魔法の日々とプロローグ
魔法が見つかった。
世界で同時に、複数の国で発見されてから安定するまで、長い時間がかかった。
「今日めでたく入学を迎えた一年生の皆さんは――」
体育館の舞台の上で、校長先生が入学の祝辞を続けている。
(校長先生の話ってなんでこんなに長いんだろう……)
切れそうな集中力を維持しつつ、僕は話に耳を傾けた。
「今日はこれで終わります。高校生の自覚と責任を持って行動してくださいね」
入学式を終えて教室に戻り、担任の先生がホームルームの終わりを告げる。
「帰ろうぜ」
中学時代からの友人が声をかけてきてくれた。
「そうだね。帰ろう」
友人の誘いに乗り、自転車乗り場まで一緒に向かう。
家に帰り、母と妹と食事をして、洗い物を済ませる。
「アルバイト先に挨拶してくるよ。行ってきます」
なるべく早く帰るからと、ぐずつく妹を宥めて自電車に乗り出発した。
「手続きは以上となります。期待していますね、アーニーさんの魔法」
アルバイト先で生徒手帳を見せて、手続きを終える。
とんがり帽子とマントを着た受付の人に渡すと、笑顔も挨拶もくれた。
アルバイト先を後にして、近くの自動販売機でスポーツドリンクを買う。
「春、か」
公園、遊歩道、桜並木、あちらこちらで春の気配がした。
「そうだ、桜を見に行こう」
夕暮れで空が暗くなりはじめたころ、桜並木まで足を延ばす。
(父さんどこに行ったんだろう……)
中学に入って妹が生まれたころに、父さんは仕事でどこかに出かけた。
それからというもの、僕と母さんと妹の三人で暮らしている。
(僕だって遊びたいのに、父さんが出かけっぱなしじゃなあ……)
妹の世話に追われた中学時代を思い出し、空を見上げる。
「流れ星……そうだ!」
夕闇に染まる空の下、風に舞い散る桜の中で少し待ち、父に会いたいと願う。
「お店で何か買って帰ろうか」
自転車から降りて桜並木に点在するお店をめぐり、適当に買い物を済ませる。
「お兄さん、何か悩みがあったとしたら飲んでみるかい、この薬」
帰り際にのどが渇きお店で飲み物を買うと、店員さんが僕に小瓶を見せてきた。
「願いの叶う魔法の薬、こいつはそれの試薬品」
店員さんは飲んでくれる人を募集中と言って、書類を見せてきた。
(叶うかどうかは運次第、願いの内容によっては世界が滅びるかも、あとは――)
代金は無料と明記されている書類に目を通す。
(父さんに会えるなら、飲んでみるかな)
書類に願い事を書き、小瓶を開けて魔法の薬を一気飲みして家路を急ぐ。
「お兄ちゃん、ずっと一緒にいてよ」
「そうだね、おとねちゃんがそう望むなら、努力するよ」
カーテンの隙間から流れ星と満月が見える中、僕は妹と一緒に眠りに落ちた。