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第58話「無面石」

冒険者ギルドで変わった通達が出された。

他の依頼のついでで構わないが、あるアイテムを発見次第、ギルドに納品して欲しいという内容だ。

そのアイテムは、魔法道具の一種であり「無面石むめんせき」と呼ばれる。

発見されたのは地下迷宮で、数週間前の事だったそうだ。

ギルドでも謎のアイテムであり、街のアデト魔法学校との共同研究により古い文献が見付かった。

大きさは15cm程で灰白色、その形はどこか人の頭蓋骨を思わせると言う。

その石を気を込めて見詰めると、その人の顔に形が変化すると言う。

形が変わるだけでなく、その石を通して本人に視覚、聴覚、臭覚などが感知されるようになると言う。

その石に気を込めておき、離れた場所に置くとまるでその場にいるかのように周囲の事が感知できるそうだ。


何に活用するのかよく解らないが、1つ50ゴールド(5000シルバー)の報酬金が出た。

どの位の数が求められているのかは解らないが、しばらくは募集を続けるそうだ。

稼ぎにはなるので、探し求める冒険者は多いだろう。

自分達も専門に探すまではないが、見付けたら勿論納品しよう。

無面石が発見されたのは、約100年振りと言うから滅多に見付かる物ではないと思うが。


だが、その予想は覆される。

2つ目が通達から僅か3日後、3つ目が5日後に発見されると、無面石探索ブームが始まった。

発見されたのは中層の奥の方らしい。

各自が思い当たる場所を探索する。

誰もが4つ目、5つ目を発見するのが目的だ。

自分達も今まで歩き回った場所で見落としが無いか探り、それが終るとその先を調べ始める。


魔法道具と言われたが、これも遺物扱いになるだろう。

その存在は、ナルルガもフォドも知らない。

当然、自分を含め他の仲間も知らなかった。

そもそも、数週間前にギルドに持ち込まれた事さえ聞いていない。

ギルドも情報を限定する時は徹底する。

そのような物を見付けた冒険者らも、自分達の利益につながる事も多いので口をつぐむ。

今回の事、あのマディオンならば知っていたのだろうか?

もし、知っているならば、在り処についても情報があるのか?

だが、肝心の彼が数日前にふっと街から姿を消していた。

また、どこかへ移ってしまったのだろう。

次に会うのは、いつになる事やら。


そうなると自力での捜索、流れて来る噂を精査するしかない。

随分とガセネタも出始めていた。

迷宮内の遥か奥、とても到達できないような段差の上に幾つも並んでいたとか。

そんな場所の確認が、そもそも可能なのか疑問に思うのだけど。

石を求めて迷宮に入るが、勿論、確実に見付かる訳ではないので他に依頼を受注している。

依頼の方が順調に達成してはいるが、無面石とはどうやら縁が無さそうだ。

結局、他の遺物探しや魔獣討伐ばかりが捗る。

遺物も余り高値は付かないが、それなりに見付けていた。

そうこうしている内に4つ目が見付かる。

ちょっと羨ましい。


無面石納品の通達が出て、早1ヵ月程経つ。

既に5つが発見され、納入されていた。

すると、通達に続報が加わる。

無面石を見付けても、悪戯に気を込めるなというのだ。

何でも見付けた冒険者が納品前に面白半分で石に自分の顔移したようだ。

何度もやっている内に、精神に異変を来したのだそうだ。

魔法学校でも研究中に弊害が出たとか。

単なる顔や感覚を移すだけでなく、何かまた別の用途があるのか、それとも不完全な代物なのか?

自分は直接に目にもしていないので判断はつかない。

ただ、怖い物だなという思いと、興味の両方がある。


とは言え、余りに手掛かりさえ無いのでその内に存在を半ば忘れていた。

また、旧市街から迷宮へ降り、できるだけ深層へと近付くルートを探した。

久し振りに、迷宮内で宿営できる場を見付けて、中で休息を取り数日掛かりで探索する事もやってみた。

拠点となる場所には、道具類を隠し置くなどして少しでも負担を減らした。

工夫の甲斐があって、何とか深層に踏み込む事もできるようになる。

だが、深層とは言っても、あの地龍などがいる場所には、まだ遥かに遠いようだ。


深層で遭遇するようになった魔獣は、妖戦鬼ようせんおに黒金獅子くろきんじし眼光巨人がんこうきょじんなどの強力な奴らだ。

妖戦鬼は、鬼の名を持つが妖精族の流れにつながる。

特徴として、頭から2本の角が生えている他はほぼ他の妖精族と変わりが無い。

武器の扱い、魔法の腕前も、今まで出会った人型魔獣とは比べ物にならない程に強い。

まるで、冒険者同士で戦っているような感覚だ。

そいつらへのフォドの闘志も凄まじい。

彼ら妖精族とは、宿怨のある相手のようだ。

それは、向こうも妖精族に抱いているようであるが。


黒金獅子は、全身が黒い獅子のような魔獣だ。

そのたてがみと尾の先端の房だけが金色に輝いている。

たてがみがあるのはオスだけだが、メスは額から頭頂に掛けてと尾の先端が金色だ。

体長は2.5mを越える物もおり、小集団で襲い掛かって来る。

こちらも今までの獣系の魔獣ではもっとも体力も攻撃力もある相手だ。

しかも、たまに口から火炎を吐き出すので厄介である。

こいつが相手では、バロの魔犬まけんも歯が立たないだろう。

金色に体の一部が光るので、その接近は解り易いが。


そして、眼光巨人だ。

身長は3mを越える。

魔法陣の中の魔族以外では、遭遇した中で最大の大きさの魔獣である。

あの牛頭巨人ぎゅうとうきょじんよりも大きい。

顔の中央に大きな1つ目があり、それが遠くからも煌々と光るのが見える。

体の大きさに見合う体力を持ち、大型の棍棒や戦鎚などを装備している。

その一撃を受ければ、一溜まりも無いであろう。

他の大型魔獣に比べても、やや動作が早いのがまた厄介だ。

ただ、単独行動をしているので、何とか対応できている。


それらの強敵が今まで出会った魔獣らに混ざり、行く手に立ち塞がる。

それでも、まだ深層の入口から少し足を踏み入れた程度の場所でしかない。

その奥には更に強力な奴らがひしめいており、その頂点に王者の地龍がいるはずだ。

そう言えばマディオンの話では飛龍もいるというが、そいつらはどんな奴なのだ?

あの地龍よりも強力な相手なのか?


また、妖戦鬼の一団と遭遇する。

数は5匹とこちらと同数だ。

こいつらと戦う時は、怒りに任せてフォドが突入する傾向にあるので、彼が深入りしないよう体勢を整える。

いつもは冷静な彼には珍しい行動だ。

そのフォドを連中も執拗に狙う。

後衛のナルルガを無視して、2匹掛かりでフォドを襲う。

他は1対1で対峙しているのに。

フリーにナルルガがなっているが、奴らは魔法の耐性を呪文で上げているので並の呪文では効果は無い。

かと言って強力な呪文を使えば、自分達が巻き添えになる。

条件が同じ相手のやり難さでもある。

こいつらの集団は、冒険者のパーティーと同じなのだ。

互いが魔法や武器で守りあっている。

動物的な所がなく、思考力も変わらない。

闇に堕ちた妖精族、それが彼らだ。

当然、男だけでなく女も混ざっている。

それもなかなかに美しい容姿をしているから、やり難い相手だ。

こんな魔獣、今までにはいなかった。


互角な戦いだが、ややこちらが押し始める。

フリーになったナルルガが、なんやかんやと呪文で援護してくれている。

フォドへの支援が多いが、他の者にも耐性強化を絶やさず、武器の攻撃力、移動速度などの強化も維持し続ける。

全てが攻撃に参加しているこいつらにはできない行動だ。

その上、僅かな隙から攻撃呪文で奴らの体力を削っている。

魔法に関して、ナルルガは全ての属性を使えるようになっている。

これは強みだ。

やがて、妖戦鬼を1匹倒す。

そこからは、雪崩を打つように形成が動いて行く。

そして、長い戦いの決着が付く。


ああ、全力で戦った。

あの白狗毛鬼しろこうもうおにと、どちらが手強いのだろうか?

おそらくは、互角ではないか?

いや、魔法を使う分、こいつらの方が厄介だろう。

まずは、休憩を取る。

そして、妖戦鬼の所持品を調べる。

こいつらが持つ物は人らと余り変わらない。

硬貨などは余り持たないが、貴金属や宝石をよく持っている。

革袋を腰や背にぶら下げているが、その中にお宝を忍ばせているのだ。

まるで、追い剥ぎになった気分もするが。

こいつらの女を調べるのは戸惑いもあるので、ナルルガとマレイナに頼む。

その体は、差が無さ過ぎて生々しいのだ。

と、背負った革袋が重い。

何か大きさのある物が入っている。

袋を開けてみると、何とあれを持っていた。

少し前まで探し求めていた無面石を。


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