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第8話「大討伐」

 期間限定の3人組みの活動が続く。

その後も、幾つかの討伐依頼を受けては達成した。

それでも、まだお試しの期間限定から抜け出せない。

その日、ギルドでラガンと久し振りに話し込んだ。

普段も挨拶程度は互いに交わしていたが、それなりの時間を話し込むのは一角鬼の討伐以来だろう。

ラガン「お前達、最近は組んでいるそうだな。」

ラガンもナルルガの癖は、知っているようだ。

今も自分とキオウはラガンの話をちゃんと聞いているが、彼女だけは横を向いて会話には加わろうとはしない。

ラガン「1つのパーティーになりたいなら、そろそろ、大きな依頼を受けてみたらどうだ? もうそんな腕前に、充分なっているだろう、お前たちは?」

「まあ、そうだと思いますけど。」

キオウ「一角鬼の時より、いろいろ実力が付いている気はします。」

ラガン「ならば、もっと、互いが頼り合って、デカい依頼を受けてみろや。」

今まで、どこか遠慮して、その一歩が踏み出せないでいた。

その一歩が出ないのが、期間限定の関係に進展が無い理由なのかもしれない。

ラガンとの会話を終えると、ナルルガが短く鼻を鳴らした。


こんな時には、マサキに相談するのが早い。

何時ものように、カウンターのマサキに話し掛ける事にした。

マサキ「そうですね、皆さんのレベルですと、もう少し大きな、例えば魔獣の討伐などに挑戦してみても良い頃かと思います。」

マサキ「ただ、人数がもう少し多い方が安心かと。」

マサキ「特に、回復役がいないのが心配です。」

自分も多少の回復魔法も使えるし、勿論、回復役をケチる事もしない。

だが、回復を専門にする神官がいる方が心強い。

けれど、都合よく神官が、見付かるはずも無い。

取り合えず、顔見知りの神官である、マルナに声を掛けてみる事にする。


マルナ「いいよ。都合の良い時なら」

マルナに承諾を貰う。

マルナ「でも、毎回、組める訳ではないかな。」

手の空いた時には、一緒に出てくれるそうだ。

最初に受けるのは、一角鬼いっかくおにの討伐にした。

これには、たまたま手の空いていた、キャナリアも参加してくれる事になった。


 今回の依頼はオルタナの町でではなく、付近にあるミゾンの村からの物だそうだ。

少し前から付近の岩窟に、一角鬼の一群が住み着いているらしい。

鬼達はそこを拠点に、ミゾンだけでなく、周囲の村落で悪さを働いているらしい。

女子供も幾人か、行方不明になっているそうだ。

以前の廃屋で見掛けた、子供の骨を思い出した。

まずは、ミゾンの村に向かい、そこから岩窟を目指す事にする。

ミゾンまでは歩きで約半日、一泊して翌朝に目的地へ向かう。

その前に、村で情報集めも終えておく。

それから、ミゾンの村を昼前に出発し目的の岩窟に向かおう。

場所は、歩いて1時間半程掛かるようだ。

その場所は、林の外れにある丘である。


歩く事しばらく、目的の丘が遠くに見えて来た。

だが、その手前の何か所かに一角鬼の見張りがいた。

今回の相手は、警戒もしている。

その1匹1匹を時に魔法で、時には投げナイフで沈黙させて行く。

丘の岩窟の外にいる一角鬼は、全て片付けたようだ。

周囲を調べて見ると、内部への出入り口は2ヶ所あった。

マルナ「奴らをこれで燻り出すわ。」

「何ですか? それは?」

マルナ「これは、幾つかの薬草や香草とかを混ぜて乾燥させた物よ。燃やすと、凄い臭いが出て、目とか鼻に刺激を与えるの。だから、煙を吸っちゃダメよ。風魔法の使える人は、煙をこの中に送り込むようにしてちょうだい。」

キオウ「解りました。やってみます。」


刺激臭のある煙が、岩窟にどんどん吸い込まれて行く。

これで、中の一角鬼を追い出せるはずだ。

一角鬼達が、慌てて飛び出して来た。

だが、2ヶ所の出入り口の他にも隠し口があったようで、バラバラと何か所からも飛び出して来る。

マルナ「ちょっと、上手く行かなかったみたいね。」

しかし、煙の影響はあるようで一角鬼はある者は咳込み、ある者は目を擦りながら涙を流している。

だが、その数が思ったよりも多い。

30匹以上、いるだろうか。

そして、その中に見覚えの無い、2本脚で立つそれがいた。

150cm程の身長の一角鬼よりも一回り大きく、165cm程はあるだろうか?

一角鬼の特徴である額の出っ張りとはまた違う形で、額の左右にそれぞれ突起のあるその見慣れない相手は、そうだあれが双角鬼そうかくおにだ。

他の鬼よりも、鎧も武器も上質なようだ。

革鎧に、長剣を持っている。

(あいつが、この群れのリーダーか?)

一角鬼の群れに、先制のナルルガの火球とマルナの光弾の魔法を打ち込む。

数は、相手の方が多い。

態勢を整える前に、攻めるしかない。

一角鬼の力の程度は、知っているはずだった。

武装はしているが、その力はそれ程ではない。

以前よりもレベルも上がった自分達ならば、苦も無く切り伏せられるはずだ。

けれど、今回は勝手が違い、こちらの方が追い込まれる。


燻り出しの効果が薄れて、体勢を整え出した奴らは束になって掛かって来る。

こちら1人に対して、3,4匹が一斉に掛かって来る。

攻撃を防ぎながら武器を振るうが、思うような一撃を与えられない。

正面に向かえば、右から左から、或いは、背後から掛かって来る。

周囲からの攻撃を避ける為に、位置を変えながら複数からの攻撃を避ける。

攻撃をしようと思っても、何時の間にか防戦一方になる。

魔法と武器での先制攻撃で、20匹近くに数は減らしていたが、それから先は一角鬼も反撃の体勢を整えいる。

しかも双角鬼の攻撃は鋭く、腕前は自分達と変わらない。

今は、キオウの手槍が双角鬼の剣を何とか凌いでいるが、何時まで耐えられるのだろうか?

キオウも、双角鬼を含めて3匹の相手をしているのだ。

ただ、応援に駆け付けるにしても、自分も囲まれそうになるのを防ぎつつ、ナルルガに鬼が取り付かないようにするので精一杯だ。

今は、目の前の鬼を少しでも減らすしかない。

鉄斧は、防具にも使える。

幅広の刃が一角鬼の刃を受け止め、また小型盾でも防ぐ。

一角鬼の連携攻撃にも慣れて来た頃、ようやっと正面に位置した鬼を切り捨てた、その勢いをそのまま右の鬼に向ける。

だが、そこまでは上手く行かず、他の鬼に攻撃を阻まれる。

数が減り幾分楽になったが、まだ気を抜けるような状況ではない。

一角鬼達が、続けざまに襲って来る。


ふと、ある考えが浮かんだ。

一角鬼が装備している武器は、おそらくどこかの冒険者らが使い古した物だ。

しかも、碌に手入れもせずに錆びて切れ味も悪くなっている上に、強度も落ちているかもしれない。

一角鬼が切り付けて来る剣を受け流さずに、その刀身を狙って鉄斧を叩き付ける。

「ガキン!」と音と共に、鬼の剣が真っ二つに折れた。

「よし、やったぞ。」

やはり、武器の強度が下がっていたのだ。

焦る様子の一角鬼に、そのまま鉄斧の一撃をお見舞いする。

自分に纏わり付いている一角鬼は残り2匹。

勢いのままに、一角鬼を1匹、2匹と切り裂いた。

後は、他の援護だ。

石礫を仲間に取り付いている一角鬼目掛けて撃ち込む。

ナルルガの火球もそれに続く。

仲間の負担を減らしつつ、向かうのは双角鬼らと戦っているキオウの元だ。


キオウと双角鬼が、互角にやり合っている。

だが、取り巻きがいる分、不利な状況である。

何とか勝負が付く前に間に合った。

「待たせた。」

キオウ「おう、助かる。」

一角鬼も、他から集まって来る。

自分とキオウを、双角鬼と5匹の一角鬼が囲む。

後は、ただやり合うしかない。

キオウとの付き合いは決して長くはないが、幾たびも一番身近で戦って来た相棒でもある。

何時の間にか何も合図をする訳でもなく、互いの意図が読めるようになっていた。

キオウの手槍が、双角鬼を責める。

その動きを乱そうと一角鬼が迫るが、それを自分が鉄斧で払う。

また別の一角鬼が迫るが、小型盾で受け止める。

向こうも連携して来るが、こちらが競り負ける事はない。

鬼の攻撃を避けつつ、また武器を狙って鉄斧を叩き付ける。

1匹の一角鬼の頭を叩き割る。

これで、2対5だ。

4匹の一角鬼の攻撃が、自分に集中する。


そこへ火球が飛び込み、1匹が火だるまになる。

フリーになったナルルガの、魔法の援護が加わったのだ。

更に、1匹の右腕を武器ごと鉄斧で切断する。

叫び声を上げる鬼の首を切り飛ばす。

また別の鬼に、叩き込まれる火球。

近くを飛び過ぎる火球の熱を肌で感じる。

目の前の最後の一角鬼と切り合いになるが、力も技量もこちらの方が上だ。

軽く鬼の武器を叩き落とすと、容赦なく袈裟懸けに鉄斧の刃を振り抜く。

キオウはと見ると、手槍で双角鬼の腕を何度も突き刺し、その攻撃力を奪って行く。

やがて武器を支えきれず、なす術を失った双角鬼をキオウの手槍が貫く。

胸を突き通された鬼の口から、血が塊のように零れ出す。

膝を折って地に崩れる双角鬼。


その様子を見て、逃げ出す残りの鬼達。

その背に各々の魔法を撃ち、止めの一撃を振るう。

時間にして、30分は戦っていただろうか?

幸いパーティーの仲間は手傷を負っているが、致命傷を受けた者はいない。

マルナ「みんな、そんなに怪我してないわね。良かった。」

マルナが、回復魔法で皆の傷を癒してくれた。

マルナ「みんな、立ち回りが上手くなっているわね。ちょっと数が多い程度なら、一角鬼と戦っても大丈夫そうね。ただ、あんまり無理はしないで。今回も、少し失敗しちゃったから。毎回、こうは行かないわ。特に回復役がいない時には注意よ。」


戦いが終ったので、警戒しつつ岩窟の中を探る。

ナルルガ「何、この臭い。まるで、獣の巣ね。」

ナルルガが鼻を摘まんで、ぶつくさ言っていた。

燻り出しに使った煙の影響は、既に薄れているようだ。

岩窟は、通路と幾つかの部屋のような広がりがある。

部屋を探ると、人里から奪って来たのか、様々な道具や武器がある。

どれも壊れたり古びた物ばかりで、価値のありそうな物は無い。

価値のありそうな物と言えば、300シルバー程の硬貨と、新しめの貴金属が幾つか見付かった。

そして目にしたくはなかったが、動物の骨や肉に混ざって行方不明となったと思しき人であった物もあった。

既に骨になっているモノもあれば、解体中ではあるが原型を止めている人体の一部もあった。

岩窟内部に油を撒いて、中を燃やす事にする。

点火して、外部で燃え尽きるのを待つ。

煙も外に漏れ出て来なくなったので、地属性魔法で地形を変える要領で入口を崩す。

後始末は、これで良いだろう。

疲れと岩窟の中で見た光景のせいか、帰りの足取りは重い。

今日は、ミゾンの村で一泊し、翌日オルタナの町に戻る事にする。

岩窟で見付けた貴金属を村長に渡すと、一人頭1ゴールドの礼金を貰った。

せめて幾人かの遺品を取り返して来た事は、遺族の慰めになってくれるだろうか?


 翌日、体力の回復した自分達は、オルタナの町へ移動し、ギルドへの報告を済ませた。

報酬で各自120シルバーを受け取った。

この日は、依頼を受けずに解散となった。

今回の依頼で、傷付いた武器と防具を修繕に出す。

ナルルガ「・・・・・・。」

ナルルガが何か言いたそうではあったが、何も言わずに別れた。

数日振りに、宿のフクロウ亭に戻る。

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