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第75話「魔族の痕跡」

黒の魔人を打倒し、その日は近くの村に泊まった。

自分とキオウに体を触られたと怒っていたナルルガも、町でりんご飴と焼き菓子を買ってやったら、やっと機嫌を直してくれた。

「わたしなら、いつでも触っても、2人なら大丈夫だよ。」

マレイナが自分とキオウが並ぶ後ろから2人に抱き付いて来て、そう言った。

マレイナの少し甘い体臭が、気を落ち付かせる。

イルネとは、まだ距離がほんの少しだけあるかな。

そう思うと、ナルルガとの距離が近くなっているんだな。

黒の魔人の討伐依頼を受けたヒルドイの町へ戻る。


2日程掛けて、ヒルドイの町へと到着した。

道中も、この町でも、今の所、新たな魔族の情報は無い。

ヒルドイの町で魔族の話と言えば、各所で小魔人が討伐されたそうだが、他で黒の魔人に関する情報も無い。

奴と、まともに戦った冒険者も少ないようで、ここでいろいろと聞かれた。

特に、小魔人やバロの魔犬を召喚した辺りは驚かれていた。

ここにも当然、バロの魔犬の話は伝わっている。

その出現から5年が経過し、その現れた原因が判明したのだから、大きな進展があったと言うべきなのだろう。

急に出現した、謎の魔獣の正体が解ったのだ。

前回の出現も、黒の魔人が何かしら関わっているものと、予想される。

数日は、ここの町に留まり、魔族の続報が無いか待つ事とする。

ただ待つのではなく、魔獣の討伐やらを受けながらである。


ここでの魔獣は、一角鬼や狗毛鬼が多いようだ。

森に廃墟に洞窟と、地下迷宮程ではないが、様々な場所に魔獣がいる。

それが時に、町村や街道に出て来ては、人らに害を為す。

そんな魔獣の噂を聞き付けては、依頼を受け退治して回る。

数は多いが、魔族に比べれば楽な方である。

報酬は大金ではないが、滞在費には充分で、少しづつ溜まりつつある。

今回の旅の前半の出費の補填にも足りている。

魔獣と戦う時には、緊張もある。

だが、ハルム王国への遠征から、魔族との戦いが続いていたので、少し楽な気もする。

いつもに比べると、楽な生活かな?


今日も、魔獣らと戦い、町へと戻って来た。

その後の晩飯は、宿で摂る事もあるが、今は町の飯屋に皆で来ている。

ヒルドイの町は、同じ王国内にあるが、地方が違うのか若干の料理の味付けの違いがある。

微妙な、甘さ、辛さが違うが、それもまた美味い。

6人で卓を囲んでいる。

マレイナ、自分、キオウが並んで座る。

対面は、フォド、イルネ、ナルルガだ。

マレイナの正面がフォドだ。

いつの間にか、そんな座り方が固定になっている。

一緒に活動をするようになり、何となくイルネの重みが自分達の中で増して行く気がする。それ故に、イルネが中心に位置するようになっているのかもしれない。

美人で腕も立つイルネ、だが、彼女に嫌味な所はなく、誰彼の区別なく接してくれる。

武器の扱いを聞いても、雑談をしても、普通に対応してくれる。


家のパーティーでは、マレイナには問題が無かったが、ナルルガには随分と苦労した覚えがある。

今では、話をする時にはこちらを向いてくれるが、出会った頃は、彼女の横顔しか見ていなかった覚えがある。

ナルルガが、自分から声を掛けて来るようになったのも、いつからだったか?

今も普通に「皿を取って」とか「調味料ちょうだい」とかやり取りをしている。

話をする機会が増えているので、彼女の事もよく解かるようになった。

ナルルガの魔法に掛ける情熱は大きい。

生まれが魔術師の家系というだけでなく、彼女にとっては魔法はある意味で自分の人生そのものなのだ。

ケリナ魔法学院に通うのも、彼女の夢だったらしい。

それが、自分達と行動する事で現実となった。

その事を彼女は感謝しているらしく、彼女なりのやり方で自分達にも意思表示をしているようでもある。


その点、マレイナは付き合いが楽だが、どこか自分を隠しているように思える。

やっぱり、それは離れ離れになった家族の事があるからだろう。

彼女の両親が、どうなったのか解らない。

そして、別々に逃げたお姉さんの事も。

まだ、国内のどこかにいるのだろうか?

それをマレイナも探しに行きたいはずだが、手掛かりもまだ無い。

本格的に探さないと、手掛かりは得られないのか?

マレイナの笑顔の裏に、何かあるように感じてしまう。


フォドは、いつも自分達に合せてくれる。

それを前に「何故か?」と聞いた事もある。

すると彼は、「君達が、どんな事を考え、そして選んで行くのか、それを見るのが楽しいから。」だそうだ。

妖精族の彼から見れば、他種族の言動が珍しいらしい。

珍しい生き物を観察しているのではなく、状況の変化に臨機応変に素早く対処しているのが、彼らには欠けている所だと思うからだそうだ。

でも、自分達が迷った時に、フォドの判断に助けられる場面も何度かあったと思う。

神官の役割は、体力回復に魔術の加護など、場面に合せた呪文を使い分ける必要もあるのだ。

フォドが来てから、仲間の誰もが致命的な傷を負った事も無い。

フォドは、立派なヒーラーだと、いつも感謝している。


キオウは、今更だな。

キオウは明るく、前向きだ。

出会ってから、彼の弱音を聞いた事があっただろうか?

キオウがいたから、今のオレがある気がする。

一番最初に仲間になったのも、彼だった。

これからも、彼と互いに腕を磨き働くだけだ。

ただ、「騎士」という地位は、彼の方が思いは強いのかな?

それが、昔からの夢だったらしい。

今後は、イルネやガラワンのような働き方をしたいのかもしれない。

自分は、どうかな?

誰かに仕えるよりも、自由にやって行きたい気もするけど。


「どうした? サダ? 酒が進んでないぞ。」

キオウに声を掛けられる。

「前みたいに、何か寂しそうに見えたけど。」

前みたい? 昔の自分はそんな顔をしてたのか?

「そうだよ。それがニナサの村で、魔犬を倒した頃から、変わって来たように思えるけどな。」

そうだったのかな?

「そうだよ、サダ。」

隣に腰掛けるマレイナも続いている。

そんな時、マレイナは、そっと自分の体に身を寄せて来る。

「うん、サダは昔は暗かった。暗い子だった。」

とナルルガ。

人見知りは、ナルルガの方が酷かったと思うけどね。

「みんな、結構、長い付き合いになってるのね。何か羨ましい。」

これは、イルネだ。

「人間族も獣人族も、みんな楽しい人が多い。そんな君達と旅ができる事が、何よりの楽しみです。」

と、フォドも言う。

うん、いいパーティーに成長して来たよな、自分達は。


数日、ヒルドイの町に滞在したが、魔族の続報は無い。

まずは、ゲイナの街へと移動したが、そこでも情報を得られなかった。

今回の魔族騒動は落着したと判断し、ハノガナの街へ戻る事とした。

1ヵ月近くのラバン地方での活動を終え、帰郷する。

帰りの速度が、少しだけ早くなった。

今回は、隣の地方であったが、故郷が恋しくなって来ていた。

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