第69話「退魔陣、発動」
村の中に描かれた魔法陣が、白い光を発し始めた。
その光る魔法陣から、風が舞い上がって行く。
風が舞い上がると、それが村の外周へと大風となって広がって行く。
その突風が、何波も続いて広がる。
その風に当たった一角鬼らが、動きを止めた。
村の周囲にいる全ての鬼が、その動きを止めているようである。
すると、その風に背中を押されるように一角鬼が背を向けると、次々と村から離れた始めた。
やった、術は成功したようだ。
ナルルガを見に行くと、地面に倒れていた。
「ナルルガ! 大丈夫か?」
ナルルガを抱き起こしてみると、息はあるようだ。
他の術者らも同様である。
イルネもフォドも神官らも、魔力が尽きてしまったようだ。
ナルルガらを村の家屋の寝台に寝かせた。
村人達に世話を頼むと、自分達は村の周囲を調べた。
また、周囲の町へも窮状を伝え、支援を要請する。
村の中に退避させておいた馬に跨り、周囲を探る。
本当は、馬から転げ落ちそうな程に疲れ切っている。
だが、休みを取る前に周囲を調べておきたい。
周囲の街道、森の入り口と馬を進めて探し回るが、どこにも一角鬼の姿は見えない。
一角鬼は去ったようだ。
だが、どこに?
今は、その先を探る余裕はない。
捜索を打ち切り、村へと戻る。
夕方頃には、周囲の町村からの支援の物資や兵士らが幾人か来てくれた。
自分達の疲労も限界なので、休ませて貰う。
寝る場所など無いのだが、馬屋の藁の上で横になると意識を失った。
もう、どこでも横になれば、いいのだ。
ああ、藁の匂い、それは故郷の匂いの1つでもあるな。
意外と心地よい。
目が覚めたのは、翌日の昼間近であった。
藁の山から体を起こすと、背伸びをして馬屋から出る。
村は、無事であった。
だが、今は、そこかしこで、兵士らが行きかい、様々な物資も届けられたようだ。
指揮所となった宿へを覗いてみると、あの中年騎士の姿は無く、フランが村の周囲で手勢を指揮していた騎士や、新たに到着したと思しき騎士らと共にいた。
イルネとキオウも、そこに来た。
ナルルガらは、まだ眠っているらしい。
イルネも、まだ疲労が残っているようなので、もう少し安めと伝え寝所に戻した。
改めて、フラン、そして集まった騎士から礼を言われた。
フラン「君達のお陰で、村を護り通せた。」
いや、それはここに集まった各自が奮闘した結果だろう。
特に、フランは恐れもせずに、常に先頭になって戦い、周囲の兵らを鼓舞していた。
「流石は、伯爵令嬢ですな。」
周囲の騎士らから歓声が上がる。
伯爵令嬢? フランが? 貴族の出かと思ってはいたが、そんな高位の家系だったとは。
フラン「いや、諸君、止めてくれ。昔からお転婆娘で、今もこんな立場なのだから。」
更に周囲の笑い声が高まる。
一段落したので、現状の説明が始まる。
今や、周囲の町村からの援軍が到着し、その兵力は200ばかりになっているそうだ。
既に、周囲の哨戒も行われ、数km以内に動く遺体も一角鬼の姿も無い事が確認されている。
取り合えず、今回の危機は去ったと考えても良いとは思うが、数日は警戒を続けるつもりだそうだ。
また、周辺の街道沿いで、砦を築き防衛拠点を設置するつもりだが、今はまだその場所を選定中だと言う。
それと、中年騎士だが、今回は存分に働いたので他の者に後は任せたと領地へと帰って行ったそうだ。
奴は、何をしに来たのか。
フランから改めて、自分達の使った呪文の事を聞かれた。
これは説明が必要だと思われたので、自分達が無国籍地域の廃都市で動く遺体と遭遇した事、その為の対処をギルドに頼まれ、更に入手した札を元にケリナの魔法学院で対抗策を講じ、そこで得られた呪文を授けられた事などを説明した。
アグラム伯爵の事は、念の為に伏せておいた。
フランも、呪文を教えて欲しいと頼んで来たが、それにはナルルガが適任だと思うので、彼女が起き出すのを待つ事にした。
だが、他の術者らが夕方には回復して起き上がったが、ナルルガが起き上がったのは翌朝になってからであった。
今回は、流石のナルルガも消耗し切ったようである。
それだけ、彼女が必死に魔法を使った証でもある。
起き上がったナルルガは、食べ続けた。
普段は、そんなに食が太くない方だが、今の彼女は違うようだ。
出された皿を片っ端から片付け、飲む。
普段の3、4倍は食べていただろう。
食べ終わると、また寝ると言い出し、昼頃まで寝ていた。
やっと起き出すと、遅めの昼食を食べらながら、フランの話を聞くナルルガ。
フランや神官、そして魔術師らに呪文を教える事を快諾した。
ナルルガの休憩が終ってから、村の片隅で呪文の講義が始まった。
「光の円陣」に関しては、既にこちらに伝授されているので、他の呪文を教えていたようだ。
「光の尖槍」「光の御符」も教えていたが、その他にも、
「光輝鞭」、光の鞭を作り出し、相手を攻撃する呪文。
「光火弾」、光の弾の強化呪文で、炸裂させて広範囲に攻撃する。
などの呪文も教えていた。
自分達も知らない呪文もあったが、まだ他にも魔法学院で呪文を入手しているらしい。
数日は、自分達もフランと共にガノアの村に滞在し、周囲の警戒などの手伝いをしていた。
特に、マレイナ、ナルルガ、イルネとフランが過ごす時間が増えているようだった。
フランも周囲に女性が少ないので、自然とうちの女性陣らとの交流が増えて行ったようだ。
今では、村の宿屋に彼女らは寝泊まりしている。
自分達、男連中は、相変わらず村の外側に設営されたテントでの生活だが、それに不満は無い。
周囲の警戒を続けていたが、問題は無さそうである。
村の少なからずの被害も復旧し、防御柵の強化も終えた。
遺体の火葬も、ほぼ終っている。
付近での砦の建築は、まだ未完成だが、最初に派遣されていた騎士や兵士は帰される事となり、自分らもフランと共にパシコの町へ戻る事となった。
帰り道は、念の為に襲撃を警戒したが、気苦労で済んだ。
パシコの町へ戻ると、改めてフランと話し合った。
今回の一角鬼の村への襲撃は何であったのだろうかと。
動く遺体の後に現れたからには、無関係と思う方がおかしい。
相手は誰なのか解らないが、動く遺体も一角鬼も操れると考えても良いだろう。
一角鬼から回収した魔票も調査に回すと言う。
ここで、フランに頼んでみた。
動く遺体と一角鬼から取り出した魔票を分けて貰えないかと。
それをこちらは、ケリナ魔法学院へ届けたいと。
フランは、「見なかった事にする。」と言い、それぞれの魔票を1つづつ部屋の机の上に放置し部屋を出て行った。
自分達は、その好意に感謝して魔票を受け取った。
魔票を入手し、取り合えず今回の目的は果たしたかと思う。
ただ、また変化があるかもしれないので、しばらくはパシコの町でギルドの依頼を受けていた。
数日後、フランに呼び出されて、各自20ゴールドの報酬を受けた。
フラン「遅くなって、申し訳ない。本来は、もっと出すべきなのだろうが、今はこれが限界だ。」
フランとの別れも近いのかもしれない。
それから、数日後、自分達はパシコの町を後にした。
フランや彼の部下である、ガノアの村やフードの集団と一緒に戦った兵士らが見送ってくれた。
さて、まずは、ケリナの街へと戻ろう。
軽くご挨拶のような物を書かせて頂きます。
投稿開始から1ヵ月が過ぎました。
初の投稿作品ですが、ブックマークが60人に達し、私も驚いております。
皆様、ありがとうございます。
まだまだ、物語は続きすが、これからもよろしくお願いいたします。