第56話「山の中の回廊」
まだ、この辺りもガノ山の地中であろう。
そんな場所に、何者かによって造られた石の回廊があるのだ。
それも、人間向けのサイズではない。
高さは20m、横幅は15mはある巨大な物なのだ。
これならば、噂の龍も行き来できるかもしれない。
それが真っすぐと、先へ続いているようなのだ。
こんな山の地下にある事、これだけ規模の大きな構造物に、畏怖の念を抱く。
石の組み方など明らかに古い時代の物であり、石の表面も粗削りである。
それだけ古い時代の産物という事なのか?
少なくとも数百年前、ラッカムラン王国の建国よりも古い時代になるのではないか?
しかし、これがここの迷宮ならではの人知を超えた事の1つなのだろう。
まだ、迷宮へとこの回廊がつながっているのかは、不明だが。
ここまで来たら、この先も確かめてみるしかない。
そして、ここが迷宮の深層に続くのかどうかも。
気持ちは皆、同じだ。
回廊へと踏み出す。
多少の凹凸はあるが、平に作られているので、先程の洞窟よりも歩き易い。
床に土埃が積もっているが、何かが歩いた跡も残っている。
こんな所をうろつくのは魔獣だろう。
それにしても、ここは何の為に誰が作ったのか?
回廊を進む事、約300m。
十字路に出た。
道は前方と左右に続いている。
ランタンを正面へも左右へも限界まで照らしてみるが、どの方角も先を見る事はできない。
どの方向も先が続いているのであろう。
気配を探るが、何も感知はできない。
前方に進む事にする。
魔獣に遭遇する事も無く、また300m程進む。
すると、ここも同じような十字路だ。
行先に迷う。
ええい、ここも前進だ。
けれど、そこから先は周囲の構造が変わる。
300m程進んだ所、左右に通路が等間隔に伸びている場所に出る。
30m程の間隔で何本も左右に通路があるのだ。
その通路幅は5m。
左右に伸びては、また30m進んだ所で十字路となっている。
つまり、兵棋の盤のように均等なマス目になっているのだ。
部屋などにつながっているのではなく、本道よりは狭い通路が左右に広がり、また横でつながっている。
また、何でこんな物を造ったのか?
誰か教えて欲しい。
すると、もう1つ変化が現れた。
マス目状に広がる通路の左側から魔獣が出て来たのだ。
やっとお出ましか。
相手はと・・・、大角鬼である。
その数5匹。
いや、別の横道からまた別の一団が迫って来る。
こちらも5匹だ。
囲まれないように、移動しながら戦う。
相手も、こちらに近付こうとするが、マス目状の構造で上手く追い付けないようだ。
1匹倒し、移動。
また1匹倒し、移動。
少しづつ数を減らす。
やがて、数が互角になったので、その場で待ち構えて戦う。
大角鬼を討伐し終る。
奴らの増援は続いては来ない。
本道へと戻る。
この横道も、どこにつながっているのだろうか?
それから本道の回廊を進む事約300m、横道区画は終る。
それから左右に何もない一本道の回廊がまた続く。
300m程進むと、今度は通路の左右に石柱が立っている。
その先は下りの階段だ。
階段の上に立った時に下方から何か音が聞こえて来る。
耳を澄ませてみれば、水の流れる音だ。
それも、それなりに水量がある水音なのだ。
階段を数えながら降りる。
段差はやや人間には大きく30cm程ある。
その段が50段あった。
そして、到達した。
地下の川の畔に。
階段の先は平たい場所があり、その先には橋があったのだろう。
だが、橋は途中で崩落している。
崩れて中央部分は川中に橋脚だけが残っている。
対岸までは50mはあるだろうか?
橋が崩落した距離は10m強はある。
ここを造った者達も完全な建築は残せなかったらしい。
更に進むかは、悩みどころだ。
川の深さは解らない。
また、この流れの中に魔獣などがいる可能性もある。
しばらく水面を見ているが、それらしい姿は見えない。
ここは引き返して、横道を探るべきなのか?
いや、ロープを魔法で対岸に飛ばして向こう側に結び付ける事は出来ないか?
試してみよう。
ロープの先に輪っかを作り、魔法の風を作り出し対岸の橋の突起した構造物を狙う。
よし、引っ掛ける事に成功した。
試しに渾身の力で引っ張るがびくともしない。
これで大丈夫であろう。
ロープの反対の端にも輪を作り、こちら側の橋の欄干に引っ掛ける。
これも強度を調べるが、大丈夫そうだ。
1人づつ、ロ―プの上に腹ばいでしがみ付き、片足首を引っ掛けてゆっくりと手の力で進む。
ロープがたわみ揺れるが出来るだけ気にしないようにして進む。
下の暗い水面はできるだけ意識の外にしよう。
暗い水中の事など気にしないように、しないように。
最初にキオウが渡り、ナルルガ、マレイナ、フォドと続き最後に自分が渡る。
帰りの事も考え、ロ―プはそのまま残しておく。
対岸に渡りしばらく進むと、扉がある。
石の巨大な扉である。
両開きで、扉の高さは10mはあるであろうか?
扉に耳を当て反対側の気配を探るが、特に気配はしない。
試しにキオウと2人で左右の扉を押してみる。
「ごごごごご」
思いの外、扉は軽く、容易に開ける事ができた。
扉の奥は勿論暗い。
が、前方に何か光がぼんやりと見えた。
「あれは、何だろうか?」