第7話「2人目の仲間」
(ああ、憂鬱である。)
世の中、何でこんなに上手く行かないのだろうか?
私の名は、ナルルガ。
オルタナの町の冒険者で、魔術師である。
魔術師という職業は、やや珍しい部類に入る。
魔法を主体にした職業である故に、希少な職業なのだ。
だが、問題がある。
駆け出しに近い私には、仲間がいない。
仲間に誘われる事は、以前は幾度もあったが、皆使えない。
冒険者は、圧倒的に戦士を選ぶ初心者が多い。
だから、そんな脳筋な連中に、魔術師という複雑で繊細な職業を理解しろというのが、そもそもの間違いなのかもしれない。
魔術師は、魔法をイメージしたり呪文を唱える事により発動させる。
なので、敵と向かい合って戦う事は苦手なのだ。
けれど、そんな簡単な事さえ理解してくれない。
戦士と横並びになって、魔獣と戦う事などできはしない。
簡単な事さえ理解しようとしない連中は、私を我儘と決め付け、いつしか仲間に誘われる事は稀になっていた。
どこかに私の盾になれとは言わないが、守ってくれる頼れる冒険者はいないのだろうか?
翌日、キオウと今後の話し合いをした。
互いのレベルは今は、キオウは戦士Lv.11 、自分はLv.9となっていた。
今後、更なるレベル上げをするとなると、新たな仲間が必要となって来る。
それも2人が戦士だから、できれば神官か魔術師の仲間が理想ではある。
困った時は、ギルドの看板娘マサキに相談だ。
マサキ「新しい仲間、それも神官か魔術師をやっておられる方が希望ですか? そうですね~。」
マサキも、少々考えているようだ。
マサキ「サダ君達と、そんなに不釣り合いではない人は、う~ん、適任者がいない訳でもないのですが・・・。」
何故か、マサキの言葉の歯切れが良くない。
「やっぱり、そんな人は、いませんか?」
マサキ「いえ、1人いるのですが、どうなのでしょうか?」
まだ、誰ともパーティーを組んでいない魔術師で、レベルも自分達と同じ位な人物が1人、いるそうだ。
マサキ「彼女は、ちょっと難しいかもしれませんが、一度会ってみますか?」
キオウ「まあ、とりあえず、会わせてください。」
その人物は、パーティーを組んでいないというよりも、組んで貰えないのだと言う。
紹介された人物は、ナルルガという17歳の女性である。
Lv.9の魔術師で、得意な魔法は火属性と風属性だそうだ。
魔法の方は、火属性Lv.10、風属性Lv.9だと言う。
条件は申し分ない。
ただ、ナルルガの方ではそうでも無いようだ。
自分達には、目を合わせないように顔を背け、前側で腕をガッシリと組んでいる。
ナルルガ「どうせ組むならば、もっと頼りになる人と組みたいの。」
それが、彼女ナルルガの意見だ。
(何よ。駆け出しの戦士が2人なんて、実力不足じゃない)
ナルルガ「ねえ、あなた達は、魔術師がどんな職業だか解ってる? そりゃ、魔法は強力で、いろいろな効果もあるけど、それを発動させるのに時間も掛かるの。それに、防具もあんたらみたいに、重くて硬い物を着る訳でもない。ちゃんと私を守れるのでしょうね?」
キオウ「いや、それは解っているつもりだから、ちゃんと、あんたを守るよ。」
ナルルガ「つもりじゃ理解が足りない。しっかりと、私を守る為にも、相応のレベルの人と組みたいの。あんた達には、荷が重いんじゃない?」
だが、そうも条件の良い相手は見付からない上に、彼女自身にも問題があるようだ。
何度か別の冒険者と組んだ事はあるそうだが、どれも長続きはしない。
気付けば、街の冒険者で、彼女を相手にする人物はいなくなっていた。
1人で依頼を何とかこなしてはいるようだが、危険度の余り高くない低報酬の物しか受けていないようだ。
マサキが説得してくれる。
マサキ「ナルルガさん、ご安心ください。サダ君達は、今まで受けて頂いた依頼は全て目的を達成しています。先日は、共同で他の冒険者らと、一角鬼の討伐を無事に終えた実績もありますし、あの岩熊を討伐してもいます。」
ナルルガが、初めて自分とキオウをちらりと見た。
マサキ「それに、この町では、ナルルガさんと組んで仕事をしたいと思っている人は、もう他にいませんよ~。」
ちょっと意地悪そうに、マサキは畳み掛ける。
ナルルガ「そっ、それは他の冒険者が悪いのよ。」
ナルルガも自覚があるらしく、痛い所を突かれたのか、少々慌てている。
マサキ「一緒に活動する人がいないと、これからの仕事は大変ですよ~。レベル上げとか、1人で大丈夫なんですかね~。」
ナルルガ「そ、そうね。仕方ないから、お試しで一緒になってあげてもいいわよ。」
渋々、期間限定で自分達と組む事になった。
ナルルガ「いい、もしも何かヘマしたら、即解散だから。覚えておいてね!」
ナルルガと挨拶をしたが、彼女は「ぷい」と横を向いて、こちらを向いてくれない。
やっぱり、自分達では、物足りないのか?
だが、一時的でも仲間になるならば、もう少し合せて貰いたい。
見た目は、そんなに悪くないのにな。
赤毛のロングヘア―の可愛い子ではあるが、少々目付きが鋭い。
3人での初依頼を受ける。
今回は、水辺大トカゲを5匹討伐するのが依頼内容だ。
水辺大トカゲ、その名の通りに河川や沼沢などの水辺に生息する魔獣扱いもされる大トカゲだ。
二足で立ち上がる事もあり、160cm程の体高になる。
牙に毒もあり、油断ができない相手だ。
ただ、火に弱いので、ナルルガの魔法との相性は良い。
少数の群れで水辺で狩りをする習性があり、人や家畜に害が出る事が多い。
町の近くにある小川を遡って探す事にする。
流石に、町の近くに大トカゲはいない。
川辺では釣りをする人もいれば、家畜に水を飲ませている人もいる。
そんな人が数人づつ固まって、それぞれの作業をしている。
複数人でいるのは、大トカゲを含めた魔獣への警戒でもある。
そんな光景が、町から30分程歩いた所まで続いていた。
町人の姿が見えなくなったところで警戒の為、自分とキオウが左右に広がり先を歩き、ナルルガが後ろに続く。
今回は、リーチの長い武器の方が適すると思うのでキオウは手槍、自分は連接棍を装備して来た。
ちなみに、ナルルガは先端に魔法石の付いた杖を装備している。
防具は魔術師だからか、鎧ではなくえんじ色の上着にズボン姿だ。
ただ、街中で着るような普段着ではなく生地は厚く魔法の刺繍が施してあり、これがある程度の防御力を備えているらしい。
自分達の後ろをナルルガは歩いているが、どこか他人のように微妙な距離を空けている。
キオウ「この川は、俺の故郷の村にもつながっているんだ。ガキの頃は、夏場によく遊んだよ。」
「そうか、自分も同じだな。村の近くの川とか、池とか。泳いだり、魚獲ったり。」
キオウ「ナルルガは、どうだったの?」
ナルルガ「そうね。どうだったかしら?」(はあっ)
何度か彼女にも声を掛けたが、気の無い返事の後は、何故か溜息だ。
・・・、上手くやれるのかな?
そのまま、1時間近くは歩き続けている。
軽く休憩を取り、再び小川の横を歩き始める。
そうだ、何時の日にか、こんな小川で遊んだ記憶がある。
釣りをしてボートに乗り、その他にもいろいろと遊んだ思い出もあるが、何か違和感もする。
あれ? 本当に自分の経験か?
キオウが、川辺で何か見付けたようだ。
キオウ「見ろ、這った跡が、ここにある。しかも、1匹だけじゃない。」
「水辺大トカゲか?」
キオウ「多分、そうだ。2,3匹は、いるぞ。これは。」
周囲を警戒しながら進む。
しばらくすると、川岸で大トカゲが集まって何かをしている場面に出くわす。
数は3匹、何か動物の死骸に食らいついているようだ。
「ゴォー!」と、音を立てて火球が幾つも大トカゲに襲い掛かる。
ナルルガが、魔法を使ったようだ。
数十発は、叩き込まれただろうか。
後には黒こげの大トカゲが3匹転がる。
凄まじい攻撃だ。
魔術師とは、こんなにも強力な職業なのだろうか?
ナルルガが、息も乱さず得意げな顔を自分達に向けて来る。
「あんたらも、ちゃんと働いてよ」と、言って睨んで来た。
悪態も忘れないようだ。
まだ依頼の討伐数に足りないので、探索を続ける。
討伐の証に、大トカゲの尻尾の先端を切り取った。
しばらく進むと、何やら川岸が騒がしい。
大トカゲの群れがいる。
それも7,8匹はいるだろう。
その水辺大トカゲが半円形に広がり、何かを囲んでいる。
「来るなっ!」
男の叫び声が聞こえる。
農夫らしき男が地面に尻もちを付き、棍棒を振り回している。
どうやら、大トカゲの群れに襲われたらしい。
その足には、大トカゲに噛まれたのか血が滲んでいる。
猶予は無い。
キオウと2人で、大トカゲの後ろから攻撃に出る。
キオウの槍が1匹の大トカゲを貫き、こちらは連接棍で1匹の頭を砕く。
「大丈夫か?」
「冒険者か? ああ、助かった。足を噛まれて動けないんだ。」
ナルルガの拳よりも大きな火球が、1匹を黒こげにする。
続いて、2匹目も火球に包まれ悶え苦しむ。
ナルルガばかり働かせられない。
キオウと自分も、武器を振り回す。
噛み付いて来ようとする大トカゲの攻撃を避け、連接棍を叩き付ける。
半数は倒した頃、周囲の叢からガサガサと音がする。
大トカゲが4,5匹飛び出して来た。
キオウ「また、来た。」
男が襲われないように庇いながら戦いを続ける。
何時までも時間を掛けていると、また大トカゲが出て来るかもしれない。
男の周りに風が纏わり付いて行く。
ナルルガが風の防壁を魔法で生み出したようだ。
これで、しばらくは戦いに集中できる。
「ギャッギャッ」と大トカゲの鳴き声が響く。
囲まれないように立ち回り、確実に止めを刺して回る。
大トカゲの数も大分減った頃、再び叢がガサガサと音がする。
ぬっと、1つの影が乗り出して来た。
今までの大トカゲよりも、一回り大きな奴が目の前に出て来た。
群れのボスなのだろうか?
「シャーッ!」息が漏れるような何か威嚇するような音が、そのボストカゲから聞こえる。
その大きな瞳に、見詰められる。
不意にそいつは、飛び掛かるようにしてこちらに向かって来る。
雑魚に比べて、動きも早い。
連接棍で頭を狙うが、上手く打ち込めずに背中を打った程度だ。
黒い塊を辛うじて避け、目でその動きを追う。
マズい、ナルルガの守りができない。
自分に避けられて突進を止めたボストカゲが、ナルルガをじっと見詰める。
その一瞬の立ち止まりを見逃さずに、ナルルガの火球が大トカゲを狙う。
ボストカゲは、今度はナルルガを目掛けて走り始める。
「クギャーッ!」
ナルルガの放った火球を受け、ボストカゲの苦悶の叫び声を上げるが、まだその動きは止まらない。
続けて2つ3つと火球が直撃するが、突進が続く。
慌てて身を避けるナルルガ。
ナルルガ「何、こいつ! あんたら、何とかしてよ!」
杖を体の前に突き出すナルルガ。
その杖が、僅かに震えている。
「待ってろ、今、行く!」
全力でナルルガの元へと走り、ボストカゲが振り向いた所に間に合ったので、連接棍を滅多打ちに叩き付ける。
「クギャアー!」と叫び、仰け反る大トカゲ。
そこを再び火球が襲う。
5,6発の火球を喰らって、ボストカゲの動きが止まる。
そこへ連接棍で殴打してやった。
ようやく、ボストカゲの動きが止まる。
息絶えたようだ。
キオウの方を向くと、最後の大トカゲに止めを刺している所だった。
一息付きたい所だが、また大トカゲに出くわすのは避けたい。
男に解毒薬を飲ませ、応急処置を施し町へ戻る。
自分が肩を貸し、男を支えて戻る事にした。
男は野草探しを1人でやっていたそうだ。
なかなかに見付からないので、あの場所まで来てしまったところ、大トカゲの群れに襲われてしまった。
あのまま自分達が駆けつけなかったら、今はどうなっていただろう。
「これからは、1人でこんなに遠くまでは来ないようにしてください。」
男「ああ、そうするよ。今日は、本当に助かった。君達、ありがとう。」
「いえ、これも依頼のついでで、当たり前の事をしただけですから。」
男「それでも、君らは恩人だ。ありがとう。」
今回、水辺大トカゲの討伐数はボスも含めて15匹にもなった。
報酬の方も期待できるだろう。
討伐の報酬は80シルバー、追加の討伐で100シルバー、1人60シルバーとなった。
ナルルガとの期間限定の関係はしばらく続く事になった。
ただ、飽くまでも期間限定で、自分達の実力ではまだ彼女を納得させていないそうだ。
別れ際、彼女は不貞腐れているようにも見えたが。
(ふう、今日は何とか無事に依頼が終った。)
ここは、宿のナルルガの部屋らしい。
なかなかに小奇麗な、一人部屋である。
(でも、合格点はあげられはしない。)
2人の戦士だけど、武器の扱いは悪くはないようだ。
初心者だけど、ちゃんと戦い方は解ってる。
けど、ダメなのは、魔術師へのサポートってものが解っていない。
呪文を唱える間、それから不意に動く魔獣の動きへの対処が足りない。
初めて魔術師と組む人に、それを求めるのは無理かもしれないけど。
まあ、今まで組んだ奴よりは、マシなのかな?
(もう少し、様子をみよっか?)