第84話「崩れた壁」
地下迷宮内では、様々な音が聞こえて来る。
迷宮内を吹き抜ける風。
時には、魔獣らの叫び声や足音なども聞こえる事もある。
また、冒険者の活動が、いろいろな音を出す。
戦闘や足音、呼び声や、笛の音、また、採掘時の岩壁を叩く音など。
採掘で出るハンマーの音なども、珍しくも無い物である。
けれど、それがいつもと違うように聞こえたのは何故だろうか?
聞いた冒険者が、過敏になっていただけなのか?
しかし、冒険者らの勘も、無視はできないのだ。
微妙な変化が、何かの前触れである事も珍しくは無い。
ヘルガから聞いた、迷宮内での物音の噂。
単なる気のせいかもしれないが、一応は調べてみる事とした。
その音が聞こえたと思しき、迷宮の地域へと来た。
耳を澄ますが、それらしい音はしない。
キオウ「特に、何も聞こえないな。やっぱり、誰かが採掘してただけじゃないのか? 掘ったけど、金になるような石が採れずに納品しなかったとか、持ち帰ったとか。」
マレイナ「空気の動きが聞こえるだけだね。何も怪しい音も気配もしない。」
「もう少し、探ってみるか?」
迷宮内の洞窟を更に進む。
この辺りは、岩盤が剥き出しなので、誰かが掘っていてもおかしくはない。
ただ、そんなに珍しい鉱石が出て来る場所でもないのだが。
しばらく、そんな洞窟の中を進んでいた。
マレイナ「何か、前にいるよ。数は・・・、そう5匹くらいかな?」
マレイナの警告で、戦闘態勢を取る。
相手が解らないので、とりあえず、防御力増加の魔法の加護だけ描ける。
マレイナ「向こうも、気付いたみたい。歩き方からすると、人型の何かだよ。」
微かに相手の足音も聞こえた。
遭遇したのは、妖戦鬼だ。
5匹の妖戦鬼、4匹が剣を持ち、1匹が杖を持っている。
杖持ちは、奴らの魔導師か?
自分と、キオウ、マレイナ、イルネが、剣を持った妖戦鬼へと切り掛かる。
ナルルガは杖を持った奴に備え、フォドが魔法の加護を付け加える。
これで、武器の攻撃だけでなく、魔法への抵抗力も上がった。
後は、こいつらを倒すだけだ。
ナルルガも、火炎矢を杖持ちへと放つ。
激しい切り合いが続く。
だが、少しづつ妖戦鬼を押して行く。
イルネの一閃が相手を切り倒す。
そして、それに自分達も続く。
ナルルガの呪文も、杖を持った妖戦鬼を圧倒し、倒した。
「ふぅ、終ったな。ここら辺では、こいつらに遭遇するのは稀なはずだけど。」
キオウ「こいつも、拠点設営の影響で迷子だったんじゃないのか?」
フォド「まだまだ、迷宮の混乱は収まっていないようですね。」
この辺りも、普段は出現しない魔獣がうろついているようだ。
更に警戒を強め、進む。
そして、異変を見付ける。
「こんな場所、あったか?」
キオウ「いや、新しくできた場所みたいだぜ。床に岩とか散らばっている。」
洞窟の一面が崩落ではなく、何かが掘った跡がある。
大きさは、人が通り抜けるに充分な大きさだ。
その奥へ、ランタンの光を向ける。
イルネ「何かの通路ね。」
崩された岩盤の向こう側に、人工的な通路があった。
通路幅は約5m、高さもそのくらいはありそうだ。
この通路、ガノ山の裂け目から降りた先にあった通路、魔族らが封印されていた場所の物と同じような作りになっている。
ただ、あの場所と違うのは、何者かが動き回っているような形跡がある。
イルネ「魔獣達の移動場所かしら?」
通路は、左右に伸びている。
右手の通路を選んで進む。
通路は一本道のようだ。
魔獣との遭遇を警戒し、ランタンの灯りも少し加減して進む。
と、路が途切れた。
いや、階段状になって下へと続いている。
ここも、段差がやや大きい階段だ。
30段程下がると、水平になり、また進むと下りの階段だ。
そんな階段と水平な通路が何度も続く。
そして、水平な通路が、左に大きく曲がっている。
その曲がり角を曲がると、先の方の通路がぼんやりと明るくなっている。
松明やランタンの明るさではない。
「何だろう? あの光は?」
キオウ「また、魔族が封印されているのか?」
何度も階段を下って来た。
スタートは中層の入口くらいの深さだと思うが、下り続けて来て、今は中層の奥か深層の手前の辺りまで達しているのではないのか?
この位の深さならば、妖戦鬼が出現してもおかしくはない地域だ。
先程に遭遇した奴らは、ここから来たのか?
光を目指して、通路を進む。
角を曲がってから、数百mは進んだか?
そして、通路が終った。
視界に、林が広がっていた。
通路が途切れ、そこは地上に出てしまったのか、明るい空間となった。
そして、目の前に林がある。
いや、地上で多く見られる樹木ではなく、シダのような葉の大きな植物が沢山生えているのだ。
通路の終わりは、また階段になっており、それがシダの林の中の道へとつながっている。
天井を見ると、明るいが、どうも空ではない。
雲の薄い曇りの日のような明るさだ。
今日の地上の天気は、晴れていたと思うが。
いや、雲かと思ったが、天井にあるのは雲じゃない。
何か、光を発する物が天井を無数に蠢いているように見えるのだ。
ここは地上でも、迷宮の天井が裂けている場所でもないようだ。
迷宮のまた、見知らぬ場所へと到達してしまったようだ。
キオウ「ここは、何だ?」
ナルルガ「地上、ではないわね。」
イルネ「天井の光は、何かしら?」
フォド「何か、魔法とか、そんな物かもしれません。」
「とりあえず、先に進んでみるか?」
マレイナ「林の中に、何かいそうだよ。」
階段を降りると、林の中へと足を踏み入れる。
林の中の道も、まだまだ先へと続いている。
林の道を進んで行くと、また何か見えて来た。
「こ、これは?」
イルネ「遺跡? いいえ、神殿かしら?」
目の前に、少し崩れ掛かっているが、苔むした石を積み上げた神殿のような物が、そこにあるのだ。
何で、迷宮の奥に、こんな物があるのだろうか?