第52話「開拓村の発展」
遠征から戻り、数日は休息に当てた。
使い込んだ装備の修理、保全。
家の中の掃除。
放置していた薬草畑の手入れなど、幾らでもやる事はある。
この日は、冒険者ギルドに顔を出そうかと思っていた。
だが、出掛ける前に伯爵からの呼び出しが掛かったので、また城館へ向かう。
館内には、何の咎めも無く入れる。
門番らとも普通に挨拶するだけで通される。
自分達も今では、伯爵の家の者になっているからだろう。
執務室に入ると、伯爵が話始める。
用件は例の開拓村の事だった。
そう言えば、伯爵の肝いりで始まった新しい開拓村作りは、もう4ヵ月近くが過ぎていた。
今回も村へ物資を送るので、その護衛と周囲の探索を行って欲しいとの事だ。
出発は2日後の予定と言う。
またもこき使われるのは、約2ヵ月もハノガナの街を離れていた当てつけかもしれない。
その日は、直ぐに帰されたので、冒険者ギルドに寄り登録を済ませておく。
これで、ハノガナの街周辺での活動が許可された事になる。
ギルドには懐かしい顔が沢山いて、彼らに会うだけで何か安心する。
その後と翌日は休養と準備期間とし、2日後の朝に城館へと向かう。
再び馬上の人となり、3台の荷馬車を護衛して進む。
草原を越え森の中を進むと、懐かしい開拓村が見えて来た。
村に到着して驚いた。
作り始めてから4ヵ月程しか経っていないのに、もうニナサの村並に発展しているのだ。
他の開拓村と比べれば、もう充分に立派な村である。
まあ、投入される人員も物資、資金も普通の開拓村とは違う。
他は、20~30人規模の所が多いが、ここは最初から50人は開拓民がいる上に、建設時には伯爵も人を大勢送り込んでいる。
他の開拓村との違いは、マンパワーの差と言う事だろう。
今も忙しく村人らが働き回り、拡張が続けられている。
有力者の力の凄さを改めて知った。
馬車の荷下ろしは開拓民や御者らに頼み、自分達は騎馬で周囲の探索をする。
周囲の森に異常は無く、念の為に一番近い廃屋も確認しに行く。
だが、不審者に利用されていた廃屋は、利用できないように破壊されていた。
以前の伯爵の手勢が捜索した時に、破壊したのだろう。
一応調べてみたが、近頃は誰かが立ち寄った痕跡は無いようだ。
周囲には魔獣が近寄った痕跡も無い。
見付かるのは獣の足跡だけだ。
開拓村の周辺は、平穏で問題は無いようで安心した。
ここもあと半年もすれば、また見違えるようになっているだろう。
移住者の後続をそろそろ送り込んでも良い。
目的は果たしたので、空の馬車と街へ帰る事にする。
帰り道の途中、マレイナの馬がすっと近寄って来た。
誰か自分達を監視している人物がいると言う。
距離はと聞くが、200m位は離れているそうだ。
そんなに離れていては捉える事はできないだろう。
先方も監視するだけで、こちらに近付く様子はない。
その方角をチラ見してみたが、自分にはどこに居るのかも判断できない。
そのまま無視して進む事にする。
相手も追って来る様子も無い。
もしかしたら、札を持っていた奴らの残党かもしれない。
まだまだ、連中の脅威はあると考えて良いのだろうか?
また、この地域で札の実験をするつもりなのか?
伯爵には、この事も報告しよう。
監視されたのは一ヶ所のみで、他では遭遇しなかった。
城館に荷馬車を届け、馬を返す。
報酬として10ゴールドを受け取った。
今回は戦闘も無く、妥当な所であろう。