第70話「帰郷中の寄り道」
パシコの町を旅立った自分達は往路と同じような道を辿り、ケリナの街へと戻って行った。
まずは、ユドロ侯爵の別宅に向かうと、快く迎えられた。
そして、馬と荷を置くと、魔法学院へ向かう。
タバル教授を尋ねると、部屋でしばらく待たされたが会う事はできた。
そして、2つの魔票を彼に渡した。
ハルム王国での動く遺体との戦い、そして、一角鬼との事も説明した。
既に、こちらにも動く遺体がまた発生していた事は知られていたが、一角鬼の事は伝わっていなかったようで、教授は興奮して顛末を聞いていた。
そして、ナルルガの対魔陣の事を聞くと、身を乗り出している。
また、自分達の使った呪文の効果なども興味を引いたらしい。
数日は、ケリナの街へ滞在し、まだいろいろと話を聞きたいようである。
しばらくは、またこの街に滞在する事にする。
アグラム伯爵には、ラッカムラン王国へ入った段階で文を送ってある。
その返事もユドロ侯爵の別宅に届けられる事だろう。
ここは、安全であろうから、久し振りにゆっくりして過ごせそうである。
翌日から、魔法学院へ通う日々が始まった。
講義を受けていた頃の事が思い出される。
タバル教授に会いに行くと、幾人かの魔術師も同席していた。
彼らは、札の研究をしている魔術師らしい。
今回、新たな魔票をハルム王国から持ち帰った事を、彼らからも感謝された。
魔票は、札との共通点が多いようだが、それぞれまた違った魔法の術式が施されており、これから、それらの解明が始まるそうだ。
教授らには、動く遺体がどんな動きをしたのか、呪文の効果はどうであったか、より細かく質問された。
更には、一角鬼の事も同様に質問された。
その聞き取りに、3時間くらいは掛けられたと思う。
そろそろ、昼食の時間なので、自分達は解放されたが、引き続きナルルガからは話が聞きたいとの事で、彼女だけ居残る事となった。
ナルルガと別れ、自分達は街中の飯屋に立ち寄った。
その後は、やる事も無いので各自自由時間とし、自分はマガセを尋ねる事にする。
市場で、食材を買うと、貧民街へ向かう。
マガセは変わりないようだった。
少々、互いの近況を語り合い、その後は薬草園を見に行った。
おお、前に持って来た薬草も芽を出している。
そして、雑草取りなどを手伝う。
そう言えば、最近は移動ばかりで、こうして土に接するのは随分と久し振りに思える。
借家の薬草園も、酷い様になっているだろうな。
帰ったら、また手入れをしなければ。
翌日も、魔法学院へ赴き、今度は呪文の事を話し合う。
自分達の経験を元に、より精度の高い呪文へと昇華する為に、またいろいろと聞かれた。
当然、短時間でできる事ではないので、術が組み直されたなら報せてくれるそうだ。
呪文の話は、数日続いた。
そんなある日、アグラム伯爵からの文が別宅へと届けられた。
魔法学院での用事が済み次第、一度、ハノガナの街へ戻るように指示があった。
魔法学院での、自分達の聞き取りは終ったが、まだナルルガの魔法陣の件が終らない。
新たに、魔法陣をナルルガが習い始め、それにイルネとフォドも関わっていた。
残された自分とキオウとマレイナで、簡単な依頼をギルドで受ける日が数日続く。
とは言え、ケリナの街で難易度の高い依頼はほぼ無い。
やや物足りなさを感じながら、過ごす日々が続いた。
そして、やっとナルルガの魔法陣の研修が終ったそうだ。
ハノガナの街へと馬を進めた。
このまま、ハノガナの街へと思ったが、意外な騒動に巻き込まれた。
街へあと2日という距離の町で、物騒な事件が起きているらしい。
その話を聞いたのは、その町の飯屋で晩飯を食べていた時であった。
周囲の卓から、ある会話が聞こえて来たのだ。
その内容はと言うと、「羽根のある赤い魔獣が数匹、最近になって出没する」そうだ。
自分達は、全員で顔を合せた。
羽根に赤い姿、それはもしや。
翌日、その町の冒険者ギルドに行った。
受付で、羽根の生えた赤い魔獣の事を聞くと、町や周囲の村に出没し、多少の被害が出ているそうだ。
ここのギルドで討伐依頼も出ているのだが、相手が空を飛び回るので、有効な手段が無いのだとか。
多分、これは赤の魔人に違いないだろう。
急遽、この町でギルドに登録すると、その魔獣の討伐依頼を受注した。
魔族が相手なら、見過ごす事はできない。
それに、今の自分達には、それへの対抗手段もあるのだ。
ただ、出没するのは夕暮れ時が多いと言うので、時間調整をする。
午後になってから、目撃の多い場所へと向かう事とした。
その前に、アグラム伯爵には文を送っておき、ハノガナの街への帰りが遅くなる事は伝えておいた。
それまでは、聞き取り調査である。
魔人の住処になっているような場所の情報は無い。
出没するようになってから日も浅いので、情報が少ないのだ。
だが、最初に目撃された村での目撃数がもっも多いようなので、今日はそこに向かう事とした。
赤の魔人と思しき相手は、何匹かいるようだ。
同時に2匹、目撃された事もある。
村までは、ここから1時間程と言うので、昼飯を食べ少し休憩してから向かった。
村には夕方前に、余裕で到着できる。
村に着いた。
今夜は、ここに泊まる事とし、先に宿を確保する。
その後はここでも聞き込みである。
やはり、この村での目撃数は多く、連日現れる事もあるそうだ。
日が傾いて来たので、村の周囲で様子を見る。
けれど、目にするのは巣に帰る鳥が何羽か見えるだけだ。
今日は、空振りかと思っていたが、空に何かが浮いているのが見えた。
鳥か? 確かに羽根は見える。
それにしては、体が大きい。
どうやら、奴が姿を現したようだ。
だが、その距離がやや遠い。
それを目掛けて追い掛けて行く。
奴は村ではなく、別のどこかに向かっているようだ。
何の事は無い。
あれは出発地点の町の方角に向かっている。
今日の宿の場所を間違えたか?
と、方向を変えこちらの方に近付いて来る。
ナルルガとイルネが、奴に向かって光の尖槍の呪文を放つ。
1発が当たったが、奴は落ちて来ない。
向こうも、こちらの存在を認識したようだ。
速度を上げて向かって来る。
久し振りの魔族との戦いが始まる。