第77話「鉱山採掘」
まだまだ、休憩拠点を作る為に必要な鉱石集めは、続いている。
数多くの冒険者らが、元から希少な鉱石のそれも純度の高い物を求めているので、段々と集めるのが難しくなっていた。
それを集める為に、必然的に迷宮の奥へと向かうので、魔獣らの抵抗も激しくなる。
自分達も、獣悪鬼らとの戦いが増えて来ていた。
採掘中に接する魔獣が、強くなっている。
今後も拠点を増やす予定らしいが、順調に行くのだろうか?
どこかに、大量に鉱石が見付かる場所は無いのか?
いろいろと、噂を聞くが、そうは都合の良い場所などなかなかに無い。
そう思っていると、イルネが情報を得て来た。
ガラワンが、もしかしたら知っているかもしれないと。
早速、アグラム伯爵の城館に向かうと、ガラワンを捕まえた。
彼に、鉱石の話を聞いてみると、
「ああ、もしかしたら見付かるかもしれない。」と返事が来る。
どこにあるのかと聞けば、
「それは、開拓村の無国籍地帯だよ。」だそうだ。
早速、彼と共に伯爵に面会を申し込む。
伯爵もガラワンには、ギルドでの事は伝えてはいなかったらしい。
伯爵が進めている開拓村の比較的近くに岩山があり、そこに採掘した形跡のある洞窟があったらしい。
詳しく調べた訳ではないが、求める鉱石の欠片もそこにはあったのだとか。
早速、自分達を中心に、調査団を結成する事となる。
自分達と共に、鉱夫を数人雇い、兵士らも幾人か付けて調べる事にする。
ついでに、開拓村の様子を見るように言われている。
決定から数日後、自分達は、まず開拓村を目指す事にした。
自分達は馬に乗り、鉱夫や兵士らは2台の馬車に分乗させている。
兵士らの指揮を取るのは、イルネに任されていた。
開拓村に着いて、また発展しているので驚く。
久々に会う開拓民らに挨拶する。
話を聞くと、既に村の人口は100人に達しているという。
小高い丘の上だけでなく、その周囲にも家や畑もある。
馬車を村に停め、自分らと兵士の一部は、鉱夫らを護衛して、その丘の続きになる小山へと向かう。
小山と言っても、ほぼ岩ばかりである。
その中腹に、洞窟を見付けた。
ここがガラワンの言っていた場所か?
一応、中を調べてみたが、獣や魔獣はいないようである。
鉱夫らに試掘を頼み、入口を兵士らが警戒している。
自分達は、念の為に洞窟の周囲を警戒しておこう。
イルネは兵士らと共に、その場に残る。
イルネ「大丈夫? みんな?」
「イルネの日頃の指導がいいから、大丈夫さ。」
イルネ「そう。頑張ってね。私の生徒さん達。」
そう言えば、イルネと別行動も久し振りだな。
そう遠く離れる訳ではないが。
岩山をよじ登ったり、周囲を警戒したが、特に魔獣の形跡は無いようだ。
洞窟に戻ろうとした時に、カムランカモシカの群れに遭遇した。
距離は80m程の先か?
マレイナと目が合ったので、互いに頷く。
マレイナが、半弓を構えたと思ったら、矢を一瞬で連射する。
2頭のカモシカに2本づつの矢が放たれ、全矢が命中する。
倒れる2頭のカモシカ。
急な襲撃に驚き、残った3頭のカモシカは逃げ去った。
カムランカモシカは、ラッカムラン王国周辺では珍しくはない、山林に出没する獣である。
その肉、毛皮などが利用されている。
マレイナが、「にっ」と笑う。
「相変わらず、弓の腕が凄いな。」
マレイナ「ううん。イルネちゃんに教えて貰って、弓がもっと上手くなったよ。今まで見えなかった、相手の動きの先が感じられるようになった。」
「そうかもな。自分も、イルネの教えで剣の動きが随分と変わったから。」
仕留めたカモシカは、自分とキオウで担いで行く。
洞窟に戻ると、まだ採掘は続いていた。
イルネ「あら? 御馳走ね。」
イルネが迎え、自分らの背負った獲物に目を輝かせる。
「マレイナが、仕留めた。」
イルネ「お見事、マレイナ。」
マレイナ「これも、イルネちゃんの教えが良かったからだよ。」
キオウ「採掘の方は、どうだい?」
イルネ「そうね。少し出て来たみたい。」
キオウ「(鉱脈が)当たるといいけどな。」
イルネ「これで、有望な鉱脈が見付かるなら、開拓村の価値は上がるでしょうね。」
「また、人を街から寄こさないと。」
イルネ「そうね。ここも、大きな町になる日も近いのかもね。」
洞窟の中から鉱夫らが出て来た。
「皆さん、いろいろと出て来ましたよ。なかなかに有望な山のようです。」
破龍石、魔生岩以外にも、幾つか鉱石が出て来たらしい。
「あとは、数日、他の場所も掘ってみましょう。」
洞窟は当たりだったらしい。
周囲にも岩山があるので、これから数日掛けて、他でも試掘する事となった。
その成果を携えて、ハノガナの街へと戻る。
「そうか、見付かったのか。ありがたい事だ。」
伯爵の城館の執務室である。
自分らと、今回の発掘の鉱夫のリーダーもいる。
鉱夫の説明では、最初に目を付けた場所だけでなく、他からも様々な鉱石が見付かった。
ただ、国境の外であるので、大っぴらに開発もできないようだ。
「飽くまでも、開拓村の民が自主的に発見し、採掘を始めた。」という事を装うと言う。
移住が可能な鉱夫をこれから探し出す必要はある。
「直ぐにでも、10名は集まります。」
リーダーは、そう言う。
「よし、では頼もう。飽くまでも、君達が自分で見付けて掘り始めた事にしてくれ。」
開拓村の周囲も広大な土地である。
そこで、有望な鉱山まで見付かっては、他の貴族らが介入して来る可能性は高い。
ここは、伯爵も知らぬ振りを続けて、機会を見付けて利権を手にしようという訳だ。
鉱夫を帰した後も、自分達は伯爵との面談を続けた。
「変な物まで出て来たな。」
ナルルガ「そうですね。まさか、黒死石まで見付かるなんて。」
えっ? 何の事だろう? 伯爵とナルルガの2人の顔を見てしまった。
伯爵がナルルガに頷く。
ナルルガ「今回、見付かった鉱石の中に、黒死石まであったの。この石は、加工して金属が出来るわ。魔票の材料になる金属が。」
(っ!) そんな物まで。もしかして、フードの武装集団があの辺りで活動していたのは。
「その可能性が高くなったな。あの辺りは、ただの実験場ではなかったのかもしれない。」
伯爵は、難しそうな表情になった。
数日後、集まった鉱夫らを護衛して、再び開拓村へと向かう。
今回は、鉱夫らの家を建てる為や鉱山で使う資材も運ぶので、6台の馬車を守りながらである。
村に着くと、家の建設から始める。
鉱山となる場所に近い場所に、鉱夫らの住居区を作って行く。
建設には、村人や護衛の兵士らも協力する。
数日もあれば住居も完成し、次は鉱山の開発へと移行する。
自分達も周囲の警戒の合間に、建設の手伝いもする。
今回は、魔獣の警戒だけでなく、またフードの連中が近くにいないのかも調べる必要もあった。
だが、その痕跡は見付からない。
奴らは、この地からは消え去ったのだろうか?
また、思わぬ場所に現れるようにも思えるのだが。