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第47話「国境の街」

風翔竜ふうしょうりゅうの討伐は一段落した。

けれど折角、アデレード地方の南部まで来たので、周囲の町を見て歩く事にする。

マナイアの町の東方約15kmの場所にティナンの街がある。

ここはアデレード地方の第二都市と呼べる規模の街で、南部に位置するナハクシュト王国へ続く関所のある場所でもある。

ナハクシュト王国とは友好的な関係であり、交易や人の行き来も盛んである。

その為に、珍しい輸入品も市場に並んでいるそうだ。

伯爵から借りた馬に乗り、目的も無いのでゆっくりと進んだが1時間強で街に着いた。

ティナンの街は丘陵の上に作られた都市である。

国境沿いの都市故に、城壁などは高く尖塔の数も多い。

城塞都市と言っても良いだろう。


近付くと街へ入る為の人々の行列が門戸の前に長々と伸びていた。

その多くは歩きか荷馬車を引く人であり、自分達が近付くと門戸を守る衛兵らに手招きされた。

武装した騎馬の一団が近付けば警戒はされる。

だが、冒険者のタグを見せ、それでアグラム伯爵の配下である事も解かると優先して街の中に入れてくれた。

彼らにしてみれば、自分らは領主直属の騎士になるので妨げるような事はできない。

優先してくれた衛兵には礼を伝え、街へと入る。

横柄な態度に思われなければ良いのだが。

兵士全員に敬礼されて迎えられのに、まだ慣れてもいない。


まずは、冒険者ギルドに向かうのが良いだろう。

おお、ここのギルドの建物も大きく立派な物だった。

中に入ると、ハノガナの街のギルドに劣らない程に雑多な冒険者がいる。

中にはナハクシュト王国から来た者も混ざっているようで、会話から聞き慣れない共通語の訛りが聞こえる。

受付カウンターには3人の受付嬢がいたが、その左側に位置する妖精族と思える嬢に声を掛ける。

やや長身のその受付嬢は水の妖精族のようであった。

肌白で、やや青味かかった髪、薄い水色の瞳の可愛らしい女性だ。

「こんにちは、当ギルドに何か御用でも?」

まずは、特に目的も無くここの街へ来た事と、観光ついでに何か変わった依頼が無いか聞いてみる。

自分達のタグを見せると、少々態度が改まる。

「領主様の騎士殿でしたか。ようこそティナンの街へ」

いやいや、騎士と言っても、ただの冒険者である。

そんな大袈裟に受け取らないでください。


話を聞くと、変わった依頼の方だが、野獣、いや野鳥の捕獲依頼があるが、どうかと勧められる。

難易度は差ほどに高くはないが、今日中に達成も可能な依頼だそうだ。

捕獲するのは脱兎鳥だっとちょう、飛べない代わりに脚力に優れた大型の鳥類だ。

背の高さは2~2.5m位、人を背に乗せる事も可能で、荷を運ぶ事にも使う。

草原や岩場など様々な場所に生息し、アデト山脈を越える事もできるそうだ。

ハノガナの街周辺では余り見掛けない生き物だが、この南部に来てからは幾度も騎乗や荷運びに使われている光景を目撃していた。

基本的には、野生の脱兎鳥を捕獲して飼いならすそうだが、野生の物はそれなりに凶暴で冒険者の依頼の1つとなっているようだ。

太紐の量端に重りを付けた投擲用の分銅を脚に絡めて捕獲するそうだ。

自分達は使った事の無い道具だが、マレイナは昔、それで鹿などを狩った事もあるという。

まずは、道具屋で投擲用の分銅や他の捕獲に必要な道具を購入し、脱兎鳥の出現する街から少しばかり離れた草原に向かう。

途中で分銅を何回も投げて感覚を掴もうとするが、どうも慣れない。


やがて、街から遠ざかり、無人の草原にやって来る。

見通しが良いので、草原に伏せて脱兎鳥が現れるのを待つ。

しゃがむと、肩の高さ位までは草の中に溶け込む。

頭だけ出して周囲を伺う。

待つ事20分近く、草原の中をガサガサと音を立てながら走って来る物がいる。

音のする方角を眺めると、5羽ほどの脱兎鳥の群れがこちらの方に近付いて来る。

彼らが走り抜ける横側の位置へ移動し、横合いから分銅を振り回し投げ付ける。

4人の分銅は脱兎鳥に掠りもしなかったが、マレイナの投げた分銅が1羽の脚に絡み付く。

勢いのまま転倒する脱兎鳥、群れの他の仲間が騒ぎ立てるが、自分達が立ち上がると警戒して距離を取る。

絡め取った脱兎鳥はバタバタともがいているが、後ろから首を抑えて目元を隠すマスクを付けて視界を奪う。

嘴に輪を掛け目元を隠すと、頭の後ろでマスクの紐を縛る。

視界を隠された脱兎鳥は動きを止めた。

連中は視界を塞ぐと大人しくなるのだ。

更に、首輪を着け手綱を繋げる。

そうしてから脚に絡まった分銅を外してやる。

脱兎鳥は立ち上がるが、逃げ出すような事はなく大人しい。

そんな作業を横目で見ながら、他の脱兎鳥が仲間を奪い返しに来ないか警戒する。

距離を開けてはいるが、立ち去ろうとはしない脱兎鳥達。

そこを狙い分銅を投げてみるが、上手くは行かず連中は走り去った。

何度もこちらを振り返り見てはいるが、仲間を奪い返そうとはしてこない。

やがて、その一団も視界から消えた。


捕まえた脱兎鳥が近くにいると他の群れの奴らがどう反応するのか解らないので、フォドに手綱を預け離れた場所に待機して貰い、再び待ち伏せを始める。

待つ事1時間、待ちくたびれた所にまたガサガサと足音が聞こえる。

今度は6羽の一団が軽やかに走って来る。

やや進路が外れそうになるので、急いで先回りをして進路を塞ぐ。

叢から立ち上がった自分達に驚く脱兎鳥。

立ち止まったその隙を突いて、分銅を足元に向けて投げ付ける。

今度はマレイナとナルルガの投げた分銅が上手く絡み付く。

自分が投げた物は脱兎鳥の体を掠めて後方に飛んで行った。

まずは、地面に倒れて暴れる1羽の捕獲作業を始める。

勿論、今回も警戒を忘れない。

今度の群れは捉えられた仲間を助けようとして、嘴で突こうと襲い掛かって来る。

致命傷にはならないとは思うが、怪我を負わされるかもしれない。

更に、爪の生えた後ろ脚で蹴りかかって来るので、それに注意して避ける。

近付いて分銅を投げようとは思うが、身を守るので精一杯だ。

やがて、捉えた2羽に手綱を付ける作業が終る。

残った脱兎鳥としばらく睨み合いが続いたが、連中も諦めたのか走り去った。

今度も振り返りこちらを見ているが、それ以上の事はして来ない。


今日は3羽も取れたので、これで街へ戻る。

捕まえた脱兎鳥は、街の城壁の外側にある牧場に届けた。

牧場には100を越える脱兎鳥や、牛馬も飼育されていた。

脱兎鳥1羽で買い取りは1000シルバーとなった。

飼い慣らされた脱兎鳥は、5000~8000シルバーで取引されているらしい。

多くは騎乗用か荷運び用だが、一部では競争を行う為に特別に飼育される事もあるそうだ。

牧場で人に慣れさせ、その鳥の特性に合せた目的に調教すると言う。

そのまま街へ入り宿屋に向かう。

部屋代は二等で1人120シルバーとなかなかの値段だ。


翌日は、目覚めて宿で朝食を摂り、市場をぶらぶらと見学する。

確かに珍しい品が並び、他では余り見掛けない物が並ぶ。

アデレード地方の特産品も並ぶが、これはナハクシュト王国から来た人向けであろうか?

人口ではハノガナの街の方が多いが、人出はそれ以上に思える。

行きかう人々と、ぶつからないように注意して市場を回る。

多くは食品類が並ぶが、工芸品や衣類、雑貨なども沢山ある。

一通り見て歩き、あとは武器屋や防具屋も顔を出す。

武具関係も種類が豊富な上に、派手な意匠を凝らした物が目立つ。

角や棘の付けられた兜や甲冑もあるが、実用的なのかは疑問である。

剣なども柄や鞘に凝った装飾が施されている。

見栄えは良いが、その分、値が張る。

また、外套や盾の表面などに派手な色彩が施されている物があるが、店の者に聞くとそれがナハクシュト王国では好まれるのだという。

盾に大きく口を開け、牙が見えるようなデザインが施されている物もある。

ちょっと珍しいので、その中でもやや落ち着いた色遣いをした外套を買った。

価格は180シルバー、やや高いな。

店を回っている内に昼を少し過ぎた頃になったので飯屋に入り昼食を摂る。

料理の方も珍しい食材が使われ変わった味付けの物もあったが、なかなかの美味であった。

肉汁たっぷりの肉料理、香草を使った魚料理などが旨い。

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