第61話「雷光の戦乙女」
ギルドで依頼を受け迷宮に潜る生活がしばらく続いたが、久し振りにアグラム伯爵に城館へと呼ばれた。
彼の執務室に行くと、先客がいた。
いや、彼女も冒険者でありながら、伯爵に騎士に叙された人物である。
名前は、イルネ。
自分達より少し前に冒険者となり、騎士になったのも彼女の方が先だ。
金髪のセミロングの髪型、碧眼に褐色の肌、自分やキオウより身長は低いが、うちのパーティーの女性で身長の高いナルルガより高い。
彼女は、どこのパーティーにも今は属さず、その時々でいろいろなパーティーの手伝いをするフリーな冒険者だ。
勿論、イルネと自分達と面識はある。
ギルドで何度も顔を合わしている。
けれど、伯爵と一緒に彼女に対面をするのは、今回が初めてである。
彼女がここに呼ばれていたのは、自分達「西方の炎風」と一緒にしばらく活動させる為だと言う。
彼女がパーティーに、正式に加入する訳ではない。
彼女は、多分、ハノガナの街で活動している冒険者の中で最強クラスと言われている。
伯爵としては、そんな彼女と自分達を組ませる事で、刺激を与えたいようだ。
イルネは、腕利きだ。
「雷光の戦乙女」の異名を持つ。
得意な武器は、剣、槍、弓と、自分達パーティーの主体の武器種でもある。
魔法も、水、風、光の各属性が得意と言う。
当然ながら、その腕前も自分達の上だ。
その上、美人なのだから、欠点が見付からない。
レベルは騎士(戦士)53だと言う。
自分達のレベルは、48なので、彼女の方が若干は上だ。
そのイルネを加え、しばらくは依頼を受け続ける。
彼女と組ませるからには、伯爵に何か思う所があるのだろう。
それは、新しい任務なのだろう。
今まで以上の困難な依頼となりそうだ。
まずは、今まで自分達が活動していた迷宮の地域を回る。
迷宮内の休憩場所で睡眠を摂り、深層を目指したりする。
また、ガノ山へからの裂け目を下っての探索もしてみた。
流石の彼女も、封印された魔族らを見るのは初めてだそうだ。
ただ、小型の魔族、赤の魔人は別の場所で対峙し討伐した事もあると言う。
彼女の武技は凄い。
主に長剣と盾の使用率が高いようだ。。
その長剣がまた、「黒雷」という、伯爵の火炎剣程ではないが、雷属性の強力な魔法剣なのだ。
その長剣と彼女の剣技が合わさると、凄まじい威力となる。
最近、自分達が手こずっていた、妖戦鬼も楽々と倒している。
冒険者に限定されてはいないが、この世界で武器を扱う職種、騎士や兵士などは武技が使える。
一般的な兵士では、流石に体得している者は稀ではある。
だが、それなりの期間、戦い続けていると技を閃く事がある。
それを師に当たる人物から伝授される事もある。
代々の騎士の家系では、その子に伝えるのもよくある話だ。
自分達のような平民から冒険者や兵士になった者は、自ら武器を振るい経験を積んで閃くしかない。
だが、それには偶発的な切っ掛けに頼る部分も多い。
また、より高度で難易度の高い技程、閃く確率は低いようだ。
その武技の手数がイルネは多いのだ。
武技を使うには一時的に気力を消費するので、体に多少の負担も掛かる。
高度な技程に、その消費が激しいので連続して使うのには制限もあるのだ。
気力は休憩を取れば、回復可能である。
基本的な剣技となると、ます思い浮かべるのは「強撃」だ。
これは、武器の威力を高める武技で、自分もオルタナの町にいる時から多用している技でもある。
剣に限らず、斧や棍棒、槍などにも同様の技がある。
「溜撃」なども代表的な技であろう。
一瞬の溜めの後に、これも強力な攻撃を繰り出せる。
その他、「二連撃」「三連撃」などの攻撃回数を増やす技。
弓の「速射」「連射」などの技もある。
弓などは、威力を上げるだけでなく、撃ち出す速度を上げたり、連続して矢を放つなどの技がある。
武技の応用だと、使える魔法の属性を付与したり、幾つかの武技を組み合わせたような攻撃もできる。
魔法の属性付与を自分は魔法戦士の能力としても使っているが、腕利きの者ならば武技として行える。
イルネは、その技量に達しているのだ。
その技の数々を、自分達は彼女に学びつつある。
伯爵の狙いは、これであったようだ。
自分達は、武器の師を初めて得たのだ。
更には、ナルルガも杖の扱い方や、体捌きなどの指導を受けていた。
余り体を動かすのを得意としないナルルガは苦しそうではあるが、意外にイルネの扱きに耐えていた。
こんなに汗にまみれたナルルガは、初めて見るのだが。
イルネに指導を受けたのは、実戦の場だけではない。
伯爵の城館の練兵場でも、こっぴどく扱かれた。
特に、騎士である自分とキオウに厳しい。
彼女に出された課題は、念連撃の修得だ。
念連撃、それは連続で短時間で攻撃を繰り返す武技である。
それも、ただ回数を増やすだけではない。
何度も短時間で技を放ちながら、念を武器に込めて攻撃力も上げて行く。
その技が、彼女に言わせると基本だそうだ。
最初は、剣と弓ならば三念連撃、槍ならば、四念連撃を目指せと言われた。
それが、四連と五連までできれば、合格らしい。
イルネの場合には、剣と弓で七連、槍で八連が今はできると言う。
なかなかに厳しい教官である。
見本を何度か見せて貰ったのだが、それを事もなげにやってしまうから、悔しいような頼もしいような。
何とか最初の課題はできたが、合格ラインに達するのが厳しい。
僅かに一回の攻撃を増やすのに、大きな壁があるのだ。
彼女の指導を受けるようになり、自分達の戦い方は変わりつつある。
妖戦鬼や、眼光巨人らを相手にしても、差ほどに手こずらなくなる。
すると、以前は妖戦鬼に闘志を燃やしていたフォドも落ち着いて対処するようになってくれた。
無謀な神官が抑えてくれるようになって、一安心だ。
今の自分やキオウならば、白狗毛鬼にも引けは取らないであろう。
だが、正攻法で迷宮の今よりも深い場所に到達するのには、無理なようである。
これは、またガノ山から回り込むか、ハノガナの街以外の拠点を探すしかないのかもしれない。
いや、これが自分達の限界なのだろうか?