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第67話「死者夜行」

村の臨時に設置された指揮所に入った。

宿屋の食堂をその場所にしているようであった。

ある程度、人が入れる場所は、この村にはそこしか無いようだ。

冒険者ギルドも、村が小さいので、ここには無い。

周囲の街から派遣されて来た兵士らは、既に30人程が集まっているそうだ。

今回は、派遣されて来た中年の騎士が指揮を取り、フランや自分達は彼の元で活動に参加する。


その中年の騎士は、このような荒事は余り得意にしているようには見えない。

どこか落ち着きが無く、指揮官として資質に疑問がある。

常時、周囲にいる村人や兵士らに、必要以上に怒鳴り散らしているのだ。

(何だか、嫌な奴だな。)

フランがその中年騎士に挨拶をすると、現場の指揮を彼女に取れと押し付けて来た。

「貴殿は、パシコの町で遺体らと戦った経験があるであろう。それを今回も活かして、存分に働くが良い。」

結果的に、これで良いのかもしれない。

フランと自分達は、村の外の野営地をあてがわれたので、そこに移動する。

テントなどは自分達で設営した。

フランは、ナルルガらと4人で1つのテントを使う事になった。

フ「よろしく頼む。」

フランがうちの女性らに挨拶していた。


設営の準備ができたので、他の派遣されて来た兵士らの指揮官と顔を合せる。

村の指揮所へは行かず、野営地でだ。

派遣されて来た指揮官らは、皆、位は低いが全て様々な経験を積んだ騎士達であり、頼もしい人物ばかりだ。

あの中年騎士の指揮官よりも、遥かに頼りになりそうだ。

皆、フランよりも年上だが、彼女が現場の指揮を取る事に不満は無いようだ。

周辺を偵察して来た騎士によると、散発的に数体の動く遺体が目撃され、その全ては既に片付けたようだ。

動く遺体は、人間らを見ると襲い掛かって来るので、油断は禁物だそうだ。

やはり、自分達が廃都市で遭遇した遺体とは違う。

その日の夕方までに、ガノアの村の兵力は50人程に膨れ上がった。

翌日、半数の兵力で、周辺の威力偵察を行う事が決まった。

フランがその事を中年騎士に報告しに行くと、「好きにしろ」だそうだ。

野営地で食事を終えた後は、見張りを立て大半の兵士らは眠りについた。


多分、夜中を過ぎた頃であろう。

鐘が急に鳴らされた。

緊急を報せる合図の鐘である。

自分達も飛び起き、武器を手にしてテントから出た。

鎧等の装備は付けたままで、眠っていた。

伝令が、野営地の中を走り回りながら、報告する。

「動く遺体が現れたぞ!」

どうやら、連中が動き出したらしい。

松明を灯す数を増やして、視界を広げる。

野営地を含め村の周囲に灯し、周囲に兵達を広げて展開する。

村の東西南北に、兵を約10人つづに配置し、引き連れて来た騎士が各個に指揮を取る。

自分達はフランと共に、村の正面口を受け持つ。

中年の騎士とその手勢は、村の中で村を護るそうだ。

やがて、松明が照らす範囲に、ゆらゆらと人影が見え始めて来た。

久し振りに、動く遺体が姿を現した。


四方に配置された兵力の中には、1人づつ神官が配置されている。

神官らは、動く遺体が集中した場所には、「光の円陣」の呪文を使っている。

これは、前回の動く遺体が大量発生した後に、ラッカムラン王国から提供された魔法の呪文である。

だが、その術が使える者の数は少ない。

後は、兵士らが遺体に切り付け、札、いや魔票を剥がして行くしかない。

けれど、それは危険が伴う作業である。

ここの動く遺体の動きは決して遅くなく、凶暴でもある。

少数の相手ならば、複数の兵で囲んで対処もできるが、その出現する数が徐々に増えつつある。

最初は、こちらが優勢であったが、徐々に押されつつある。

各所で兵達は戦い続けてはいるが、少しづつ村へと後退しつつあるのだ。


自分達も、何体もの遺体を倒し魔票を剥がしたが、新手が次々と現れている。

ざっと数えて、目の前に50体はいるだろうか?

そろそろ、こちらも本気を出すべき時かもしれない。

「よし、行くぞ!」

そう掛け声を出すと、仲間達は行動に出た。

「光の尖槍」、闇の魔術で動く相手には有効な攻撃手段となるはずである。

しかも、これは魔族らにも効果がありそうだ。

自分達が次々と生み出す光の槍は、撃ち出すと数十mを飛び、遺体を貫いて行く。

それに当たった遺体は動きを止め、地面に崩れるようにして倒れた。

その胸元から、例の札に似た魔票が転がり落ちる。

光の弾よりも数段も強力な対闇呪文である。

おお、タバル教授の呪文は強力だ。

フ「! その呪文は!」

驚くのは、当たり前であろう。

だが、今は説明している時ではない。

そのまま呪文を使いながら、動く遺体を掃討して行く。

やがて、視界内の遺体は全て動きを止めていた。


フ「何なんだ、あの呪文は?」

フランに問い詰められたので、対闇魔法の呪文である事を説明した。

それだけ聞くとフランは、他の場所への支援に向かうように要請して来た。

しかし、この場の護りも必要と思うので、マレイナとフォドをフランの元に残し、自分達はまだ激戦の続く場所へと急いだ。


村の周囲各所で、守備兵らは押されていた。

そこへ自分達が駆け付け、遺体を光の尖槍で片付けて行く。

1ヶ所の数が減れば、また次の場所に移動し、呪文を放ち続けて行く。

どこに行っても、数十の遺体が蠢いている。

負傷した兵士が少しづつ増え始めていたが、何とか護り通せそうである。

村を一周して、フランの元に戻った時には、気力も半分以下に尽き掛けていた。

あのナルルガでさえ、肩で息をしているような状態である。

特に、彼女の場合は、自分らの倍以上の呪文を使っていたのだから仕方ない。

しかし、その甲斐もあって、ほぼ動く遺体は姿を見せなくなっている。

これで、今回は動く遺体を撃退できたのだろうか?

自分らがいない間に、マレイナとフォドが、フランに説明していたようだ。

自分達が秘密を隠していたのだが、それを不満に思う様子はない。

フ「いや、君達がこの場にいてくれた事で、今回は何とかなりそうだ。何よりの援軍だよ。改めて感謝を致す。」

フランは前向きに考えてくれたようだ。


もう夜明けが近付いている頃であろう。

長い夜が、明けようとしている。

灯した松明も、半分くらいは燃えているようだ。

だが、その消えかかった松明が、新たな影を浮かび上がらせた。

無数の何かが、再び村に忍び寄って来る。

また、動く遺体か?

いや、どうも違う。

一角鬼だ。

一角鬼の群れが、村へと押し寄せて来たのである。

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