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第37話「遭遇と夜襲」

 開拓村の周辺の朝夕の巡回を繰り返す事、約4日。

ようやく、その時が訪れた。

朝の巡回では、いつもと同じく何の変化も無かった。

だが、その日の夕方、一ヶ所の廃屋に誰かが入ったようだ。

各廃屋の入口周辺に、枝でちょっとした仕掛けを作っておいたのだ。

誰かが踏むと枝が折れるような簡単な仕組みなのだが、その枝が踏み潰されて折られている。

マレイナ「誰か、来てたよ。」

キオウ「猪とかじゃないよな?」

マレイナ「違うよ。何カ所か同じように枝が折れているから。」

そこは予想通り、開拓村から一番離れた場所にある廃屋だ。

「でも、どうやって、相手に近付く?」

キオウ「やあ、こんちわ、ではダメか?」

ナルルガ「真面目に考えなさいよ。」

相手は、単なる開拓民や別の目的でやって来た流れ者の可能性もある。

フォド「相手の正体が解りませんから、対応に困りますね。」

マレイナ「明らかに悪者って方が楽かもね。」

キオウ「向かって来るなら、叩きのめしてやればいい。」

だが、対峙するとしても、人間やその他の種族と、そうなるのも初めての体験である。

今更になって、依頼の重さが感じられた。

しかし、状況は先方から変えられた。


「シュッ」と、何かの音が聞こえて反射的に身を潜める。

矢が1本、こちらに撃ち込まれたのだ。

勿論、正確に狙われていたのならば、音がした段階でこちらに突き刺さっていただろう。

キオウ「野郎、いきなり撃って来やがった。」

マレイナ「でも、これは狙ったんじゃなくて、警告みたいだよ。」

フォド「向こうも、こちらを開拓民と思っているようですよ。」

様子を伺うと、廃屋近くの木陰で弩を構えた人物が見える。

キオウ「1人か?」

「いや、他に仲間がいるはずだ。」

マレイナ「これは、後ろから来るよ。」

別の方角から現れた奴が、いきなり切り付けて来た。

(やはり、もう1人いたか?)

フードを深く被り顔を隠した奴が、両刃の短剣を構えて切り掛かって来た。

自分も長剣を抜き応戦する。

(こいつ、人間族だな。性別は、男らしいな。)

気配を消して近付いて来た事、その身のこなしの素早さから、スカウトでもやっているのかもしれない。

なかなかに腕は立つようだが、こちらもそれなりの場数を踏んで来た自覚はある。

多少素早い程度の相手ならば、魔獣の方が遥かに手強い。

弩の方にはキオウとフォド、この短剣の相手は自分が務める。

マレイナとナルルガは、他にも仲間がいるかもしれないので周囲の警戒を頼む。


短剣の男との対峙が続く。

左右に揺さぶりを掛けつつ、こちらの隙を狙っては、踏み込んで切り付けて来る。

だが、こちらも長剣で防ぎ、そして切る。

武器のリーチはこちらが長いが、懐に飛び込まれると厄介なので、長剣の大振りはできない。

キオウ達の方は、もう1人弩を持った人物が現れ、少々苦戦しているようなので、マレイナの半弓で援護させる。

弩の連射性は弓よりは劣る。

マレイナが弓で制圧すると、キオウとフォドが取り付き、相手の武器を破壊した。

その後は、武器を持ち替え短剣を抜いて応戦して来ている。


相手は、3人だけらしい。

ただの開拓民かと思って自分達を侮っていた連中は、徐々に押されつつある。

(冒険者を嘗めるなよ!)

長剣で短剣を弾き、こいつの胴を薙ぎ払ってやった。

「ぐっ!」

短剣の男は、革鎧を身に付けていたようだが、相当なダメージのはずだ。

武器を落とし呻く相手に、左の手甲ごと顔面を殴り付けてやった。

「うげぅっ!」

口からは血が吹き出たが、お構いなしにもう一発叩き込んだ。

「ごがっく!」

手甲には金属製の鋲も付いているのだから、これは効いたであろう。

堪らず相手は、地面に倒れる。

そこへ圧し掛かり、縄で縛りあげる。

キオウらも、相手を制圧したようだ。

3人を後ろ手に縛り、廃屋の中に連行する。

マレイナとナルルガには、外の見張りを頼み、簡単な尋問を始める。


フードを外してみると、全員が人間族の男だった。

傷は、フォドの呪文で治療してやった。

まずは、何をしていたのか聞いてみるが、当然の事ながら答えはしない。

素人の自分達が尋問したところで、何も聞き出せはしないだろう。

今日は、この3人を開拓村まで連れて行き、明日にハノガナの街へ戻り伯爵に任せた方が良いだろう。

念の為に武器など持っていないか調べ、3人を数珠繋ぎにして村へと戻る。

村が近付いた所で目隠しをし、ナルルガとフォドに馬車を迎えに戻す。

後は一晩、見張りをして街へ戻るだけである。


 その夜の事である。

交代で見張りを立てていたが、見張りのキオウとガウニの叫び声に目が覚めた。

寝床から飛び起きて見ると、開拓村に火矢が撃ち込まれたのか、所々で火の手が上がっている。

「火事だ、早く消せ!」

「水、水だ!」

自分達も、消火と襲撃者への備えを行う事となる。

だが、襲撃者の数は少ないようで、周囲の森から矢を撃ち込むだけで姿は見せない。

襲撃者がいるであろう所に、見当を付けて魔法を叩き込む。

「どうだ?」

すると、また別の場所から火矢が撃たれる。

次々と場所を変えては、撃ち込まれる火矢。

「くそっ、敵はどこだ?」


そんな事を幾度か繰り返していたが、やがて襲撃者は姿を消した。

その後、慌ただしく消火作業を村総出で行った。

撃ち込まれた火矢の数が少なかったのか、全焼した家屋はない。

だが、半数の家が何らかの被害を受けていた。

そして消火の合間に、捕虜から一瞬だけ目を離した瞬間だった。

キオウ「おい、やられたぞ。」

消火が落ち着き、馬車に捕らえていた彼らの様子を見に行くと、3人共刺されていた。

「くそっ、火事を起こしたのは囮か?」

フォドが回復魔法を掛け1人は蘇生できたが、2人はそのまま息を引き取った。

翌朝まで、周囲と残った捕虜の警戒を続ける。

キオウ「こいつは、ヤバイ相手だな。」

フォド「捕まった仲間を処分するなんて、まともじゃないですよ。」


翌朝、日が昇ると、慌ただしくハノガナの街へと出発する。

「皆さん、ご迷惑をお掛けしました。今回の被害、必ず償うので、今はご容赦を。」

「ああ、構わんよ。道中、気を付けてくださいな。」

それから4日、周囲を警戒しつつ街へと急いだ。

襲撃を警戒するので、時として待ち伏せされそうな場所を迂回して進む。

幸いな事に、道中を襲撃される事は無かった。

追跡の気配は無いが、追われていると考えた方が良いのだろう。

警戒が上手く行ったのか、無事に伯爵の城館に到着し、ほっとした。


 すぐさま伯爵の執務室に通されて、報告する事になった。

捕虜は、城館に入ったところで伯爵家の者に引き渡し、以後は会う事も無かった。

1人だけでも、ここまで連れて来れて良かったな。

執務室で事の顛末を報告したが、そのまま自分達は城館に留め置かれる事になる。

アグラム「そうか、ご苦労であった。しばらく、この館に留まっていてくれ。」

伯爵家での待遇は、そう悪くはない。

あてがわれた居室はなかなかに豪華で、食事も毎度の事ながら申し分が無い。

ただ休んでいるのも退屈なので、館の兵士らの訓練に付き合うなどしていた。

体を動かしていた方が、時間の流れも速く感じる。

そして、3日が経ったところで、再び伯爵からの声が掛かる。


捕虜の尋問が一通り終わったようだ。

彼がどんな取り調べを行われたのかは解らないが、できるだけ想像はしない事にした。

アグラム「なかなかに口の堅い奴だよ。もっとも、何も知らされていないのかもしれないがね。」

彼がどんな組織に属しているのか、それともただ雇われたのかも解らない。

アグラム「だが、札を扱う奴らの仲間と考えていいだろう。」

しかし、肝心な札の使い方がまだ解らないのだ。

どんなに話を聞こうとしても、彼は何も肝心な事を話さないそうだ。

もしかしたら、彼も確信的な事は教えられていないのかもしれないが。


そして、自分達に次の依頼が伯爵から出される。

ハノガナの街のあるのが、ここアデレード地方である。

その北方にある隣の地方が、グラナイト地方だ。

そのグラナイト地方には、魔法庁の研究機関があり、そこで以前に回収された札の調査を行っていて、その結果を聞く為に自分達を派遣したいとの事だ。

アグラム「調査の結果が出るまでは、まだまだ時間も掛かるだろう。そこでだ、君達にはついでと言っては何だが、研究機関のある魔法学校で魔法について学んで来て貰おう。勿論、費用は私が負担するから安心してくれ。」

確かに、ナルルガ以外は魔法をどこかで習っていた事はないので、良い機会かもしれない。

アグラム「出発は、今日中にしたまえ。」

慌ただしく準備をする。

準備とは言え、自分達は装備と少々の日用品を持って行くだけなのだが。

足りない物は、伯爵家で揃えて貰った。

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