第5話「一角鬼の廃屋」
廃屋の一角鬼を掃討する依頼を受ける。
ギルドで、今回臨時にパーティーを組む冒険者らと顔を合せた。
メンバーは、以下の人物である。
ラガン、男、21歳、戦士Lv.23、
マルナ、女、22歳、神官Lv.24、
タロン、男、18歳、戦士Lv.8、
キャナリア、女、17歳、戦士Lv.7、
そして、キオウが戦士Lv.9で、自分は戦士Lv.7である。
今回は、退治が依頼内容なので、攻撃的な編成である。
神官のマルナは戦棍を武器として使うが、他のメンバーは皆、片手剣を使う。
え~っ、やっぱり冒険者の武器の主流は剣なのか~。
全員が揃ったので、簡単な作戦会議をする。
ラガン「一角鬼は、それ程の相手じゃない。ただ、囲まれるなよ。数で来られると面倒だ。」
マルナ「けど、今回は、そんなに数は多くないと思うから。それでも、離れ離れにならないように注意してね。」
ラガン「昼過ぎに行けば、丁度夕方には着く。そしたら、様子を見て奴らが巣に戻った所を一気に襲う。」
マルナ「日が暮れる前には終わらせるつもりだから、安心して。」
一角鬼も夜行性ではないので、夕方には巣に戻って来るそうだ。
廃屋に戻ったところを一気に襲う計画となる。
廃屋までは、町から歩いて1時間強だった。
今までで、一番町から離れた場所での仕事だ。
ラガン「あれだな。」
廃屋と言っても、ちょっとした集落のようで、5,6軒の家屋と幾つかの納屋のような物も見える。
どれも崩れかかってはいるが、誰かが手を入れているようにも見える。
近くの丘から見下ろして、廃屋と周囲を伺う。
数匹の一角鬼が出入りしているが、しばらくすると煙が上がった。
どうやら、炊飯を始めたらしい。
ラガン「いいね。奴ら、こっちに気付いてない。」
周囲を警戒している様子は、特に無い。
数は、8~10匹はいるだろうか?
警戒の為に、丘に神官のマルナとタロンの2人を残し、残りはラガンを先頭に廃屋へと向かう。
廃屋を覗くと、1つの建物に一角鬼が車座になって、何か鍋のような物を囲んで食事をしていた。
数を数えると、全部で10匹。
他の建物を覗いてみたが、他には居ない。
一角鬼らを観察すると、粗末な鎧を着込んでいた。
どれも人間の物を拾い集め、彼らなりに修繕して着ているようだが、質は余り良さそうな物には見えない。
武器は食事中で、手元には無い。
ラガンが振り向き、自分達に軽く頷いてみせた。
そして、深く息を一度吸い込むと、ラガンが真っ先に廃屋に飛び込んだ。
ラガン「行くぞ、お前らっ!」
ラガンが廃屋に飛び込むと、素早く抜いた剣を一閃させる。
1匹の一角鬼が、ばたりと倒れこんだ。
一角鬼も、一瞬何が起きたのか理解できないようだった。
ラガンの剣が、2匹目の目標を捉えて同じように切り捨てる。
やっと我に返った鬼達は、手にした食器を放り投げ、近くにある武器に手を伸ばす。
それらの武器は様々で、錆びた剣もあれば、いかつい棍棒やナイフもある。
残ったパーティーの仲間も中に突入し、それぞれ戦いが始まる。
キオウは槍が室内では使い難いはずだが、突きを連発し一角鬼の防御を崩し、1匹に止めを刺す。
自分も鉄斧で鬼の攻撃を受け流すと、その頭を強打で叩き割った。
奇襲が利いて、半数以上の一角鬼を倒す。
不利を悟ったのか、鬼達は屋外へと逃げ出す。
飛び出した鬼達の1匹を屋外にいたマルナの魔法の光弾が貫く。
一瞬止まった残った鬼の集団を前後から挟み込むようにして、襲撃組と警戒組の全員で襲い掛かる。
時間にしてみれば10分位だっただろう。
一角鬼退治は終った。
ラガンの動きは、流石に凄かった。
他のメンバーもそれぞれ鬼を屠ったが、彼の動きは素早く正確に鬼を急所を捉え仕留めていた。
廃墟の探索を始める。
ラガン「碌な物がねぇな。」
一角鬼の装備は、どれも古びた壊れかけの物で使い物にはならない。
他に価値のありそうな物を探すが、食器やガラクタ位しかなく、あとは60シルバー程の銀貨が見付かった。
「これは?」
ラガン「ああ、こいつらの悪い癖だよ。人を攫うのも、そんな目的がある。」
そこには、食料にしたのか、動物の骨に混ざって人間の子供の骨らしき物もあった。
一角鬼が人を襲うのは、食料にもする事があるのだ。
その現実に、寒気を感じる。
日が暮れる前に、町へ帰る事にする。
討伐の証に、一角鬼の右耳を切り取り持ち帰った。
ギルドで分け前を等分に、各自30シルバーづつ受け取る。
確かに実入りは少ないが、今回は経験を積む為でもあった。
一方的な戦いではあったが、これが自分達2人では上手く行かずに、逆に包囲されたかもしれない。
武器を手にし、防具で身を固めた相手との戦いも、今までとは違う経験だった。
鬼達は差ほどに武技に優れている訳ではなかったが、その力は侮りがたい物だ。
飲み屋に移動し、参加者で軽い宴を開いた後に解散した。
翌日、武器屋に出掛けた。
目的は、斧以外の武器を購入しようと考えてだ。
タッサムに新しい武器の事を相談した。
「そうか、なら、これはどうだ」と、言いながら何か長い棒状の物を取り出して来た。
それは、連接棍と呼ばれる農具から発達した打撃武器の1つだった。
自分では剣を期待していたのだが、また農具の発展した物か。
「何だよ、それは。剣とかじゃないのかよ。」
「そうは言うが、兄ちゃんは剣を振るった経験があるのか? こいつは、安くてリーチもある。言う程悪い武器じゃないぜ。」
まあ、前に農作業で似たような物を扱った事もあるし、それを子供の頃にも振り回していた覚えも。
結局、説得されて50シルバーを払い武器屋を後にした。
今日は、連接棍を使って依頼を受けよう。
ギルドに着くと、片手剣と円形盾を持ったキオウと会った。
「キオウ、その装備は、どうした?」
キオウ「いや、昨日の一角鬼との戦いで、剣と盾もいいかなと思ってさ。どうだい、サダ。少しは様になってるか?」
「悪くはないと思うよ。」
何だか、取り残された感じがする。
しばらくは、新しい武器に慣れる為に無理の無い範囲で依頼を受けていた。
数日経ったある日、再びマサキからの依頼を頼まれる。
マサキ「あのね、サダ君、キオウ君。この前の一角鬼がいた廃屋の事なんだけど、またお願いできないかな? 他にも人を頼むから、様子を見て来て欲しいの。」
前回で一角鬼は退治したはずだが、生き残りにまた住み着かれても困る。
マサキ「戻ってないか調べるだけでなく、そのままだと別の魔獣が住み着くかもしれないから、廃屋も全て燃やして欲しいの。面倒だけど、お願いね。」
今回は、ラガン以外のあの時のメンバーが集まり、神官のマルナに連れられて再び廃屋に向かった。
武器は、使い慣れた鉄斧を装備し、キオウも槍を持って来ていた。