第49話「岩山での依頼」
しばらく荒野を彷徨っていると、前方の大岩の上で日光浴している砂縞トカゲを1匹見付ける。
全長は約2m、大物だ。
名前の通りに頭から尾に向かうように白黒の縞がある。
日干ししながら気持ち良さそうに寝ているようだ。
ここら辺では捕食者の頂点に近いので、油断しているのか?
近付いてみると閉じた目を開け、こちらをジロリと見詰める。
眠っていたのでは無いようだ。
大きく口を開き、こちらを威嚇して来る。
マレイナが半弓で矢を放つ。
命中。
飛び上がる砂縞トカゲ。
そこへ切り掛かる。
できるだけ体には傷を付けないようにして首を狙う。
首は硬い、だがそれを切る。
バタバタと暴れはするが、長い尾と大きな牙以外に特に武器も無いので容易な相手だった。
それは迷宮の癖のある魔獣らと比べれば楽である。
まずは1匹。
仕留めて首にロープを掛け、引き摺って次の獲物を求める。
前方が何だか騒がしい。
近寄ってみると、岩の間を砂縞トカゲが走っている。
あいつも食事の時間のようだ。
追い掛けているのは大砂ネズミだろうか?
穴に逃げ込んだネズミを追って首を突っ込んで前脚で穴を広げようとしている。
穴は少々砂縞トカゲには小さい。
その背を襲う。
振り向いた時には、キオウの戦槍が喉を貫き絶命させる。
この一撃ならば、肉に傷は余り付かない。
これで2匹。
その後も荒れ地をうろついて連中を探す。
昼過ぎには7匹獲れたので街へ戻る事とする。
途中、追加で1匹仕留めたので、今日は合計8匹の収穫であった。
依頼達成で900シルバー、追加の3匹で450シルバーの報酬となった。
この砂縞トカゲも誰か冒険者が狩った物かなと考えながら、宿の夕飯でまた頂く。
その後も数日、ドルトの街で依頼をこなす。
ただ、余り手応えのある依頼が無い。
もう少し難易度の高い依頼を求めて、ナハクシュト王国の国内を回ってみる事にする。
冒険者ギルドで聞いたところ、南東にあるマルマトの町はどうかと提案される。
ドルトの街から南下して更に東へ進んだ所、距離にして20km強。
馬でなら1日も進めば着くだろう。
そこの岩山地域に魔獣が多く生息するという事だ。
話を聞いた翌朝、早速マルマトの町へ向かう。
途中の町で休憩して、日が落ちる前にはマルマトの町へと到着した。
その日は宿を取り、翌日に備える。
一等部屋でも120シルバーなので、一等を選ぶ。
翌朝、朝飯後にマルマトの町の冒険者ギルドに向かう。
この町の中では立派な建物にはなるが、しばらく大きな街の物しか見ていなかったので小さな建物に感じる。
だが、中に入ってみると、冒険者の数が多い。
受付には2人の受付嬢がいた。
やはり、ここの受付嬢の服装も露出多めだ。
まずは、登録である。
登録して、この町での活動資格を得る。
受付嬢に、この町での依頼の事などを聞いてみる。
この町の周辺は起伏の多い岩山が広がっているそうだ。
そこを様々な生き物が行き来し、魔獣もよく出没すると言う。
それらの討伐や狩猟がここでは多いらしい。
どんな魔獣が出るのか聞いてみると、迷宮でも遭遇した連中と同じような物が多いようだ。
久し振りに魔獣の討伐依頼を受け、ギルドで渡された地図を便りに現地に向かう事とする。
流石にマルマトの町の周囲には魔獣が出没する事は少ない。
町から徒歩で1時間程の所に来る。
その辺りが魔獣もうろつく場所のはずだ。
起伏が多く、人の背丈を越える岩がゴロゴロと転がっている。
砂縞トカゲを狩った場所とは違い、砂地が無い。
移動の途中、他の冒険者と擦れ違い、挨拶を交わす。
他のパーティーから離れた場所で、仕事をするのがどこでも習いだ。
互いに邪魔はされたくないものだから。
とは言え、緊急時に近くにいれば助け合う事もある。
最初に遭遇したのは大食い鬼の一団だった。
岩の間を互いに進んでいたところに遭遇した形だ。
ハノガナの街の地下迷宮などでお馴染の大食い鬼だが、出会って驚いた。
今まで遭遇した連中は半裸に毛皮を腰に巻いて木製の棍棒などを担いだのばかりだったが、ここの奴は革鎧を着て装備もやや上等になっている。
流石に冒険者並の装備とはならないが、胴から腰に掛けてちゃんとした革鎧で、武器は金属製の棍棒(金棒?)や斧などで武装している。
その数は6匹、こちらと大差ない。
大食い鬼はその腕力、体力が脅威である。
人間では振り回すのに苦労するような大型の武器も、軽々と振るう事ができる。
ただ、力はあるが腕前の方は荒い。
大振りの武器の攻撃を避け、こちらの武器の間合いに踏み込むと一撃を加える。
革鎧を着用しているが、腕や首などの露出した部位があるので、そこを狙って切り付ける。
体も大きいので、後衛からの魔法でも狙い易い。
遭遇して5分強で片付けた。
次の獲物を探し、岩場を進む。
その次に遭遇したのは狗毛鬼の集団だった。
最初に出会った時には、他の冒険者のパーティーかと思った。
装備をしっかり決めて、兜の前面から長い口先が出ていなければ、人間族か他の種族と思ってしまうだろう。
兜から鎖帷子まで、まるで冒険者か兵士のような装備である。
武器も長剣や長槍など、こちらとほぼ同じような武器を手にしている。
その戦闘は、まるで冒険者同士の戦いのようだった。
互いに武器を振り回し、切り付ける。
狗毛鬼の技量は大食い鬼よりも手強い。
武術とまでは呼べないが、それなりの技量がある。
防具もしっかりしている分、致命傷も与え難い。
それでも、少しづつ責め立てる。
防具の隙間に剣先を差し込む。
堪らず引く狗毛鬼、その隙を更に責めて切り捨てる。
そして、次の獲物へと剣先を向ける。
10分弱の戦闘が終了し、7匹の狗毛鬼を葬る。
少しばかり開けた見晴らしの利く場所で小休止とする。
それにしても、魔獣らの装備が良いのは何故なのか?
どこからか、略奪でもしているのであろうか?
その後も大食い鬼や狗毛鬼の小集団と遭遇し討伐する。
その数、大食い鬼14匹、狗毛鬼18匹。
状態の良い武具で持ち帰れる物は回収する。
日が暮れる前にはマルマトの町へと戻って来た。
討伐の報酬は4000シルバー、拾い集めた装備を売却すると1000シルバーとなった。
この町での依頼が初めてなのに討伐数が多いので担当した受付嬢は驚いていた。
この地域では、迷宮よりも魔獣に遭遇する確率が高いのかもしれない。
それ故の成果である。
宿に戻り、食事と睡眠をたっぷりと取り翌日へと備える。
そんな依頼をこなす日々が数日続いた。
やはり、遭遇する魔獣の装備はどれも整っている。
その疑問を他の冒険者らを捕まえて聞いてみた。
すると、驚きの答えが返って来る。
この辺りでは、たまに魔獣の集団に小さな村や町が襲われる事があるそうだ。
襲われた場所は破壊され、根こそぎ物や人が奪われる。
その時に武具も奪われて、それが連中に使われているらしい。
そんな魔獣の集団の討伐も、たまに冒険者ギルドに依頼が来ると言う。
集団となった連中の攻撃は凄まじい。
冒険者側も、ギルドに所属するほぼ全員で対処に当たる事もあるそうだ。
そうなると、単なる依頼というよりもちょっとした戦争だ。
自分達も白狗毛鬼の討伐時などに、複数のパーティーと行動を共にした事があるが、それ以上の規模らしい。
まあ、そんな大討伐は数ヵ月に一度あるか無いかという頻度だとか。
それでも、自分達の感覚からすれば多いとは思うが。