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第36話「秘境探索」

 廃都市での探索を終え、久し振りにゆっくりと休めた。

復帰して迷宮に通う事数日、ある日、伯爵から連絡が来た。

伯爵の執務室に伺うと、ガラワンも来ている。

アグラム「先日、君らが集めて来た例のふだについてだが、多少の事が解った。」

どうやら、札は、今はほぼ記録が残ってはいない魔法により作られた物らしい。

王都の魔法庁や国内の魔法学園の記録には、それに関する物もあったが、製造法や使用法などは残されていなかった。

集めた札が作られたのは、今から50から200年くらい前の時期の幅があるようだ。

少なくとも、50年前にも製造法などを知っている者が、いた事になる。

アグラム「札の効果だが、死体を動かすだけなのか、それても命令までができるのか、今はまだ解らないそうだ。」

試しに、死体に札を装着し動き出すのか確かめたそうだが、動く気配も無かったようだ。

札の力を使うには何かしらの儀式などが必要なのだろう。

魔法庁などでは、引き続き調査が続けられているそうだ。


 魔法庁の話も軽くしておこう。

この世界において、魔法とは当たり前の存在で、魔術師らが使うだけではなく、魔法の産物や道具が様々な場所で使われている。

冒険者ならば、魔術師らの呪文や武具になどにお世話になる事が多いが、例えば暗がりに持ち込むランタンなどにも魔法の技術が使われている。

魔法の照明は生活の様々な場所にも使われ、また魔法は医学の一部でもある。

そんな多用される魔法の管理、教育、技術開発などを管理する為に、国の政庁の1つに魔法専門の部門があり、それが魔法庁という訳だ。


 アグラム「それとは別に、また君達に頼みがある。」

今回は、国境外の開拓村で怪しい事が無いのか調査して欲しいとの事。

アグラム「札を持ち込んだ人物や、開拓村の周辺でおかしな事をしている連中がいるのか調べて欲しい。調査する範囲が広いので、馬や馬車を提供するので、使って欲しい。」

だが、自分達は馬の扱いは解らない。

アグラム「そうか。ならば、それも教えよう。馬の扱いも、この機に覚えておくのは、無駄ではないぞ。」

その日から2週間程、伯爵家の馬場で騎乗と馬車の操作法を習った。

騎士ならば馬の扱いはできて当然と伯爵は言う。

ついでに、騎馬での簡単な戦闘方法をガラワンから習う。

何とか馬の扱いも慣れた頃、国境外への探索に出発する事になった。

伯爵からは5頭の騎馬と、1台の馬付きの馬車を借りた。

5人では人出が足りないので、前回の廃都市の探索に参加した従騎士ロウンと、兵士ガウニもお供に付けられ、主に彼らが馬車の操作をする事となった。


 伯爵の城館から一団が旅立つ。

まずは、前回に滞在した開拓村へと向かう。

廃都市の様子もあるが、移住させた開拓民らの近況も見て来るのも目的だ。

開拓村で変な対立が生まれても困る。

長時間の騎乗も慣れないので疲れる。

たまに尻が痛くなり、休憩する。

馬を降りると、内股の筋肉の強張りも気になる。

そんな有様をロウンとガウニにからかわれる。

「慣れですよ、騎士様」

「そうそう。乗り続けていれば、いつの間にか慣れるもんですから。」

ただ、嫌味ではなく冗談である。

彼らとも前回の探索で、仲は良くなっているはずだ。

だといい。


日が暮れる前に、開拓村に着いた。

さほどの日にちは経ってはいないが、開拓民らとの再開が盛り上がる。

開拓民のリーダーには、今回の目的を伝えておく。

「今回は、この辺りに不審な者が行き来していないか、その調査に来ました。その後に、何か変わりはありませんか?」

「そうでしたか。あれから、あの廃墟は静かなものです。たまに、我々も覗きに行きますが、もう死体が歩き回る事もありません。静かになったからか、獣らも戻って来てます。」

元から住む開拓民と、新たに移住して来た者たちも、上手くやっているらしいので一安心だ。


開拓村へ宿泊し、次の日から周辺の探索を始める。

開拓民らによると、ここから歩いて半日の所にも別の開拓村があるそうだ。

馬で向かえば、昼前には余裕で着くだろう。

開拓民らに別れを告げて、次の村を目指して進む。

途中、獲物がいそうな場所では狩りをする。

食料の調達も目的だが、開拓村への手土産も兼ねている。

小振りな毛長猪けながいのししと大耳兎が数羽獲れたが、これで充分だろう。

昼頃に、目的の開拓村が見えて来た。

警戒されないように、まずは自分とマレイナで開拓村へ挨拶を入れる。

最初の開拓村を拡張する前と、ほぼ同じ位の規模の村だった。

マレイナ「こんにちは、皆さん。」

開拓民らは見慣れない自分達を少し警戒していたが、アグラム伯爵の名を伝えると緊張を解いてくれた。

ここの村にも、伯爵の援助が届いているのだろう。

狩りの獲物と伯爵から渡されている物資、主に食塩や香辛料などを渡すと村は歓迎ムードとなった。

ここの開拓村でも、食事をしながら情報を集める。

「いや、ここらでは動く死体など見ません。あの廃墟に、今は立ち寄るもんもいないので、しばらく見た奴は、ここにはいませんよ。」

札の事などは、知らないようだ。

「見慣れない奴ですか? さあ、たまに会うのは他の村の連中だけで、見知らぬ奴は見ないですね。」

変わった事と言えば、自分達が今日、村に来た事くらいだそうだ。

今日は、もう少し先に進もうという事で、他の開拓村の事も聞いてみる。

ここから更に半日程の所に、また別の村があるようだ。


再び馬に跨り進む。

途中、今度は小川を見付けたので、馬を休憩させるついでに釣りに挑戦する。

川魚が何匹か釣れたので、これも土産にしよう。

日がやや傾いて来た頃に、三番目の開拓村へ着いた。

ここでも警戒されはしたが、伯爵の土産と川魚を渡すと歓迎に変わった。

開拓村には、外部から余り人が入り込まないのもあり、話題に餓えているのもあるだろう。

焚火で川魚を焼き、話が盛り上がる。

「動く死体ですか? さあ、聞きませんね。ああ、あの大きな廃墟ですか? あそこはここからは離れた所にありますから、ここで、あそこまで行く者はいません。」

ここの開拓民らの話の中にも、怪しい人物の話題は無い。

また、別の開拓村の事を聞いてみると、今まで訪れた村以外だと2日は離れた場所にあるという。

馬でも1日は掛かかるだろうと予想されるので、今日はここの村に泊まり早朝に旅立つ事とする。


 翌日の朝早く、開拓村を後にして次の目標に向かう。

今日は、ほぼ移動のみで終るであろう。

途中、幾度かの休憩をし、午後には狩りをして先に進む。

次の村には、完全に日が沈む前には着く事ができた。

キオウ「ここの村、妖精族が多くないか?」

フォド「そうですね。ここで、こんな場所があるとは驚きです。」

小さな湖の畔に作られた開拓村、そこの住人は50人程だが、その半数以上が妖精族なのだ。

彼らは、妖精族でもフォドとは種族が違い、水辺に棲む妖精族だ。

そして、他の開拓村との違いは、女性の数も多い。

その他の住民は、獣人らであった。

水辺に棲む妖精族は、森に棲む種族よりも解放的でもある。

その為にか、村へ入る事を拒まれる事は無かった。

また、ここも回数は少ないようだが、アグラム伯爵の支援が届いているのも、良い影響となっているのかもしれない。

まずは、挨拶と土産物を渡し、今夜の宿営地としてこの村の一隅を借りる事をお願いする。

「ああ、構わないよ。ゆっくりして行ってくれ。」

自分達が持ち込んだ狩りの獲物でちょっとした御馳走となり、開拓民らといろいろと話し合った。


マレイナ「あれ? ユギ?」

ユギ「お前、無事だったのか?」

更に驚いた事に、開拓民の獣人の1人はマレイナの従兄であった。

その従兄は、マレイナの姉と共に逃亡していた人物だった。

彼の名はユギ、1年程前からここの村の一員として生活しているらしい。

マレイナの姉とは、1年半は前に別れてしまい、今の消息は解らないそうだ。

ユギと別れる前の彼女は、逃亡生活をしてはいたが元気だったそうだ。

マレイナとユギは、この約3年余りの互いの身の上話を語り合っていた。


この開拓村でも、聞き込み調査をする。

廃都市から離れている事もあり、動く死体の話はここにはほとんど伝わっていない。

実際に見た人物は皆無で、他の村との交流でそんな話を聞いた事が何回かあった程度らしい。

「動く死体は知らないが、怪しい奴なら見た事があるぞ。」

ただ、ここはどこの国家にも属さない地域の為に、素性を知られたくない人物も多々行き来しているという。

それでも、生活の為には、開拓民らと何らかの接点が普通はあるそうだ。

その人物は、開拓村や開拓民を避けるように行動しているらしい。

村に近寄る事はなく、目撃されるのも森や川の周辺でしかないようだ。

同一人物なのか解らないが、フードを目深に被り、顔や表情はよく見えない。

種族も性別も不明なようだ。

そんな人物が、何ヵ月かに一回程度、村の誰かが偶然に出会うらしい。

「不愛想な奴らだよ。声を掛けても無視をするから。そこも、他の開拓民とは違う所だな。」

ただ、大きな荷物は持っておらず徒歩なので、それ程に長い距離を移動はしていないようだ。

移動先は廃都市の方向にも思えるが、確定はできない。

その人物を追跡できれば良いのだが、都合良く現れてくれるかも解らない。

数日、この開拓村に滞在してみて、村の周囲で網を張ったが、不審な人物に出会う事は無かった。


この開拓村の滞在は、居心地が良い。

何よりも開拓民が、親しげに接してくれるのが良い。

水辺の妖精族は、人懐こい上に世話好きだ。

村の前にある湖で、魚を獲って来ては、自分達に振舞う。

また、魚の獲り方や泳ぎも習った。

子供の頃から川で泳ぐ機会は多かったが、彼らの教えで上達した。

ナルルガは、ほぼ泳げなかったのが普通に泳げるまでにはなった。

こちらも空いている時間で、畑仕事などを手伝う。

冒険者を引退したら、こんな村での生活も良いのかもしれない。


キオウ「そろそろ、他へ行くか?」

「そうだな。何か居心地が良くて、長居してしまったし。」

再び、開拓民から見送られて旅立った。

周囲の開拓村の事を聞いてみたが、歩いて約2日の所に、また別の村があるようだ。

ユギとも別れの挨拶をした。

彼は、この村にまだしばらくは滞在するようだ。

いつか、マレイナの姉を探す旅に出よう。そう自分は心の中で誓った。

名残惜しいが、次の開拓村を目指す。

この地域では、魔獣に出会わないのは良い。

出くわすのは、野生の生き物にたまに会う程度だ。

彼らの方が、こちらを避けている事の方が多い。

故に、狩る時には馬を降り、痕跡を探し慎重に追い詰める。

今日も時に休み、狩りをして次の目的地を目指す。

日が傾き始める頃に、次の開拓村が見えて来た。


 この開拓村では、随分と警戒しているようだ。

いつものように挨拶をしに行ったが、村人は腰に吊るした剣に手を掛けて応対した。

余り余所者は、歓迎していないようだ。

マレイナ「あの、私達は、アグラム伯爵の依頼で来た者なんですが。」

「アグラム伯爵? ああ、知っているよ。君ら、怪しい者ではなさそうだな。」

馬車を呼び寄せ、他の村よりも多めに土産物を渡すと、村への滞在を許可してくれた。

話を聞いてみると、彼らの警戒の理由も解った。

「不審な奴だろ? ああ、よく見るよ。たまに、奴らと揉める事もあるからな。」

その不審人物とは、例のフードを被った者らしい。

「ここから数時間の所に、廃屋があるんだよ。もう何十年も使っていないはずだが、その割りにしっかりした建物で、そこに出入りしてるみたいなんだ。」

「連中がそこを使っているみたいだよ。それを知られたくないから、俺達を追い払うような事をするみたいだな。」

武器こそ抜きはしないが、殴られて負傷した者もいる。

開拓民も素人ではないが、彼らの腕はそれよりも立つようだ。

連中は少なくとも3,4人はいると言う。

「ただ、揉めてからは、そこには余り来ていないようだな。その辺りでは、すっかり会わなくなったよ。」

その一件以来、開拓民が廃屋を避けているのも、目撃回数が減っている理由でもあるが。

「そいつらが、どこから来ているかだって? そうだな、どっかの開拓村と関係があるのかもしらんが、どうも俺らの仲間とは毛色が違うみたいだね。」

揉めたのは、10日程前の事のようで、開拓民が警戒しているのも解かる。


翌日、問題の廃屋を調査しに出掛けた。

馬で行く方が早いが、連中に見付かっても面倒なので、徒歩で向かう事にする。

馬や馬車は村に残すので、ロウンとガウニには村に残って貰う事になった。

森と空き地が交互に続く地域を進む。

これだけ歩くのは久し振りで、この数日間で馬の便利さに慣れてしまった感がある。

村を出て2時間程で、廃屋が見えて来る。

キオウ「誰もいないみたいだな。マレイナ、何か解るか?」

マレイナ「ううん、あの家にも、周りにもいないみたい。」

更に近付き、内部の様子を伺う。

建物は、それ程に大きくはなく、1階建てのようだ。

ただ、石造りの頑丈な建物で、多少の傷みはあるようだが雨風は充分に防げそうである。

窓は鎧戸でしっかりと閉じられていて内部は見えないが、中から物音などは聞こえて来ない。

マレイナが気配を探るが、中には誰もいないようだ。

入口も施錠はされていないようなので、そっと中に入る。

全員が屋内に入るのではなく、キオウとフォドは警戒の為に表で待機させた。


意外と部屋の中は、奇麗にされていた。

つい最近まで、誰かが使っていたのは間違いない。

少しばかりの食器や毛布などが残されていたが、どれも比較的新しい。

部屋を隅々まで探ってみると、戸棚の後ろに隠された小物入れがある。

その中から出て来たのは、例の札である。

「これは?」

ナルルガ「こんな所にあるとはね。でも、何かおかしくない?」

マレイナ「何か、見付けてくださいって、置いてあるような。」

数は1枚だけであったが、間違いなくあの札だ。

この廃屋を出入りしている一味と、動く死体は関係があると見ても良いだろう。

ただ、この札が意図的に残されたのか、それとも忘れられただけなのかは判断は付かない。

ここを探った痕跡をできるだけ残さないように、札は元の場所に戻して外に出た。

連中は、多分、ここには戻って来ないだろう。

だが、この地域のどこかに、別の拠点があるのかもしれない。


開拓村に戻り、他に怪しい場所は無いのか聞く事にする。

「そうだね、似たような廃墟は、森やら、あちこちに幾つかあるよ。」

隠れ家になりそうな所は、他にもあるらしい。

「ただ、状態のいい所は、数がそんなに多くもないよ。」

大半は朽ち果てており、建物としての利用は難しいようだ。

だが、幾つかは、比較的状態が良い場所もあるようだ。

次の日から、それらを見て回る事にする。


 建物として、機能しそうな廃墟を見て回った。

馬を使うと形跡を残してしまうので、徒歩で痕跡を消しながら近付く。

形がそれなりに残った物は幾つかあるが、隠れ家にできそな物は2つしか無かった。

中を探ると、2ヶ所共最近に使った形跡がある。

流石に例の札は無いが、寝泊まりしている形跡がある。

1ヶ所につき2,3人は利用しているようだ。

最大で相手は10人程いる可能性がある。

隠れ家と思しき3ヶ所を、今後は重点的に見張る事にする。

ただ、3ヶ所を同時に見張るには人手が足りない上に、こちらの適度な隠れ場所も無い。

遠巻きに見張るのが限界だろう。

中でも本命は、開拓村から一番離れた廃屋であろうと予想した。

朝と夕方の2回、それぞれを回る事にする。

この日は、夕方にそれぞれの場所を見て回ったが、特に変化は無かった。

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