第64話「廃村」
翌日は、動く遺体により壊滅したという村まで出掛ける事とする。
ついでに、魔獣の討伐依頼を受注しておく。
一角鬼や大食い鬼は、この辺りでもよく出没する魔獣だ。
もしかしたら、廃墟となった村にも住み着いているかもしれない。
少々距離があるので、馬に乗り向かう。
馬で移動していると、所々で戦いの痕跡を目にした。
大軍が野営した場所、一時的に砦を築いた所。
元は、村外れの作業小屋や納屋であったのであろう、焼かれた小屋の跡など。
大量に木を伐採し、そのままな場所もある。
やがて、寂れた村が見えて来た。
そこが、目的の場所であろう。
廃村を見渡せる小高い場所があるので、そこから観察する。
村の周囲を囲んであったであろう柵は、ほとんど破壊されている。
残された家屋も、何かしらの被害を受けているように見える。
自分とイルネ、フォドの3人で村へ向かい、キオウらは馬の見張りもあるので、その場に残って貰う。
村に近付くと、何かこんもりと小さな山が幾つも築かれていた。
これは多分、被害にあった人々を埋葬した場所であろう。
普通の埋葬法は土葬が多いが、今回は全ての死者は火葬されて埋められたそうだ。
土葬にして、また動き出されても困るのだから。
村の中へと足を踏み込む。
辺りは、しんと静まり返っている。
予想に反して、中に魔獣がいた痕跡も無い。
どうやら、ここは無人のままに放置されているだけのようだ。
家屋の跡を調べてみたが、動く遺体や札などは残っていない。
ハルムの国軍や冒険者らにより、徹底的に調べ尽くし片付けもしたのであろう。
現場に来たは良いが、何も残されてはいなかった。
魔獣もいないので、今は名前すら無くなってしまった元は村であった場所の周囲を調べてみる事にする。
キオウらを待たせてある所に戻った。
それにしても、どこから遺体が湧き出て来たのだろうか?
村の墓地から出て来たにしては、数が多過ぎるだろう。
どこからか、大量の死者を調達し、ここまで移動させたのだろうか?
村の周囲を調べる。
畑などの跡地も荒れている。
馬や人が戦闘で踏み躙ってしまったのだろう。
周囲の林も、大分木々が切り倒されたり、燃やされている。
そんな荒れた場所では、魔獣も余り寄り付かないようである。
村から随分と離れた場所で、やっと数匹の大食い鬼を見付けた。
矢と呪文を放つと、連中を一掃できた。
馬から降りる事も無く、相手を殲滅させたのは、これが初めてだろうか?
やっと、騎士らしい働きをしたような気がする。
だが、連中の数は、この辺りでは少ない。
彼らの生態にも、この騒動は大きな影響を残しているのかもしれない。
普通の戦場跡ならば、死者の骸を求めて集まって来る魔獣もいる。
だが、それらを一掃した場所には、そんな奴らも寄り付かないようだ。
村からかなり離れた場所で魔獣らを追い、何とか依頼目標を達成した。
明日からは、廃村の更に先を探る事とし、今日はパシコの町へと戻る。
思った以上に収穫が無い。
今回の遠征は、無駄に終わるような気がして来た。
後は、関係者に話を聞くのが良いと思うが、その手掛かりがまだ無い。
何か、切っ掛けを作らねばと思うのだが、何も思い付かない。
城門を入り、宿に向かう。
今夜は、宿で晩飯を頂く事にする。
宿の女将らにも話を聞いたが、自分達が知っている以上の事は解らないようだ。
今日もギルドで依頼を受注し、馬で廃村の方角に向かう。
廃村に着いても、その先へと街道を進んで行く。
周囲に、何かしらの痕跡が残っていないものだろうか?
だが、この日も空振りである。
後は、魔獣を追い求め、近くの森や河川の周囲を巡る。
少しづつ、この辺りの地形が頭に入って来た。
今日は、一角鬼や角狼を見付けて討伐する。
成果には満足はしていないが、その程度しか達成できない。
ただ、そのお陰で騎馬による戦闘が上達できているので、それで良しとしよう。
そんな事を数日繰り返していた。
その日も廃村の周囲を探る。
周囲とは言うが、もう廃村も見えない程の場所に来ている。
街道の周辺は草原が広がり、少しばかり離れた所に森や丘があるのが見える。
ゆっくりと馬を進めていると、マレイナが何気なく仲間に近付いては小さな声で伝言を伝えて回る。
「誰かが、こっちを見てる。左手の森の中。」
森の中に、誰かがいるようだ。
森に隠れるようにして、複数人がこちらを見ていると言う。
人数を聞くと、少なくとも10人はいるようだ。
こちらより、やや数が多い。
だが、他にも控えているかもしれない。
これは、札に関わる連中なのだろうか?
怪しまれないように、速度を変えず、森の方角へ向かう。
真っすぐに向かうのではなく、飽くまでもその方角に近付くようなコースで進む。
それで、先方がどう出て来るのかを探る。
すると、その森から騎馬の一団が飛び出して来て、こちらの進路を塞ぐような体勢を取り始めた。
その数は10騎。
その手に武器を握られている事も確認できた。
弓を持った連中もいる。
全員がどこかで見たようなフードを被っている。
そうだ、開拓村の周辺で出会った連中に、似たような恰好である。
こちらは、仲間同士で固まるような体勢を取る。
そして、ナルルガとフォドが呪文で防御壁を張る。
矢が先方から射掛けられる。
だが、その矢は全て障壁が跳ね返した。
逆にマレイナとイルネが矢を放つと、こちらの攻撃は相手の2人を馬から転げ落とした。
また、矢を2人が放つ。
更に2人を落馬させると、数は互角だ。
互いの距離が近付く。
そこへ、ナルルガが、火炎矢を連続して放ち、もう1人を落伍させる。
後は、接近戦だ。
イルネを先頭にし、自分とキオウでその左右を固める。
後ろでは、ナルルガの左右をマレイナとフォドが守っている。
イルネの長剣が、擦れ違いざまに2人を切り捨てる。
自分とキオウは、1人づつを切った。
残りの1人は、マレイナが仕留める。
差ほどに、手強い相手ではない。
倒した相手を調べようと馬を降り近付こうとした時、また森から騎馬の集団が現れる。
今度は、5騎だ。
弓を構えた奴がいるので、魔法の障壁を張り相手の出方を伺う。
すると、落馬した仲間に向けて、その矢を放つ。
「しまった。」
また、連中は仲間を処分すると、全速力で去って行った。
仲間に撃たれた奴らを見てみたが、全てこと切れていた。
間違いない。これは以前に接触した奴らのやり方だ。
アデレード地方に隣接する国境の外で活動していた連中が、ここにもいたようだ。