第51話「帰郷、ハノガナの街へ」
白狗毛鬼との戦いも集団戦だったが、今回の規模に比べると小さかった。
しかも、作戦のような物を立てて、それを実行に移すのも初めての経験だった。
臨時の編成で軍隊のような規律通りの行動ではないが、これも貴重な体験であろう。
その後の数日をマルマトの町で依頼をこなす日々が続いたが、そろそろハノガナの街へと戻る事とする。
ハノガナの街を出てから、1ヵ月以上が経過していた。
帰路は行きの道を逆行しドルトの街へ行き、越境許可証を発行して貰いラッカムラン王国へと戻る。
国境を越えて、更に進む。
途中、ニナサの村により、村長に挨拶をする。
そして、気になっていたバロの魔犬の事を聞いてみる。
村長の話によると、あれ以来はバロの魔犬も強力な魔獣も出て来ないと言う。
一安心しても良いのだろうか?
それと、アグラム伯爵の騎士になった噂を村長も聞いていたようで、喜んで貰えた。
村から騎士が出るなど初めての事だそうだ。
ハノガナの街に戻ると、真っ先にアグラム伯爵の城館に向かう。
馬の返却もあるが、長期に旅をして来た礼や報告も行わなければならないだろう。
伯爵は、旅先の事、ナハクシュト王国の事などを聞いて来た。
特に、魔獣が集団で町村を襲う話には、興味を持ったようだ。
ラッカムラン王国では、そんな事は今のところ起きてはいないが、何時かは起きる可能性があるかもしれない。
ナハクシュトとの国境沿いの町村では知られた事かもしれないが、その他の地方では警戒もしていない事だろう。
伯爵にできるのは領内に警告を出す位だが、それでも近々行う事にするそうだ。
魔獣による集団襲撃、大きな街ならば城壁の防御力も高く兵力もあり、そして冒険者もいて対抗もできるだろう。
だが、小さな町村、それも遠隔地では難しい。
アデレード地方にもそんな町村が幾つもあるのだ。
魔獣側の動きも事前に察知する事も重要なので、僅かな変化も見逃さないようにしなければならない。
それ故に、例の札で死者を大量に蘇されでもしたら大事になるのだ。
札に関する続報は、まだ魔法学院からも無いと言う。
長々と伯爵の執務室での談話が済み、懐かしの我が家に戻る。
室内は埃も積もっているので、窓を開け放ち軽く掃除する。
あとは、近所の飯屋に出掛けて軽く祝杯を交わす。
初めての遠征と言っても良い旅だった。
全員無事に戻れた事を神々に感謝して、久し振りのハノガナの街の夜を楽しんだ。
飯屋にも馴染みの冒険者らが幾人もいる。
彼らとの再開も楽しい物だった。
あとはゆっくりと我が家の寝台で眠るだけだ。
その夜、久し振りに両親の夢を見た。
夢の中ではどこの街なのかよく覚えていない場所での光景も含まれていた気もする。
夢は何でもありだよな。
その中にはナハクシュト王国でも光景も混ざっていた気もするが、目覚める頃には両親の思い出しか残っていなかった。
それも翌日の昼頃にはどこかに消えて行った。
数日は休息を取るかな?