第4話「初心冒険者の悩み」
前回までの依頼で、何となく冒険者の生活という物も見えて来た。
今は、職業及び技能のレベルアップと、破産しないようなバランスが大切だろう。
そして、余裕が出て来たら装備も更新して行こう。
今の自分の技能では、植物系採取を主体にして、ついでに見掛けた手に負える魔獣などを狩って稼ぎと経験の足しにするのが最適であろう。
ここで大まかに、職業や技術に付いて語っておこう。
職業は、生まれながらの家系や冒険者になる前の仕事によって決まる物と、冒険者になってから選択する職業がある。
前者がいわば基本職業、後者が技能職業とでも区別できるかもしれない。
基本職業は、貴族や王族には特別な物もあるが、一般人は生まれた家庭によって決まると考えて良い。
自分は農家の生まれなので農夫であるが、他に商人、鍛冶屋、仕立て屋、猟師などがある。
また、神官の家庭や親が魔術師であると、神官や魔術師などにもなるらしい。
技能職業は、冒険者になってから、自分の得意な技能等を活かして選ぶ職業である。
自分はまず最初に戦士を選んだが、その他に狩人、魔術師、神官などもある。
職業はレベルがあり、レベルが上がる程に固有の技術などを取得できる上に、身体能力なども上がる。
戦闘向きな職業では、武器の扱いに長けた、より強い存在へとなれる。
技術は、武技と技能の2種類に、魔法もこれの一種と言えるかもしれない。
それぞれ使い続ける事により成長して行くが、武技と魔法にはレベルがあるが、技能は数値で現され、身体能力を上げたり特定の能力として使える。
レベルや技能の数値は、冒険者ギルドなどに置かれている能力判定ボードで調べる事ができる。
ボード自体、魔法道具の1つであり、ギルド以外にも神殿などに備えてある。
普段の生活や冒険で数値が上がったのかは解らないが、戦闘などが明らかに上達している。
それから、冒険者は自分の選んだ職業で最もレベルが高い物に合せてランクがある。
初めて冒険者になった者はランクFとなるが、職業レベルが11に達するとランクEになり、より難易度の高い依頼に挑戦できる。
ランクはSSからFまでが基本的なランクであり、それ以上のランクになるには特別な条件があるようだ。
採取依頼とついでの戦闘を続ける事数日、久し振りにボードで能力を調べて貰う。
「戦士Lv.4」
「農夫Lv.5」
「斧術Lv.5」
「水魔法Lv.5」
「土魔法Lv.3」
「腕力+5」
「機敏性+1」
「土質鑑定+3」
「植物鑑定+4」
「植物育成+2」
これが今の能力である。
機敏性は、幾度となく魔獣との戦闘を経験した故だろう。
斧術、水,土の魔法も、戦闘中に閃いた技が幾つか使えるようになった。
何より、水魔法の回復系の魔法が使えるようになったのが、ありがたい。
それでも、まだちょっとした傷を癒す程度で、専門の神官には及ばない。
能力を調べたついでに、マサキに冒険者に必要な事を聞いてみる。
マサキ「そうですね、今まではお一人で採取を中心とした依頼を受けて頂いていましたが、この先の事を考えると、もっと収入の良い依頼に挑戦して頂いた方が良いと思いますが、そうなるとお一人では困難かと、勿論不可能とは言いませんが、時として負担の多い事もありますから。」
それは思い付いていた事だが、今の自分を仲間に誘ってくれるような人物が、いるのかどうか。
また、誘われたとしても、信用ができないような相手ならば、余計な揉め事に巻き込まれる事もあるかもしれない。
マサキ「丁度、サダさんの少し前に冒険者を始めた方がいるのですが、一度、お話してみませんか?」
俺の名は、キオウ。
冒険者を始めたばかりの駆け出しの戦士だ。
実家は、村でよろず屋をしている。
村では碌な商店がなく、他の大きな町では道具屋、薬屋など別々の店が並ぶが、俺の生まれた小さな村にそんなに店が多くある訳でもなく、幾つかの商品をまとめて家で扱っている。
両親は長年、そんな小さな村でこれまた小さな店を営んでいたが、俺には跡を継ぐ気にはなれなかった。
たまに周囲の野山や森で狩猟するが、そちらの方が性に会っているように思う。
猟師になるのも良いかもしれない。
だが、まだ若い俺は別の道を選ぶ事にする。
それは、冒険者だ。
村に、冒険者ギルドは無い。
だが、近くにあるオルタナの町などから、何か問題があった場合には、冒険者が来てくれる事が幾度もあった。
冒険者らは、村の畑を荒らしたり、村人や家畜に害をなす魔獣を退治してくれた。
そんな光景を、物心付く頃から何度も見てきた。
何時しか、彼らが憧れとなり俺の目標になった。
成長と共に、俺は家業の手伝いよりも、狩猟に没頭するようになった。
狩猟で野外を歩き回り、獲物を狩る事は体と技の鍛錬になった。
そして、17歳のある日、自分は村を出てオルタナの町の冒険者ギルドに向かった。
冒険者になったのは良いが、何をしたら良いのか解らない。
ギルドの受付嬢のマサキには、いろいろとアドバイスを貰った。
何とか一人で依頼をこなしていたが、俺だけではそろそろ限界も感じ始めている。
そんな時に、マサキから仲間を紹介して貰う事となった。
そいつとある日、ギルドで対面する事にした。
現れたのは、俺と然程に歳の差の無い若い男だ。
特に特徴は無いと言っては失礼だが、歳の割りに落ち着いた印象を受けた。
どこか人の良さそうな感じもして、癖のある人物には見えない。
名前は、サダ。
出身は、オルタナの町ではなく、少し離れたニナサの村だという。
俺は、そこに行った事は無いが、名前くらいは勿論知っている。
互いに村出身、平民の出である事が安心させるのかもしれない。
まだ、こいつの事はよく解らないが、第一印象では悪く思える事は無かった。
俺より少し後に冒険者になったばかりのようで、装備がちょっと物足りないが、今はそれ程に問題にはならないだろう。
紹介されたのは、キオウという若い男性だった。
歳は17歳というから、多分、自分よりも1つ年下という事になるだろう。
2年間の記憶がまだ戻らないので、自分は今、18歳という事にしておく。
キオウは職業を戦士に選び、槍を得意としているようだが、魔法はまだ使えないらしい。
主武装は手槍で、全身革鎧を着こなし、補助の武器として投げナイフを使うと言う。
レベルを聞くと、戦士Lv.6、槍術Lv.7だそうだ。
自分の少し前、数週間前から冒険者になったようだ。
出身は、ここオルタナの町の近くにある小さな村だ。
彼もそろそろ一人での仕事に限界を感じつつ、誰か仲間になる人物を探していたようだ。
マサキの紹介ならば、信用しても良い人物だろう。
「よろしく、キオウ。」
キオウ「こちらこそ、よろしくな、サダ。」
ちゃんと自分の目を見て話してくれたのも、好印象だ。
翌日から2人でパーティーを組み、一緒に行動する事にした。
依頼は同程度の物を幾つか受け、報酬は均等に分ける事にする。
初回は、幾つかの野草を採取する物と、自分では初の狩りの依頼を受けた。
その獲物は、あの大ネズミを5匹狩る事である。
前回は苦戦した思いがあるが、キオウは一人でも依頼を達成した事もあるそうだ。
今回は互いの腕試しの意味もあり、受ける事にした。
道々、キオウと雑談した。
互いのこれまでの生活や体験など、様々な事だ。
そして、自分は2年間の記憶を無くしている事も話した。
キオウは少々驚いたようだが、「気にするな。その内に思い出すさ。」と言ってくれた。
表面的な事ではなく、初対面の自分を気遣っている素振りもある。
キオウ、いい奴だな。
明るく話しているが、軽さは無い。
野草の採取依頼は、頭痛薬、下痢止めなどに使う数種類の物を集めるという内容だ。
農業系の技能のある自分には簡単な事だが、商人生まれのキオウはどちらかと言えば苦手で、冒険者に成りたての頃に薬草集めを何度かやった程度らしい。
キオウ「俺には、野草の違いが解らないけど、サダには区別できるんだな。」
「そうだね。これも農作業のお陰だと思う。」
キオウ「そうかもな。俺は農業とは無縁だったからな。」
追加報酬目当てもあり、依頼数の倍以上は集めた。
次は、大ネズミ探しである。
大ネズミは森の中の水辺や草地によく出るという。
普通は2,3匹の群れでいるので、最低でも2組は探す必要がある。
余り人を襲う事の無い獣だが、たまに農作物を荒らすので農家からの依頼が入るのだ。
キオウの槍は、なかなかの物だった。
突進して来る大ネズミをさっと横にかわし、擦れ違いざまにその横腹を突く。
流石に一撃では倒せないが、ダメージは大きい。
数回繰り返すとばたりと大ネズミは倒れた。
また、横殴りに頭を狙った一撃は時として相手を気絶させる。
自分も負けじと、離れた所から水塊を放ち、近付いては手斧の一撃を加える。
3つの群れを狩猟し、大ネズミを8匹倒した。
今日はこれで充分だろう。
2人で掛かれば、大ネズミ位は何ともない相手であるが、キオウの方が倍近くは倒している。
キオウは気にするなと言うが、自分ももう少しは頑張らないと。
キオウ「槍はリーチの長さもあるから、使い易い武器なんだよ。」
レベルを上げるのも良いが、それそろ武器を変えても良いか。
野草の採取で30シルバー、大ネズミの狩猟で60シルバーの報酬を得た。
これを2人で等分に分ける。
ギルドからの帰り道に、武器屋に顔を出す。
主人のタッサムが勧めて来たのは、手斧より一回り大きな斧だった。
柄の長さも刃も手斧よりも大きく、重量もあるが威力もありそうだ。
軽く試しに振ってみるが、腕力も上がっているのか難なく扱えそうだ。
「こいつも悪くないな。」
「そうだろう。斧の扱いにも慣れた頃だろうし、少し大きな奴でも使えるだろ?」
80シルバーを払ってフクロウ亭に向かう。
手斧は25シルバーで引き取ってもらった。
新しい斧は、鉄斧と呼ぼう。
キオウと組んで学ぶ事は多かった。
魔獣との戦い方、追跡や探索など、どうやら彼自身の技能もあるのであろうが、今までの自分の行き渡りばったり的な戦いと違うやり方を学べた。
代わりに、彼には魔法の事を教えた。
と言っても、自分には魔法の能力はあるが独学でここまで来たので、最初のコツを少々教えた程度だ。
自分では水と地の魔法が使えるが、キオウは風の魔法を身に付けた。
まだまだ実用レベルとは行かないが、能力は開花したと言えるだろう。
キオウ「やったぜ、これで俺も魔法が使えるよ。ありがとな、サダ。」
「いや、キオウから学ぶ事の方が多いから。こちらこそ礼を言うよ。」
2人で、しばらく依頼を受けつつ数日が過ぎた。
ある日、ギルドに2人で出掛けて依頼を受けようとすると、マサキからある提案をされた。
それは複数人で、一角鬼を退治するという物だ。
何でも町から少し離れた廃屋に、一角鬼が住み着いているらしいとの事だ。
一角鬼とは、身長150cm位の人型の魔獣で、能力も知能も差ほどに高い訳ではない。
普通は、数組の家族が1つの群れとなり、集団生活をしている。
人里に現れる事もあり、家畜を盗んだり人を襲う事もある。
特に、女子供は狙われ易い。
一角という名が付いているが、1本の角が生えているのではなく、額から突起が出ているのでそう呼ばれる。
彼らの中ではその出っ張りに群れでの地位が関わっているようだ。
たまに双角鬼と呼ばれる突起が2つ出ている物もいるらしい。
今回、住み着いた一角鬼はまだ少数らしいが、数が増えるのも時間の問題であろう。
ただ、相手はそれ程に強くはないが、ベテランの冒険者には実入りの少ない依頼で、しかも今回は少数しかいないので余計に志願者がいない。
なので、ギルドは周囲の町村にも依頼を出し、中級と初級の冒険者を組み合わせた臨時のパーティーを募集しているとの事だ。
流石に初心者と言っても、何の経験の無い冒険者を選ぶのではなく、幾らか経験がありかつ誰かと組んだ事のある人物を対象とするらしい。
そんな条件に、キオウと自分は合致していた。
今回は退治する一角鬼の数も少なそうなので、ギルドはボーナスを付けて報酬を上乗せしてくれるそうだ。
2人で顔を見合わせる。
「キオウどうする?」
キオウ「勿論、参加するよ。サダはどうだ?」
「自分も参加したい。」
キオウ「よし、決まりだ。」
今まで、獣や昆虫のような物ばかりと戦って来たが、2人共、人型の物とは対峙した事は無い。
一角鬼自体は見た事はあるが、それは誰かが倒した物か遠目に見た程度だ。
だが、いずれは人型の魔獣とも戦う時が来るであろう。
今までの2人だけでは、なかなか踏み出すのを躊躇ってもいたが、これは良い機会になるかもしれない。
2人で依頼を受ける事にした。
2日後、一角鬼退治のメンバーとギルドで顔を合せる事になった。