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第38話「ケリナの街へ」

 その日の昼過ぎに、ガラワンと兵士5人と共にグラナイト地方へ向かう事になる。

目指すは、魔法高等学校のあるケリナの街である。

今回は、馬車と騎馬での旅となる。

自分らも、交代で騎馬に乗りながら5日の旅になった。

ガラワン「おお、騎乗も様になって来たな。」

「開拓村の周辺では、随分と乗り回してましたから。」

ガラワン「若者の成長を見るのはいいね~。」

キオウ「そうですか?」

ガラワン「ああ、そういうもんだ。昔の俺もそうだったなと。」


道中、ガラワンから今回の依頼の裏の目的を聞かされた。

ガラワン「例のふだの件で、お前らが連中に目を付けられたんじゃないかってのが、伯爵の心配事なんだよ。折角の若手をあんな連中に潰されるのは惜しいってな。魔法を学ばせるのは、そのほとぼりを冷ます意味もある。それに、魔法を習うなら、お前らは更に強くなる。そしたら、そう簡単に出を出せなくなるだろ?」

ガラワンらが同行しているのも、警護の意味もあるのだ。

それに、自分達がケリナの街に行っている間に、開拓村周辺の本格的な捜査も行うと言う。

それで、札の事が解決すると良いのだが。

グラナイト地方の領主は、アグラム伯爵の親戚であり、自分達の周囲をそれとなく見守ってくれる事になっているので、厄介事が起きた時には保護もお願いしてあるそうだ。


 そして、ケリナの街に、無事に到着した。

途中、何者かに襲撃されるような事は、無かった。

キオウ「うおっ、ここはハノガナの街よりデカイな。」

ナルルガ「あんた、そろそろ慣れなさいよ、この田舎者が!」

ここは、魔法高等学校だけでなく、様々な学びの園が王国中から集められている、言わば学問都市がこの街である。

街へ近付いただけで、その特徴が見えて来る。

街の中央にそびえる高さ60mのケリナ城の尖塔、そしてそれに続く幾つもの塔。

「うわ~、まるで塔が沢山あって、山脈みたいだ。」

ナルルガ「はぁ、もう1人、田舎者がいたのを忘れていたわ。」

フォド「いいじゃないですか。人間族は、こんな凄い街を作ってしまうのですね?」


ケリナ城の尖塔だけでなく、他の塔も今まで見た事がない程に高い建物だ。

驚きを持って街を眺めていると、自分達はとある屋敷に連れて来られた。

ここはグラナイト地方の領主である、ユドロ侯爵の別宅だそうだ。

この屋敷が、自分達の滞在場所となるのだ。

魔法高等学校へは明日行く事にして、今日は旅の疲れを癒す事にする。

この屋敷も外側は地味に抑えてあるが、内部は随分と豪華な作りである。

翌日、ガラワンらは帰路に付いた。

ガラワン「じゃあな、お前ら。頑張れよ。しばらく会えんが、ここならまず安心してもいいはずだ。けど、一応は、用心しろよ。」

ガラワンは、ハノガナの街に戻ったら、今度は開拓村周辺の調査に向かうらしい。

ガラワン「こちとら、戻ったら、また荒仕事よ。伯爵も、人使いが荒いぜ。」

伯爵の実行部隊も忙しい。

互いの無事を祈り合って別れた。

自分らは、侯爵家の家人に付き添われて魔法高等学校に向かう。


 「魔法庁直轄ケリナ魔法高等学院」、それが正式な名称らしい。

開校から、100年以上の歴史のある名門校のようだ。

ハノガナの街にも魔法学校はある。

アデト魔法学校であり、そこでナルルガも、数ヵ月通って習っていた事もあるようだ。

だが、ここはその魔法学校よりも格式は上で、ラッカムラン王国最高位の魔法の学校だそうだ。

ナルルガ「あんたら、ここで魔法を学べるなんて、よっぽどの幸運よ。魔術師の家系でも、そうは通えないすんごい所なんだから。通うには、すっごいコネか著名な魔術師の家系だけよ。そこの所、ちゃんと意識してよね。」

キオウ「何か、いつものナルルガより、バカっぽい事言ってないか?」

ナルルガ「あんたらに合わせて言ってんのよ!」


ここの学院も、まるで宮殿のような規模の建物であり、アグラム伯爵の城館よりも大きな門を、気後れしながら潜る。

案内されたのは、客室の1つであった。

そこで、札の研究を行っている主任のタバル教授と、魔法を指導してくれるメガノ師と出会った。

タバル教授は40代位の男性の魔導師だ。

右目の片眼鏡と丸い帽子が如何にも教授という風格に見える。

根が研究者なのか、やや偏屈そうな印象だ。

メガノ師は30代の美しい女性の魔導師で、こちらは尖がった帽子を被っている。

優しそうな笑顔を浮かべているのが、印象に残った。

教授からは、札の簡単な説明があった。


タバル「ええ、例の札の事だが、現在調査中である。元は、今から数百年前、何者かによって製作された、ええ、魔道具らしい。そして、死者だけでなく、無機質の物体も動かす事ができるようだと、ええ、記録によるとそうなっておる。」

そうか、それで動く石像の金属片と、似ているのかもしれない。

タバル「ええ、詳細は不明で、今は、膨大な記録の中から、関連する事を調査中である。ええ、それと魔法の講義の事も説明しよう。」

ナルルガ以外は、基礎的な事も習った事が無いので、これから約3ヵ月の初級魔法の講座を受ける事になる。

その期間の長さに少々驚いたが、既にその講座の予約が取られているのだとか。

ナルルガは、別に中級の講座を受ける事になっていた。

タバル「ええ、ナルルガ君の受講する中級の講座だが、本来は半年間は掛かるものである。ええ、だが、彼女の場合は、特別に以前、収集し完成させた魔導書の実績を考慮して、ええ、短縮した期間でも受講認定を授ける事とする。ええ、君の魔導書だが、私も見せて貰ったが、非常によくできた物であった。ええ、あんな物に出会えるとは、君も幸運であるな。」

ナルルガの顔も耳も真っ赤になっていた。

ちなみに、中級の上には上級、特級、星級と幾つも段階があるらしい。

全てを受講するとなると、その期間は、10年を越えるのだとか。

今日は、学校内の様々な施設をメガノ師が案内してくれて、講座は翌日からとなった。


 学校を出ると、まだ昼を少し過ぎた位の時間である。

昼食をどこかで食べ、後は街を散策する事にする。

ハノガナの街より大きく発達した場所に来るのも、自分を含めて初めての者が多い。

ナルルガ「みんな、あんまり浮かれないでね。」

行きかう人々の多さ、様々な露店や店があるので、物珍しそうに見て回った。

ナルルガ「言っても、無駄みたいね。」


そして、一件の飯屋を見付けたので、そこに入ってみる事にする。

余り豪華な店は気後れするので、見た目に派手さは無いが、落ち着いた店を選んだ。

中は6つの卓の並ぶ、やや小さな店であった。

キオウ「お姉さん、何かお勧めの物を5人分お願いするよ。」

「は~い、かしこまりました~。」

しばらくすると、鳥や魚を調理した3品と、幾つかの小皿料理が出された。

味付けも、今まで食べた事の無い美味であった。

多分、大衆的な店ではあるが、旨い。

今後も、贔屓にしようと思った。

会計すると合計で6ゴールドとの事。

キオウ「おいおい、いい値段するぞ。」

「贅沢すると、大変そうだな。」

流石は、都会である。


続いて、武器や防具の店なども見て行こうという事になり、飯屋でその場所を聞いて向かう。

キオウ「すげ~な、武器屋も防具屋も、それぞれ何軒もあるぞ。」

「本当だな。こんなに店がいるのか?」

1つの通りに、武器屋や防具屋が何軒も並ぶ。

各店を覗いてみると、その品揃えにも驚く。

剣にしても大小様々あり種類も多く、装飾の施された高価な物もある。

中には、実用性が疑問視されるような物もあるが、それも需要があるという事か?

気になる装備はあったが、今すぐには必要はない物なので我慢する。


 それから、念の為に、この街の冒険者ギルドに向かう。

ここで、仕事の依頼を受ける可能性は低いかもしれないが、情報収集などの為に一度は顔を出し登録しておく事は、無駄ではないだろう。

キオウ「うわ、これが冒険者ギルドかよ。建物でっけ~。」

ナルルガ「あんた、何度そうやってんのよ。そろそろ慣れなさい。」

キオウ「あれ、ナルルガも魔法学院では、すげぇ興奮してたよな?」

ナルルガ「あ、あそこは、例外中の例外よ。何と言っても、国内の魔術師らの憧れの場所なんですから。」

キオウが驚くのも無理は無い。

他の場所でも、冒険者ギルドは大きな建物にある事が多いのだが、この街のそれはちょっとした町の有力者の屋敷にも思えるような、立派な建物である。

扉を開け、中に入って更に驚く。

内装も豪華だが、居並ぶ冒険者の装備も煌びやかだ。

自分達の装備は、ハノガナの街では珍しい物ではないが、この街では浮きそうな装いだ。

他の冒険者の目も、心なしか冷たいように感じる。

場違いな感じを受けながら、受付に向かう。

受付でもまた驚いた。


「うわっ、あそこにいるのは、受付嬢さんかな? あんな美人さんは見た事ないよ。」

マレイナ「何、盛り上がってんのよ、サダ。しっかりしてよ。」

今までに出会ったギルドの受付嬢は、誰もが見目の良い女性ばかりだが、ここの受付嬢は更にその上を行く。

しかも、他所の受付嬢が簡素な服装なのに、ここの嬢は皆、豪華なドレス姿なのだ。

「まるで、どこかのお嬢さんか、貴族の人みたいだな。」

マレイナ「もう、奇麗な人に弱いんだから。」

「いや、そんな事ないけど、凄いよここは。」

緊張しながら今回の用件を伝え、自分達のギルド・タグを提示した。

「ようこそ皆様。あら? 皆様、レベルが高いですね」

今の自分達のレベルは40だ。

代表で自分の能力を明かすとこうなる。


「魔法戦士Lv.15」

「戦士Lv.40」

「魔術師Lv.36」

「農夫Lv.8」

「剣術Lv.30」

「斧術Lv.24」

「棍術Lv.17」

「格闘術Lv.14」

「水魔法Lv.26」

「地魔法Lv.24」

「水泳Lv.2」

「腕力+9」

「敏捷性+7」

「器用さ+6」

「土質鑑定+6」

「植物鑑定+5」

「植物育成+4」


ハノガナの街では、それなりに腕が立つ方だと思うが、ここではどうなのだろうか?

聞くと、ここでは、上位に入る技量だと言う。

気後れしていた気持ちが、少し落ち着いた。

ここで依頼を受けるとしても、それ程に苦労はしないで済みそうだ。

今回は、依頼を受けずに、戻る事にする。

ただ、屋敷に戻る前に防具屋に戻り、外套だけは派手さは無いが見た目の良い物を皆で買い揃えた。

ここでは、見た目も大切であろうとの判断だ。

外套だけなのだが、15ゴールドもしたのが少々癪だ。

それと、通学用に普段着も、この街では可笑しくはない物を買った。

自分も上下の上着を揃えたが、それが10ゴールドもした。

キオウ「うわっ、服もたけ~っ。こんなの普段からみんな着てんのか?」

「こんな高い服、買うのも着るのも初めてだよ。」

ナルルガ「二人とも、そう思っても、もう口に出さないでね。」

マレイナ「サダも、奇麗な服着ても、奇麗な女の人には近付かないようにね。」


 翌朝から学院へ通う事になる。

冒険者の装備で通う訳にはいかないので、昨日、購入した服を着て、念の為に護身用のナイフだけは所持する事にする。

初級のクラスは、30人程が受講していた。

他の生徒達は、魔術師を目指す者が多いが、裕福な家庭が多いようだ。

自分達のような冒険者の生徒は、珍しいのだろう。

講義は既に数回行われていて、自分らは途中からの参加ではあったが、難なく付いて行く事は出来た。

実戦での魔法を使った経験もある上に、ナルルガの教え方が上手かった事が、改めて確認できた。

人見知りなナルルガの意外な才能に驚く。

今は、座学のみで、午前中に2時間、昼を挟んで午後の2時間の講義だ。

昼食は、学院内に食堂があり、そこで食べる事ができた。

野菜中心のややボリュームに欠ける食事だったが、味は悪くはない。

キオウ「量足りなくないか?」

「ああ、パンをもう少し貰って来よう。」

ナルルガ「お腹いっぱいにすると、午後は眠くなるわよ。」

昼食時には、中級の講義を受けているナルルガとも顔を合せた。

ナルルガ「ああ、それにしても、ここの授業は素晴らしいわね。」

ケリナ魔法高等学院に憧れのあった彼女は、ここでの受講に一番興奮しているようだ。

食後の午後の講義は少しばかり眠かったが、初日の学院生活は無事に終った。

それからしばらく、屋敷と学院の往復の日々が続いた。


 自分達「西方の炎風」のメンバーが、学院で難無く講義を受けているのを不思議に思う人は、いるだろうか?

この世界において、識字率はそれ程には高くはない。

当然ながら、普通に学院に通うような貴族や裕福な家庭では様々な教育を相応に行い、読み書きができる者は多い。

だが、中級以下の一般民では、必ずしもそうとは言えない。

自分達の中で、一番家庭が教育熱心だったのは、ナルルガの家庭であろう。

彼女の家系は魔術師のそれであり、魔法の様々な教育以外に、一般的な物は受けたらしい。

一般的な教育が、どの程度、彼女の身に付いたのかは解らないが。

更に、アデレード地方の魔法学校でも学んでいる。


フォドの場合は、人間との関わりを想定し共通語や文化を昔から学んでおり、更には人間の社会に出て来てからは、神殿で神学を学んだ経験もあったそうだ。

マレイナは貴族の家人の家系だが、仕える主人の意向もあり、使用人でも教育を受ける機会はあったそうだ。

キオウの場合は、実家がよろず屋であり、帳簿の書き方を学ぶ過程で他にも一般教養的な物を身に付ける機会があった。

最後に自分だが、ニナサの村ではたまたま村の子供達が学べる場所があり、自分は余り乗り気では無かったが、一通りは習っていた。

だが、学院に来てから、村で習った以上の知識が何故か身についているのが不思議だった。

一番勉学が苦手と思っていた自分の知識は、そうでもない事には自分でも驚きだ。


学院の講座を受けるようになり、早2週間ばかりが過ぎた。

講座は興味のある内容で、他の学生らとの交流も問題なく行えている。

冒険者の実戦での魔法の事を、彼らは興味深く聞いてくれた。

学生は街の有力者か魔術師の家系の出が多く、魔法が昔から使えたとしても、それを実地に使った事のある者はほとんどいない。

彼らが、興味を持つのも当たり前なのだろう。

室内で、座って講座を受けるのは生まれて初めての事もあり、こんなに体を動かさない日々も、何時以来なのかも覚えていないくらいだ。

幸い、侯爵家の別宅には、兵士らが体を鍛える場所もあり、そこで素振りなどをしてはいるが体と心が鈍る気がする。


キオウ「流石に、ここまで体を動かす機会が無いと、鈍りそうだな。」

「ギルドで、簡単に終わりそうな依頼を受けてみるか?」

マレイナ「それがいいね。たまには、体をしっかり使わないと。」

講座は週に1日は休みがあるので、その日に負担にならない程度の依頼を受ける事にする。


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