表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/232

第89話「魔獣の歌」

 ケルアンとネアンの聞き取りは、まだまだ続いている。

彼らから聞き出す情報は膨大であり、迷宮や歴史等の謎であった部分を埋める為に重要な事も多い

ケルアンは、失われた魔法に関する知識も備えている。

そして、ネアンという存在が、人間らにとっての脅威となる事態を含んでいた。

その事を彼女自身に確かめるのは酷であるから、それはケルアンに聞く事になった。


ケルアン「そうじゃな、ネアン以外にも2人の妖戦鬼が儂によく会いに来ていたよ。勿論、その2人も言葉が解る。」

そう、懸念されていたのは、妖戦鬼にネアン以外にも人間らの言葉、共通語を理解する者がいるかどうかだ。

ケルアン「その2人も神官じゃ。その他の者が、言葉を習っているかまでは解らん。そもそも、最初は儂が妖精族である故に、彼らも近付いて来なかったのだ。それが、長く接している内に、話し合うようになったのじゃ。ネアンも、あそこまで喋れるようになるまでに、数年は掛かったと思うぞ。」

その神官以外にも、共通語を理解する奴はいるのだろうか?


ケルアン「その心配は、無いと思うぞい。儂の言葉は、彼らにとっては敵対する妖精族のそれだからな。奴らは毛嫌いして学びはしないだろう。」

だが、妖戦鬼も、間違いなく独自の言葉を持って使っている。

その知能も、人間族や妖精族とそれ程の差は無いだろう。

ケルアン「彼らの言葉は、妖精族の古語から派生した物だ。故に、妖精族の言葉に近い部分もある。だから、彼らは妖精族の前では極力話さないようにしている。」

一先ず、妖戦鬼らに共通語が広がってはいないようではあるが、今後の事は解らない。

ケルアン「儂も、多くの妖戦鬼と接して来た訳ではない。彼らの事は、よく解らない事も多いぞ。」


 ネアンの方だが、彼女は大人しく伯爵の城館で生活している。

彼女は神官で、しかもほとんど戦闘などには参加して来なかったようで、元から穏やかな性格なのかもしれない。

ただ、その頭の角は目立つので、常に帽子を被って隠すように言ってある。

監視付きではあるが、城館内はある程度に自由に行き来できるようにしていた。

彼女にとって、地上のあらゆる事が物珍しいようだ。

植物や鳥など、見る物全てに興味を示した。

特に、空の変化や外の風景は、いつまでも眺めている事が多い。

ネアン「地上、不思議、たくさんあろ。奇麗なもん多ひ。」

世話をする、女中らとも楽し気に話している。

仲間達とも、特に女性陣らとは、普通に接している。

特に、イルネは同じ城館で暮らしているからか、仲は良いようだ。

そして、マレイナとも。

こうして見ると、彼女が魔獣の仲間である事が信じられなくなって来る。


また、ネアンは1人になると、外を眺めながら唄を謳っている。

その言葉の意味は解らないが、そんな文化も彼女らが持っている事に驚く。

「その歌は、何の歌なんだい?」

ネアン「これ、仲間達の歌、仲いい人、思う時、歌いまう。」

彼女も仲間らが恋しいのかもしれない。

そして、また外の風景を眺めながら、低く美しい声で歌う。

ネアン「るぅ~ひ なくぅ~ら ふぇるかなみぃ~ けるなこうしけるなくり~」

そんな風に自分には、その歌が聞こえた。

意味は全く解らないが、そのゆっくりとしたリズムが、心地よく聞こえる。

こんな歌を作る相手ならば、仲良くなれそうにも思えて来る。

歌い続けるネアンの姿を見続けた。

歌の響きも美しいが、ネアンも奇麗に思える。


 少しばかり迷宮から遠ざかっていたが、内部では問題が起きつつあるようだ。

自分達が見付けた神殿、廃墟へつながる場所に、他の冒険者らも進出を始めていた。

そうなると、妖戦鬼らとの接触の機会も増え始めている。

奴らも、神殿の周囲を守る為に、警戒を強めているらしい。

今までに無いような、連中の待ち伏せを受ける事が増えているとか。

あの林などが、荒れる事が無ければ良いのだが。

神殿の周囲の情報公開が早過ぎたか?

だが、あそこにつながる迷宮内の入口など、直ぐに他の冒険者に発見されただろう。

妖戦鬼らの抵抗が、余計に冒険者らの対抗心、そしてまだ見ぬお宝への期待感を煽っているようだ。

ある意味で、冒険者の悪い面が作用してしまっている。

まだ冒険者らは、妖戦鬼らが生活している場所へは達していないようだが、それも時間の問題であろう。

また、狗毛鬼との闘争のような事にならなければ良いのだが。


 それ以外に、気になる事もある。

ケルアンは、魔獣を魔族が呼び寄せると言った。

自分達が深層の裏側とも言うべき、ガノ山から入り込んだ場所で見付けた封印された魔族らが、迷宮内の魔獣が発生する原因なのだろうか?

それにしては、上層や中層に出没する魔獣には、場所が遠過ぎるように思える。

一角鬼ら、余り強くはない魔獣らが、地龍が跋扈するような場所から歩いて上層まで来ているのだろうか?

もしかして、迷宮内のもっと浅い場所にも、別の魔族が封印されていないのか?

そんな場所は、今まで見付かってはいない。

だが、新たに発見された神殿の周辺はどうだろうか?

見付けた魔族を不用意に、発見した冒険者が解き放つような事が無ければ良いのだが。


 しばらく、迷宮に入ってはいなかったが、自分達も向かう事にした。

迷宮に潜るとなると、やはり気になるのはあの神殿の先だ。

「まずは、あの神殿に向かおう。けど、そこから廃墟へは向かわずに別の場所に行こう。」

キオウ「そうだな。廃墟へ向かうルート以外は、まだ行ってはいないからな。」

マレイナ「また、変わった物があるかも。」

ナルルガ「その可能性もあるわね。」

イルネ「妖戦鬼がいない場所なら、いいわね。」

まずは、神殿へと向かう。

だが、あの辺りは、今や妖戦鬼と摩擦が強まっているので、注意した方が良いだろう。


神殿のある空間へと到達した。

今日も、ここの天井に謎の発光する物が蠢いていて明るい。

何度見ても、異様な光景に見える。

シダ林へつながる階段を降りたが、神殿の方向には進まずに空間の壁沿いに進み、開いた洞窟へと向かう。

神殿に向かわないからか、妖戦鬼の待ち伏せはないようだ。

マレイナ「この方角なら、何もいないよ。」

マレイナが感知する範囲に、不審な物も無いようだ。

そして、空洞の壁面に開いた洞窟に達した。

洞窟内は暗いが、その先はあるようだ。

ランタンで前方を照らしながら、中を進んで行く。

ここがまた、別の場所へと通じていると良いのだが。


洞窟を進んで行くと、僅かながら登り道になっている。

キオウ「何だ、深層へ向かってはいないのか?」

ナルルガ「この先は、ハズレなのかしら?」

「それでも、確かめてみよう。」

しばらく進んで行くと、少しばかり広がっている場所に出た。

岩が剥き出しの壁面を観察してみる。

「ここに、何か埋まっていそうだな。少し掘ってみるか?」

鉱石でも埋まっているかと思い、ハンマーや道具を取り出すと壁を掘り始めて行く。

少し掘ってみると、

「うん、出て来た。」

加工すれば、武器などの材料になる黒鉄鉱など何種類かの鉱石が掘り出せた。

そこで、しばらく掘り続けていた。

マレイナ「何か、奥の方から来るよ。」

採掘の音を聞き付けた、魔獣だろうか?

採掘を中断し、道具を武器に持ち替える。


武器を構え待ち構えていると、現れたのは大角鬼の一団だった。

相手が妖戦鬼ではない事に、少しほっとした。

大角鬼へと剣を叩き付ける。

大角鬼らも力戦したが、残念ながら自分達の敵ではない。

数分の内に、8匹の大角鬼を倒した。

奴らが出て来たからには、この先も続いているようだ。

採掘を取り止め、奥へと更に進む。


再び狭まった洞窟を進むと、またその先が広がっている。

今回は、それなりに広がった空洞のようだ。

だが、それ程に天井は高くはない。

高さは5m程だろうか。

天井の低い空間が横に広がっているようだ。

天井から水滴が落ちて来た。

キオウ「冷てっ。水が落ちて来たぞ。」

そのキオウの声が空間に響く。

水滴は、何度も落ちて来る。

そして、ランタンの光が床に溜まった水を照らした。

水溜まり程度ではない。

そこには、地底湖が広がっていた。

キオウ「また、湖か。水竜とかいるのかな?」

「そうかもしれない。用心しよう。」

地底湖の畔、水の来ない場所を探して進む。


キオウ「何か、聞こえたか?」

「そう言えば、水の音がしたような。」

水面へランプを向けた。

(あれは?)

水の中から、何か表面がつるりとした物が突き出ていた。

「響音貝だ!」

空洞全体に洞穴貝の出す大音響が響いて行く。

萎えそうな気力を振り絞ると、地底湖へ入り込み、武器を突き刺す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ