなを助けるの!お兄ちゃんっぽく、兄っぽく!」
「アニーちゃん、名前で遊ぶのはお母さんどうかと思うの」
兄とアニーで遊んでいると思ったらしく、強めの口調でお母さんはぼくに言う。
「ならお姉ちゃんっぽく、姉っぽく!」
「アニーちゃんの本名はアネットでしょ?だからやっぱり名前で遊んでいるわね」
がっかりと肩を落とす。
ちなみに。おとねちゃんは「桜桃音」が本名。
アニーちゃはアニーちゃんらしくね、と母さんは優しくお抱きしめてくれた。