第83話「拠点設営後の異変」
今日も、地下迷宮へと入って行く。
まずは、拠点を目指して、暗い迷宮を進む。
拠点の円陣内の建設も、ほぼ終了し、今では常駐するスタッフらの待機場所も完成している。
ここで、薬草などの消耗品の販売や、ちょっとした武具の修繕なども行えるようになる。
剣などを研ぐのも、態々、街の武器屋に持ち込まなくても、ここで済ます事もできる。
ただ、街中よりも、若干料金は高く設定されている。
円陣内での休憩も、街の宿屋よりも少々値が張るのも仕方ないだろう。
拠点は、挨拶程度で通り過ぎ、その先を目指す。
途中で、遺棄した魔獣の遺体を捨てた場所を通り過ぎたが、既に何者かが食べ尽くしている場所もある。
そんな片付け屋は、虫や蟹など小型の物から、様々な大型の魔獣が行っているようだ。
マレイナ「あれだけの魔獣の遺体、何が食べたのかな?」
「軍隊アリや、迷宮岩蟹がやっているんじゃないのか?」
キオウ「あいつら、数が多いからな。あっという間に食べちゃうんだろうな。」
フォド「お陰で、魔獣らの痕跡も片付いてありがたいです。」
拠点の設営後、迷宮に魔獣は戻って来てはいる。
だが、その出現する場所が微妙に変化もしていた。
迷宮内の浅い場所で、今まではもっと奥へ入り込まないと遭遇しなかった物に出会う事もあれば、逆に深い地域でその手前にいたはずの奴らに遭遇する。
魔法陣に呼び寄せられた魔獣が、迷宮内で迷っているのかもしれない。
それ故に、まだ未熟な冒険者が、強力な魔獣と遭遇する事例が増えている。
今は、自分達のような、ある程度の経験を持った冒険者が浅い地域を警戒し、手強い魔獣を討伐する依頼を受けている。
キオウ「魔獣の奴らも、道に迷う事もあるんだな。」
「それぞれの縄張りみたいな物も、乱れているのかな?」
イルネ「どうかしらね。元から強い奴は、場所を選んではいないかもね。強い奴の縄張りの外側でしか弱い奴は生き残れないと。」
フォド「弱い物は、強い者に食べられたり追いやられているようですし、それは地上や他の場所の生き物も同じですね。」
マレイナ「そう思うと、一角鬼とか弱い奴は、居場所が無いのかも。」
ナルルガ「そうなのかもね。私には、奴らがいない方がいいけど。」
「同情できる奴らじゃあない。」
今日も、中層のそこまで深い場所ではないのに、獣悪鬼や妖戦鬼に遭遇する。
本来なら、こんな場所には、いないはずの魔獣だ。
キオウ「こんな浅い所に、こいつらがいるからな。」
「ハノガナの街に来たばかりの自分達なら、やられていたかも。」
イルネ「こんな浅い場所で、報酬がいい奴に遭遇できるのはありがたいけどね。」
少々、手こずりはするが、魔獣らを掃討する。
マレイナ「でも、強い奴らも、数が減って来たかな?」
キオウ「そうかもな。結構、各パーティーも活動してっから。」
迷宮を進む内に、水浸しの洞窟へ入って来た。
ここでは、以前は、鰐人らに遭遇していた場所である。
踝の辺りまでが、水に浸かる。
場所によっては、もっと深い場所もあるはずだ。
キオウ「結構、中層の深い場所まで来たから、引き返すか?」
「そうだな。この辺りは、元から強いのが多いから、見回らなくてもいいか?」
だが、水音を立てながら、移動して来る物がいる。
マレイナ「4匹くらい、近付いて来るのがいるよ。」
フォドが打ち出した光の弾で浮かび上がったのは、大食い鬼である。
「こんな深い場所に、迷い込んだか?」
この辺りでは、さほどに脅威のある相手ではないが、戦う事となった。
ただ、可哀想だが、自分達の敵ではない。
あっさりと倒してしまう。
キオウ「ちょっと、気の毒な感じもするな。」
「ああ、向かって来ないならば、見逃しても良かったかもしれない。」
だが、そんな手軽な魔獣を倒した事で、気の緩みがあったのかもしれない。
大食い鬼から耳を切り取り、移動しようとした時だった。
ナルルガ「何? あれ?」
キオウ「ん? どうした?」
ナルルガが、暗闇の先を指差した。
ランプの光に、何かがぼんやりと浮かび上がる。
フォドが、慌ててまた光の弾をその方角へと何発か放つ。
周囲が明るくなると、その姿がはっきりと見えて来た。
薄い灰色ののっぺりとした姿。
洞穴貝が、何匹も音も気配も無く、そこにいた。
貝殻の隙間から口吻が伸びて、また例の大音量の雑音が洞窟に反響する。
萎える気力を振り絞り、その殻の隙間へ剣をぶっ刺す。
刺した剣を挟み込もうとするが、そこを更に深く深く刺し、更に剣を捻じるようにして中を抉る。
刺した貝は音を発するのを止めるが、まだ他から音が吹き出し続ける。
それを仲間らが仕留めに向かう。
自分が剣を突き刺した貝の力が抜けたような感覚がしたので、剣を抜き取る。
そして、次の目標へと向かう。
音を発する、響音貝と名付けらえた奴らを片付ける。
念の為に周囲を見回すと、やっぱり、こいつらもいた。
気力を回復したので、そいつらに呪文を叩き込む。
矢を打ち出して来る、毒矢貝だ。
いつの間にか、洞穴貝らが忍び寄っていたのだ。
口から打ち出される毒矢を避け、呪文を放つ。
こいつらの毒矢に当たると、痺れて動けなくなる。
こいつらは、動きを止めた獲物をゆっくりと捕食するのだ。
こんな奴らに食べられるつもりはない。
連続で呪文で岩塊を叩き付けて殻を割る。
そこへ、火炎矢を叩き込む。
毒矢貝の群れも、何とか倒した。
マレイナ「ごめんね。貝は気配がしなくて。」
周囲の異変に気付かなかった、マレイナが落ち込んでいる。
イルネ「仕方ないわ。こいつらは他の魔獣と違い、気配がしないもの。こんなのがこの辺りに残っているのも驚きだけど。」
キオウ「まさか、あの火炎タコはいないよな?」
大タコも、洞穴火炎タコの名が付けられている。
「一応、周囲を見てみるか?」
水に浸かった洞窟の中を貝やタコを探して歩き回ったが、他には見当たらない。
フォド「さっきので、全ていなくなったのでしょうか?」
ナルルガ「そうみたいね。あんなのと、みんな戦っていたのね。」
魔法陣に掛かりきりだったナルルガは、今回が洞穴貝と戦うのは初めてである。
キオウ「火炎タコも、凄かったぜ。」
ナルルガ「あんな生き物がいるのね。まるで、魔族みたい。」
「火炎タコも、魔族なのかな?」
マレイナ「どうなのかな?」
新たな魔獣が見付からないので、街へと戻る。
ギルドに立ち寄り、報酬を受け取る。
今回は、12ゴールドになった。
ヘルガ「そうなの。そんな場所に洞穴貝がまだいたのね。」
「ええ、多分、今回の討伐でいなくなったとは思いますが。」
ヘルガ「なら安心ね。それと、サダ君達は、何か迷宮で音を聞いた?」
キオウ「えっ? 音ですか? 響音貝の出す音とか?」
ヘルガ「いえ、違うの。何か採掘するような、叩く音らしいの。」
「そんな音なら、よく聞きますけど。今日は、聞こえたかな?」
ヘルガ「珍しくない音だけど、今日は、まだ発掘の納品が珍しくないのよ。それでも、そんな音が聞こえたそうよ。」
キオウ「これから、納品しに来るんじゃないのか? もしくは、拠点で休んでいるとか。」
ヘルガ「そうかもしれないけど、聞いた人が、いつもとは違うように聞こえたらしいの。」
イルネ「それだけじゃ、何とも言えないわね。でも、そういう事に敏感なのは、冒険者でもあるから。」
ヘルガ「気にし過ぎならいいけど。」
「今度、迷宮に入ったら、意識してみますよ。」
ヘルガ「また、何かあったら教えてちょうだい。」