第85話「迷宮の古神殿」
迷宮内で、崩れた壁を見付け、その先にある通路を進んで来た。
着いた先は、迷宮内の林、そして、今は古びた神殿が目の前にあった。
キオウ「何で、こんな所に神殿なんかあるんだ? 誰がここに作ったんだろう?」
フォド「見当も付きませんね。中に入ってみましょうか?」
神殿の階段を登る。
とても、古い時代に作られた神殿のようだが、いつの時代の物なのか見当も付かない。
屋根を支える柱の奥に、本殿のような空間があるようだ。
神殿の階段を登ると、周囲を見回せた。
この空間は、ほぼ円形のようだ。
直径で500m以上はあるのか?
周囲は岩壁で、まるで大きな穴の中にいるように感じる。
その円形の中心に神殿があり、周囲はシダ林になっている。
上を見てみると、高さは30m以上はあるのだろうか?
天井そのものは、渦巻く光る物が覆っているので、見る事はできない。
上から暑さは感じないので、太陽の光が届いているのでは無さそうだ。
マレイナ「何だろうね、あの明るいのは。」
イルネ「ここが魔獣の巣窟、という訳でもなさそうね。」
神殿の階段の下を大ネズミの仲間が数匹、横切って行った。
「あんな、小型の獣も、ここにはいるのか?」
マレイナ「林の中に、生き物の気配も沢山するよ。」
キオウ「大ネズミは、どこにでもいるけどな。」
神殿の奥を見てみよう。
柱の並ぶ廊下を進むと、内部の大きな空間に達した。
この神殿の本殿のような所だろう。
そこに祀られる、神々の祭壇。
複数の祭壇がある。
1つ、2つ、3つ、4つ、5つ?
神を祀る祭壇が、そこには5つあった。
フォド「そんなバカな! 何で、5つも?」
神官のフォドが驚くのは、当然だろう。
他の仲間も、珍しい物を見るように、5つの祭壇を見比べている。
普通、人間族や妖精族、その他の種族が祀る神は、四柱の主神である。
そして、自分達は、魔族らとの関りから、彼らが崇める5番目の神の存在を知った。
四柱の主神と邪神が、同じ神殿に祀られるている場所など、見た事も聞いた事も無い。
祭壇を調べてみても、それぞれの神を祀っているようだ。
5つの台座に、それぞれの神を象徴する生き物を模った小さな石像がある。
東の神の鹿。
南の神の鷹。
西の神の狼。
北の神の狐。
そして、もう1つの神の台座には、蛇。
邪神の象徴は、蛇のようだ。
五柱の神々が、同格に扱われている。
(もしかして?)
ある予感が、頭の中を過ぎった。
かつては、邪神も等しく四主神と共に祀られていたのではと。
本殿の中を調べてみた。
キオウ「何も無いな。何か、お宝でもあるかと思ったけど。」
ナルルガ「そんな場所じゃないようね。奇麗にしてあるけど。変な臭いもしないのはいいわね。」
神殿の床も、全ての台座も奇麗に清掃されており、誰かが出入りしているようだ。
(こんな場所で、誰が?)
いや、そんな奴は、魔獣しかいない。
妖戦鬼などが、ここを守っているのだろう。
奴らが邪神だけでなく、四主神まで祀るのか?
それは、何故なのだろうか?
だが、何も手掛かりは無い。
本殿から表へと出よう。
本殿から神殿の正面へと移動した。
マレイナ「何か、来るよ。」
咄嗟に、神殿の柱に身体を隠した。
灰色の長衣を着た2人組が、神殿の階段を登って来る。
階段を登り切った相手の顔が見えた。
妖戦鬼だ。
彼らも驚いたように、こちらを見詰める。
(どうする? こいつらを切るか?)
だが、奴らは、こちらを攻撃するような素振りを見せない。
武器らしき物も、短い木の杖を持っているだけだ。
奴らは、神官か魔術師か?
しばらく、互いに見詰め合っていた。
無意識に、手が武器へと伸びる。
(さて、どうしようか?)
すると、2匹の妖戦鬼が、頭を下げると神殿の奥へと入って行った。
2匹の背中を目で追った。
キオウ「どうする? あいつらを?」
「そうだな。見られたのは面倒だけど、手向かっても来ない奴を切るのはな。」
イルネ「ここは、そのままにしておきましょう。でも、これで奴らが出入りしているのは、間違いないようね。」
神殿から離れ、シダ林の方を捜索してみる。
途中、林の中には、池や流れがある。
小振りではあったが、猪の姿もあった。
ここでは、様々な生き物が生息できる環境がある。
林を横切り、空洞の端へと来た。
今度は、その外周に沿って歩く。
何カ所かに、別の場所へと続く洞窟があった。
また、更に迷宮の中に分岐しているようだ。
「この先を見てみるか?」
キオウ「いや、今日は、ここまでにしておこう。洞窟の中は、次にしよう。」
今回は、ここの存在を確認できただけで、よしとしよう。
通路を引き返す事にした。
そして、もう1つ気になる事を確かめておこう。
それは、この通路と迷宮の洞窟に繋がった場所の反対側だ。
自分達が通路に入って来た穴の開いた場所を過ぎて、今度は反対の通路をそのままに進む。
途中、何度か進む方向を変えたが、その先も1本道だ。
やがて、通路は行き止まりになった。
行き止まりの壁を調べると、
マレイナ「あった。ここに仕掛けがあるよ。」
壁のこちら側に、留め金のような仕組みがあり、隠し扉のような物があった。
解除して、扉を開けると、反対側は小部屋のような場所であった。
小部屋側からは、留め金が外せないようになっていた。
マレイナ「ここも、迷宮の中みたいだね。」
小部屋から、また別の通路へと出た。
キオウ「何となく、見覚えがあるかな?」
それもそうだった。
そこは、別の迷宮内の一部に繋がっていた。
その地域も、何度も通った事のある場所だ。
入って来たのとは違う場所から迷宮を抜け出すと、街へと戻った。
報告の為に、ギルドに寄る。
ヘルガ「えっ? 昨日の音の正体が解ったんですか?」
「ええ、多分。そうかと。」
ヘルガに、今日の体験を話した。
ヘルガ「そう、そんな空間があったのね。」
「迷宮内を明るくしていた物の正体って解ります?」
ヘルガ「そうね。記録を調べてみないと、私も知らないわ。」
イルネ「聞いた事の無い物だから、ヘルガが知らないのも当然かしら。」
キオウ「迷宮って、まだまだ解らない事だらけだな。」
ヘルガ「その林の事は、公表しても良いのかしら。」
「ええ、別に独占しても仕方ないと思うので。」
マレイナ「でも、あの林は、荒して欲しくは無いかな? 奇麗な所だったし。」
ヘルガ「そうね。植物の過剰な伐採とかは、禁じておくわ。」
それよりも、あの場所は、迷宮内でもそれなりの深い場所に達していたはずだ。
あの空洞から続く洞窟は、迷宮の深層に近い地域へとつながっているのではないのか?
あの先を今度は、調べてみよう。