第9話「草原の風と鎌」
修繕の終わった、武器と防具を受け取りに行った。
定期的な手入れをする事で、装備を長持ちさせる事もできるのだ。
防具屋の主人ナガルの勧めで、今まで使い続けた冒険者の防着を下取りに出し、キオウと同じ革鎧を購入する。
ナガル「うん、これで鎧もマシになったね。ただ、過信はしないでおくれよ。」
「ああ、解っているつもりだよ。」
革鎧90シルバー。 冒険者の防着の下取りは10シルバーになった。
キオウの革鎧は、深緑に染めてあったが、自分の革鎧は黒く染めてある。
真新しい防具に身を包み、ギルドに向かう。
ギルドには、既にキオウもナルルガも来ていた。
今日も依頼をと思うが、その前に久し振りに各自能力判定をして貰う事にする。
自分は、
「戦士Lv.11」
「斧術Lv.10」
「棍術Lv.7」
「水魔法Lv.7」
「地魔法Lv.5」
キオウは、
「戦士Lv.13」
「槍術Lv.11」
「剣術Lv.7」
「風魔法Lv.4」
ナルルガは、
「魔術師Lv.11」
「杖術Lv.5」
「火魔法Lv.12」
「風魔法Lv.10」
各自各種の技術が、レベルアップしていた。
何時の間にか、冒険者ランクも1つ上がり、Eランクになっていた。
これならば、もう少し上のレベルの依頼も受けられるようになる。
だが、3人組みなので、前回の一角鬼のような数の多い対象は外した方が良いだろう。
何か、手頃な依頼は無いものかな?
マサキ「そうですね。皆さんのレベル、人数などを考えますと。ああ、これなんかどうです?」
マサキが、1つの案件を提示して来た。
マサキ「対象は、ダンビラカマキリです。数日前から、街道の周辺で、数匹が目撃されていますので、その討伐をお願いします。」
ダンビラカマキリとは、大きな段平のような幅広の鎌を持つ大型の昆虫型の魔獣だ。
大きさは2m強、人よりもサイズは大きい。
肉食で、家畜だけでなく、人を襲う事もある。
今は、まだ被害は出ていないようだが、住み着かれると厄介な相手ではある。
大きな鎌を持っているので、町人や行商人では遭遇したらひとたまりもない。
そんな大型昆虫が、何匹か町をつなぐ街道沿いに出現しているようだ。
マサキ「勿論、討伐は1匹だけでも構いませんが、できる事ならば、何匹かお願いします。多分、3~5匹程度はいると思いますので。ただ、攻撃力もあり、動きも素早いですから、気を付けて下さいね。」
「解りました。では、それを今日は受けます。」
ダンビラカマキリの討伐依頼を受注し、ギルドを後にする。
隊形は、何時も通りに自分とキオウが左右に並んで先に立ち、後からナルルガが続く。
この隊形にも慣れたものだ。
だが、まだナルルガからの合格の通知は無い。
それでも、以前より、歩く時の距離が縮まっている。
数ヵ月前に、オルタナの町へと自分がやって来た街道を今は逆方向に進んで行く。
町を出て、しばらくは、お馴染の畑や牧草地の風景が街道の両側に続く。
冒険者となる前に住み込みで働いていた、ヤスタの畑も見えて来た。
ヤスタが、今日も畑で作業をしている。
「ヤスタさん、久し振りです。」
ヤスタ「おお、サダ君、元気にしてるかい?」
「はい、お陰様で。」
ヤスタ「これから、仕事かな?」
「ええ、今日は、ダンビラカマキリを倒しに行く途中で。」
ヤスタ「そいつは大変だな。サダ君も、お仲間さんも気を付けてな。奴らに住み着かれると、ワシらもおちおち畑仕事もできなくなるから、よろしくな。」
「はい、頑張ります。」
ヤスタも他の農夫らも、元気そうで良かった。
いつの間にか、自分達も誰かに頼られる存在になって来たのかな?
だとしたら、少し嬉しい。
それから、1時間も歩くと、畑や人の営みの形跡は無くなり、ただ草原が広がっているだけだ。
多少の起伏はあるが、なだらかな草原が広がっている。
キオウ「なかなか、見付からないもんだな。」
「そんなものだろ。もう少し、先に行ってみよう。」
更に歩き続けると、草原を吹き渡る風の音に混ざって、何かが聞こえて来る。
ナルルガ「風、それにしては変ね。」
「本当だ。風に似ている音だけど、少し違う。」
最初は気のせいかと思ったが、確かに聞こえる。
風を割くような音の響きが、こちらに近付いて来るようだ。
聞き慣れないその音から、獲物が近付いていると直観した。
キオウ「やっと、お出ましらしいな。」
武器を構えて、音の響いてくる方向へ備える。
こげ茶色の何か大きな物が、向かって飛んで来るのが見えた。
大きな逆三角形の頭に、大きな翼のようにも見える鎌を左右に広げた大型のカマキリだ。
そんな生き物が草原の中、こちらの20m程先に音も無く降り立つ。
そして、両腕の幅広の鎌を構えて、こちらを見詰めているようだ。
「チッッ、チッッ」鳴き声なのだろうか?
人の背丈よりも高いそれが、音もなく「すっ」と草の中を近付いて来る。
その大きな鎌を振りかざしながら。
ナルルガの火球が放たれるが、すっと横に避けてかわす。
火球を撃ち出すよりも、動きが早い。
ナルルガ「こいつ、デカイ癖に、素早いわね。」
すかさず、風の刃の呪文を放つナルルガ。
これは当たったが、致命傷を与える程ではない。
左から自分が、右からキオウが襲い掛かる。
2人共、最初の一撃は鎌に弾かれる。
キオウ「何だ? 硬いぞ、この鎌は。」
「こっちもダメだ。」
2人相手でも難なく対応して来るのだ。
手強い相手だ。
3人と1匹の攻防が続く。
ナルルガの風の刃で責め立て、キオウと2人で切り掛かる。
鉄斧で鎌を叩き割ろうとしてみたが、一角鬼の錆びたちゃちな武器よりも頑丈で、効果は無い。
キオウの手槍による連続突きも、なかなか鎌の防御をすり抜ける事ができない。
奴の鎌の動きも体の動きも素早いので、なかなかにダメ―ジを重ねられないのだ。
思い付いた事があるので、ナルルガに伝える。
「魔法で脚を狙ってくれ!」
脚の動きも早いが、3撃目の風呪文で、その脚を1本捉える。
切断こそできないが、黄色い体液が脚から零れ出る。
キオウも手槍での攻撃から、風の刃に切り替えて奴の脚に向けて放つ。
風の刃の脚への集中攻撃で、1本を切断する。
続いて2本目の切断をすると、カマキリの動きが鈍る。
もはや、回避は難しくなっただろう。
だが、あの鎌は健在だ。
一撃を喰らえば、致命傷になりかねない。
ばったばたと、両腕の鎌を振り回す。
キオウの槍先が、鎌の根本の関節部位に突き刺さる。
流石に、関節部は頑丈に出来ている訳ではない。
キオウ「これは、どうだ?」
続けて幾度も関節部を狙って、槍が繰り出される。
その内に、鎌の重さを支えきれなくなり、だらんと鎌が垂れ下がる。
右側、カマキリにとっての左側の防御が崩れる。
後は、責め立てるだけだ。
残った右側の鎌を左右に振って、こちらの攻撃を避けようとするが、2人を同時に相手にする事は難しい。
しばらくして、カマキリは動きを止めた。
討伐の証に、その2本の触覚を切り取った。
少しの休憩を取り、次の獲物を探す。
「おっ、また来たぞ。」
また、あの風を切る音が聞こえて来る。
武器を構え、備える。
その日、草原の街道を歩き回り、合計で4匹のダンビラカマキリを葬った。
日が暮れる前に町に戻る事にする。
報酬は120シルバー。2匹目からの追加報酬で更に150シルバー受け取った。
1人90シルバーの取り分だ。
キオウ「ちょっと、手強い相手だったが、無事に終ったな。」
「ああ、3人の連携も、悪くなかったよ。」
ナルルガ「・・・・・・。」
帰り際、不意にナルルガが一言「合格」と言って去って行った。
彼女は後ろを振り向きもせずに、宿屋の方にすたすたと歩いて行く。
キオウと2人で顔を見合わせた。
「やったな」どちらともなく、声が出た。
その後、キオウと2人だけで、飯屋で食事をした。
お祝いではないが、やっと彼女に認められたのが嬉しかった。
キオウは、よく笑う。
人の冗談でもよく笑うが、自分で話しながらも自分の話で笑い出す。
飲み食いするには、こんな奴と一緒ならば楽しい。
互いの生まれ育った環境も、似たような物だ。
よく、昔の思い出話を語り合った。
子供の頃や、村での生活や遊びの事。
その内容も、共通点が多い。
何だか、ずっと昔からの知り合いだった気もして来る。
こういう奴と組めた事は、幸せなんだなと思う。
そして、自分の記憶が随分と昔まで思い出せるのだが、やっぱりこの2年の事は、何故かすっかり頭の中から消えている。
まあ、今は、ナルルガが自分達を仲間だと認めてくれただけで、満足しよう。
ナルルガも、口や態度はちょっと癖があるが、しっかり働いてくれるからありがたい。
魔法の力も、頼もしい。
あれで、もうちょっと打ち解けてくれたら、最高の仲間なんだけど。
いや、充分に最高な仲間なのだが。
サダと久し振りに、2人で飯を喰う。
こいつとも、付き合いが長くなりつつある。
最初は、頼りない所もあったが、今では頼りになる相棒だ。
こいつがいれば、安心だ。
たまに、寂しげな表情を浮かべる時があるのが、気になるが。
そして、ナルルガだ。
これも長かったが、やっと俺達も認められる日が来た。
彼女も頼りになる人だ。
性格の方は、アレだと思うけど、魔術師はそんな物なのかもな。
可愛いと思うけど、何か近寄らせてくれない雰囲気がある。
俺、結構、タイプなんだけどな。
知的な女性もいいもんだ。