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第68話「続く襲撃」

動く遺体を撃退したと思ったのも束の間、今、ガノアの村は、新たな敵に包囲されてしまったようだ。

今度は、魔獣の群れ、その正体は一角鬼の大軍だ。

その数は、何匹いるのか解らない。

一角鬼自体は、差ほどに脅威となる魔獣ではない。

だが、自分を含め、守備に付く兵士らは、一晩中、動く遺体の対処に追われていたのである。

魔力の消耗は、体力、気力の損耗である。

戦い続けるには、限界に近付きつつある。

しかも、負傷した兵士もいるのだから、戦力は大幅に低下している。

仕方なく、こちらは障害や村の柵まで引き下がり、迎え撃つしかない。

無傷の中年騎士には、不服なようだが。


迫り来る一角鬼を観察してみると、普通に見られる奴らとどこか違う。

鎧などの防具は、いつものように付けずに、粗末な布製の服を来ている。

だが、何故か、手に持つ武器が彼らにしてみれば上等な物ばかりだ。

短剣、手斧、手槍など、駆け出しの冒険者が手にするような武器を携えているのだ。

それから、首から鎖で魔票のような物をぶら下げている。

あの魔票は、何の為の物なのだろうか?

まさか、魔獣を操る事にも使えるのだろうか?


押し寄せて来た一角鬼が、更に迫って来る。

障害の後ろから、まずは弓を放って迎撃する。

だが、今回は、動く遺体との戦いを想定していたので、弓も矢も数が少ない。

直ぐに、矢を撃ち尽くしてしまった。

矢が飛んで来ない事を悟った一角鬼らが、各所に殺到して来る。

試しに、魔票をぶら下げる鎖を切り離してやった。

それで、一角鬼は、何物かの呪縛を解かれたようではあるが、周囲の仲間と同じくこちらを攻撃し続ける。

こいつらには、元から人間らを攻撃する習性があり、今は数を傘に着て押し寄せているのだ。


疲れた体に鞭を打ち、何とか気力を奮い起こして一角鬼へ武器を振るう。

ここまで苦しい戦いをするのは、いつ以来であろうか?

白狗毛鬼との戦い以来か? それとも別の相手だったか?

今は、そんな事を考えている暇は無い。

気力を振り絞って、一角鬼へと武器を突き付ける。

だが、体がどこか重く鈍く感じる。

周囲の仲間らも兵士らも同じ様子だ。

このままでは、村の護りがどこかで破られるのも、時間の問題だろう。

徐々に、後退を続け、今は村の柵の内側に追い込まれてしまった。

それは、他の場所でも同様である。

一角鬼により、村の中に閉じ込められたような状態である。

しかも、マズい事に、兵らの食料や予備の武器などは、野営地に残したままである。

このまま数日を耐えて、援軍を待つ事は可能なのだろうか?


村の入口がある場所で、一角鬼と兵らの小競り合いが続く。

まだ、一角鬼も、一気に責めて来はしない。

だが、それがいつ変わるかも解らないのだ。

火を付けたり、火矢などを使っては来ないが、それもやがて仕掛けて来るかもしれない。

この状況になっても、中年の指揮官はフランやその他の騎士らを罵るだけである。

フランらの手際が悪いから、魔獣などに追い込まれているなどと喚いているだけだ。

だが、怒鳴るだけで、彼に打開策がある訳でもない。

この期に及んでも、部下であるフランらに「何とかしろ」と言うだけである。

今や、戦える兵は、40人程で、その内の10人は中年騎士の護衛だそうで使えない。

村人の数は、200人程いるが、何とか戦える者は90人くらいしかいない。

対する一角鬼は、300匹はいるのではないか?

総数は、解らない。

絶体絶命である。


何か、手は無いのか?

全員で、包囲を突破し、周囲の町まで逃げ伸びる事も提案された。

しかし、兵士らはまだしも、村人の半数は脱落し一角鬼の餌食になる事だろう。

このまま援軍を持つとしても、周囲で異変に気付いているかも不明である。

場合によっては、見殺しにされる可能性もある。

その時、ナルルガが話し始めた。

「もしかしたら、奴らを撃退できるかもしれない。」

ナルルガが言うには、村全体に魔法陣を描き、対魔用の術式を発動させる。

本来ならば、魔族などの魔法に依存した存在への防御呪文だが、魔票で操られている一角鬼ならばある程度の効果があるかもしれない。

けれど、それを発動するのも、今の魔力では一回きりで、効果も不明である。

それを、魔術に長けた者が手伝うならば、2時間程で準備ができるだろうと。

ただ、そんなに大掛かりな魔法陣をナルルガ自身も使った事は無いのだ。

しかし、藁にすがるつもりで、ナルルガの魔法陣を敷く事を決定する。

彼女を、イルネとフォド、それに4人の神官が補佐する。


村から、小麦粉が集められる。

その小麦粉を呪文で清める。

そして、村の柵の内側に、小麦粉で魔法陣を描いて行く。

村の内側に円形の陣が描かれた。

それの内側に、また別の紋様を小麦で描く。

その魔法陣を描くまでに1時間。

あとは、周囲で術者らが呪文を唱えて行く。

皆、魔力を消費しているので、呪文が発動するのに、時間がいつも以上に必要になるそうだ。

その準備をしている間も、一角鬼の侵入を防ぐべく、小競り合いが続いている。

小競り合いと言うが、一角鬼を徐々に減らしてはいるが、兵士らの負傷者も増えている。

日は既に登り切っている。


まだまだ、術者の呪文の詠唱が続いている。

彼らの負担も相当に大きいはずだ。

ナルルガ、イルネも他の術者らも、必死に呪文を唱え続け、それが魔法陣へと魔力を籠めて行く。

自分達も、何とか一角鬼の侵入を防いでいる。

村人の中で戦える者らも、大型の鎌や脱穀機などの農具で応戦している。

戦えぬ村人らも、負傷者の手当などに追われている。

それに参加していないのは、中年騎士だけである。

彼の護衛達も、応援に駆け付けたいようだが、それを制しているのも彼なのだ。

彼には、護衛らがいなくなる事の方が恐ろしいようだ。


魔法陣を描き始めてから、既に2時間が経過している。

だが、まだその術を発動させる為の魔力を陣に注ぎ込む作業は終らない。

術者の消耗が思った以上に多く、魔力が不足しているのだ。

村の所々で、一角鬼が侵入を始めている。

戦えない村人らを村の中央に集め、侵入した一角鬼を切って回る。

それそろ限界であろう。

と、村人が避難した場所にも何匹かの一角鬼が入り込む。

それは、中年騎士の護衛らが撃退したようだ。

今となっては、この村の中に安全な場所など残っていないようだ。

呪文を唱える術者への護衛も必要である。

もう、どこにも余裕のある人手など無い。


その時、村の中に描かれている魔法陣が光を発し始めた。

ついに、術が発動するのか?

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