第66話「協力関係」
翌日、役所に行くと、フランの調査に協力すると伝えた。
フ「諸君、ありがとう。協力に感謝する。」
フランは、騎士なのに、流れの冒険者の自分達にも礼儀正しい。
身長は、ナルルガとほぼ同じくらいなので、162cm程。
短い金髪、獣人特有のやや大きな目が特徴である。
礼儀正しい態度に、生真面目な性格が見える。
言葉使いからして、貴族か騎士の家系の出なのであろう。
こちらも、協力するからには情報が欲しいと伝えた。
特に、武装した集団の事、動く遺体に関する事の二点だ。
フランは、答えられる範囲でと、前置きして語り始めた。
まずは、武装した集団に関してだが、正体は解らないが、これまでに数人は確保して尋問も行ったそうだ。
ただ、捉えた連中は、何も知らないのか口が硬いのか、どんなに尋ねても答えはしないのだとか。
その聞き方に関しては、こちらも探りを入れるつもりはない。
今まで、40人近くは、生死を問わずに確保できたが、今も複数人が廃村の付近をうろついていると言う。
今も出没するのは、今後も何かしらの騒動が起きる可能性を否定できないので警戒を続けているらしい。
ただ、範囲も広いので、常に全域を監視し続ける事はできていないようだ。
なので、街道の幾つかのポイントを警戒する程度の事しかしていない。
所属する国籍なども不明で、今のところは人間族ばかりで構成されている事しか解っていない。
武器の扱いにそれなりに慣れているので、傭兵か冒険者の経験者と予想している。
動く遺体に関しては、魔法が関わっている事まで教えてくれた。
何物かが、魔術を使い動かしていると。
その魔法も、未知の呪法で作られたアイテムによるものだと教えてくれた。
フ「我々は、そのアイテムを魔票と読んでいる。」
魔票、多分、自分達が札と呼んでいる物と同じだろう。
その使い方など、不明な点が多いそうだ。
それを、この国の魔法庁などで現在調査中と言う。
その魔票を見せて貰えないかと頼むと、「それは、また今度な。」と言葉を濁された。
今後の働きで信用できれば、見せるという事だろうか?
自分達も、武装集団に襲われる心当たりは無いか、また聞かれた。
なので、故郷で襲われた事もあるが、それは山賊の類であり、ここで襲撃して来た連中と関りがあるとは思えないと答えた。
治安が悪い場所は方々にあるので、その返事を疑う事は無いだろう。
魔票や遺体に関しては、こちらがまだ手札を見せていないので、聞かれる事は無かった。
こちらは、まだ飽くまでも通りすがりの冒険者なのだから、そんな事は知らないのだ。
協力するとは言ったが、今の段階で自分達に今までの経緯をまた話すくらいしか無いので、また何かあればという事で解放された。
こちらも、しばらくギルドでの仕事をしていると伝え、役所を後にした。
それから数日は、廃村の付近を避け、別の場所で魔獣を討伐して回った。
すると数日後、ギルド経由でフランからの連絡が来た。
フランから呼ばれたので、役所へまた向かった。
彼女の説明では、少しばかり離れた村で、動く遺体が数体目撃されたそうだ。
周囲の町村でも体勢を整えつつあるが、以前に対応したこの町へも応援要請が出たらしい。
ただ、こちらの町も警戒を続ける為に、差ほどに多くの人数を割く事はできず、自分達にも応援を頼めないかと言う事だ。
現場には、フランが兵を率いて行くが、彼女に付けられる兵士は僅かに8人だとか。
今回は、上の判断で、形だけの応援となるらしい。
フ「全く、いいように扱う。」
彼女も不満なようだ。
自分達も、彼女に同行する事に決めた。
フ「諸君、感謝いたす。」
こちらも、札や動く遺体を調べる為に来たのであるから、断る道理は無いのだが。
フランの騎馬と、馬車に8人の兵士を乗せた一行に、自分達も馬に乗り続く。
場所は、馬で3日程の距離にあるガノアの村だと言う。
動く遺体の目撃数はまだ数体であり、前回程の規模ではないようだ。
だが、いつ大量の動く遺体が発生するのか解らないので、早めに対処する事とする。
また、周囲の町村では、土葬した死者を掘り返し、火葬にし直す事も進められているらしい。
街道をできるだけ急いで進む。
パシコの町を出て、1日が過ぎた。
自分達は、フラン達と街道を進んでいる。
周囲は、街道の右手側が、やや森が近い場所であった。
急に、マレイナがナルルガに馬を寄せると、声を上げた。
「ナルルガ、障壁を張って、お願い。」
事態を把握して、直ぐ様にナルルガが魔法で防護壁を展開する。
それに、フォドも対応する。
自分達の騎馬や馬車を障壁の中に入れる事はできた。
そこへ、森の中から、矢が何本も撃ち出された。
障壁で威力を失う矢。
向こうは、連続で射かけて来るが、全て防げた。
だが、その数が多い。
既に、30本は撃たれている。
少なくとも、弓を持った相手が10人はいるだろうか?
矢の効果が無いと悟ったか、森の中から15人程が武器を構えて飛び出して来た。
更に、その後ろに、弓を構えた者も10人は続いている。
フードで顔や頭を隠した集団だ。
相手の方が倍近くいる。
けれど、まだ距離があるので、ナルルガが火球を放ち、連中の中央で炸裂させた。
その1発で、半数は吹き飛ばした。
フランと自分達で切り掛かる。
フランもなかなかの腕前で、1人を一瞬で切り捨てた。
数はこちらの方が少ないが、明らかに押している。
兵士らは、ナルルガとフォドと共に、後ろで待機させている。
襲撃者は、武器に扱いに慣れてはいる。
けれど、数々の経験を積んで来た自分達や、腕利きのフランの敵ではなかった。
やがて、全ての襲撃者を撃退した。
すると、転がった襲撃者に向かい、森の中から矢を射かけて来た。
こちらがそれに対応しようとすると、森の中にいた連中は馬で去ったようだ。
改めて、自分達が倒した襲撃者を調べたところ、まだ2人息があったのでフォドに回復して貰う。
傷を癒した彼らを縛り、馬車に乗せると、付近の町の役所に届けた。
放置した連中の遺体の処理もここの役所に頼み、自分達は先を急ぐ。
何で、また連中は襲って来たのか?
パシコの町から監視されていたのだろうか?
襲撃も、再び起きる可能性もあるので、用心して進む事とする。
だが、この日の宿を取る町へ入いるまで、何も異変は無かった。
無事に、集落に入れて、まずは安心だろう。
フ「やはり、君達は頼りになるな。助かった。こんなに一度に奴らが、複数人現れるのは初めてだが。」
フランには礼を言われた。
翌朝、宿から出ると、再び馬に乗る。
予定では、今日中にガノアの村に着くはずである。
昨日の襲撃の事もあったので、用心しながら街道を進んで行く。
昼前に、見晴らしが良い場所で停止し、軽く休憩する。
軽食を摂っている間も周囲を警戒するが、何も動きは無い。
まあ、このような木々も少ない場所では、待ち伏せもできないだろう。
もしかしたら、こちらの動きを遠方から監視しているのかもしれないが。
少なくとも、昨日逃げ出した数人がまだいるはずだ。
フランからは、ガノアの村について、軽く説明された。
以前、動く遺体によって壊滅した村は、ラッカムラン王国との国境にも近い場所であった。
自分達が襲われた場所を更に進むと、入国して来たケダントの街とはまた別の国境の町があるそうだ。
だが、そこは余り人が行き来する場所ではないらしい。
ケダントの街が表の玄関ならば、そこは裏口と言ったところか?
そして、これから向かうガノアの村は、ダラドラムド王国との国境に近いそうだ。
またもや、国境に近い村での問題。
連中は他国から入り込んでいるのか?
それとも、監視の薄い場所を狙っているのだろうか?
こちらは、警戒を続けたが、無事にガノアの村へ到着した。
ガノアの村、小さな田舎町といった佇まいだ。
既に、周辺の集落からの援軍が到着しているようだ。
そんな派遣された兵士らを村の中には収容しきれないので、村の周りに野営地が作られつつある。
襲撃も警戒し、逆茂木などの障害物や臨時の監視台なども造られている。
自分達は、フランに同行し、村の中に設営された臨時の指揮所へと向かった。