表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/232

第35話「廃墟の支配者」

 廃都市の探索も、ここが最後の場所であろう。

街中の最も大きな建物の前に、自分と伯爵に派遣された兵士らが全員揃っていた。

ここを調べれば、死者が動き出した理由が解かるかもしれない。

いや、ここ以外にもう探る場所が無いのだ。

ガラワン「ここが最後だな。多分、この中はやベえぞ。」

「そんな事、解るんですか?」

ガラワン「当たり前よ。今回の仕事、大事のはずが、今までが楽に運び過ぎた。って事はだ、この最後の場所に、とんでもねぇ奴がいるに決まってる。」

キオウ「そんな物ですかね~。」

ガラワン「おうよ、世の中、そういう事さ。お前らも、迷宮とかで、そんな経験が幾らでもあるだろう?」

「言われてみれば、そんな気も。」

ガラワン「おう、これもその道の勘って奴よ。」

ナルルガ「ガラワンって、うちの男連中と同じタイプだわ。」


建物が広いのもあるが、万が一に備えて、捜索隊の全員で調べる事にしたのだ。

建物の中に入る。

ここは、地上3階建てで、地下室もあるようだ。

3班に別れ、1階から3階までを手分けして探る。

自分達は、3階を調べる事になった。

3階のどこの部屋も、似たような状態だ。

家具などの残骸が残っており、その破片が床に転がっている。

所々から入り込んだ雨水で床や壁、天井には染みが付いておりかび臭い。

ナルルガ「立派な建物だけど、中の傷みは酷いわね。何か臭うし。」

キオウ「何も、目ぼしい物も無いな。」

金目の物などは、持ち去られたのか盗まれたのかは解らないが、残ってはいない。

運び出せない家具などは、そのままで、朽ち果てている。

かつての住人の寝室や書斎らしき所を隅々まで調べたが、何も死者に関わる物は見付からなかった。

この階を調べ終ったので1階へと戻る。


1階に戻ると、他の班も探索が終わったようで次々と集まって来た。

「何もありません。」

「2階では、遺体と遭遇しました。数は、2つです。」

ガラワン「て事は、地下か。気合い入れて行くぞ!」

だが、全員で地下に降りる訳にもいかず、自分達のパーティーとガラワンが選んだ従騎士1名と兵士4人で地下階へと降りる事にする。

地下へと降りると、左右に廊下が伸び、正面と左右に1つづつ扉がある。

まずは、正面の扉を開ける。


中は闇だ。

ランタンで中を照らすと、1体の死体が部屋の中で歩き回っている。

ガラワン「何だ、こいつだけか?」

そして、こちらに反応してか、ゆっくり歩み寄って来る。

その死体を片付ける。

部屋の中を調べたが、何も無い。

続いて右側の部屋を覗いてみたが、ここにも何も無かった。

最後に、左側の部屋を覗く。

ここも何も無いと思ったが、何と床に扉がある。

そこを開けてみると、更に下へと続く階段になっていた。

ガラワン「さてと、面白くなって来たな。」

「何がです?」

ガラワン「そりゃあ、この下に行けば解かるさ。」


地下室の更に下へと降りる。

地下室と違い、岩を削ったような場所になっている。

降りてみると、上の地下室よりも幾らか広い空間になっている。

地下なのに、何か奥に仄かな光を発する物が2つある。

ガラワン「ん? 何だ、あれは?」

正体を探ろうとすると、その光が近付いて来る。

やや赤みの掛った弱々しい光だ。

いや、それはそいつの目だった。

「もう1体、いたのか?」

これも、死体には変わらないだろう。

だが、こいつは、魔術師の羽織るフード付きの長衣のような物を身に付けていた。

赤い光はその空洞になった目の部分から見えていた。

その開いたままの口からは、呻き声なのか、言葉にならない何かが発せられている。

「うぁあ゛あ゛あ゛~~ぁ」

しゃがれた呻き声のような物が発せられる。

それが両腕を目の前に着き出すようにして、近付いて来る。

その速度は今までの死体とは違い、普通の人間と変わらない。

キオウ「おい、何か他のと違わないか?」

「服もそうだけど、妙だな。」

何か、今までとは違う様子に戸惑う。

こいつも他の動く死体と、同じなのか?

フォド「こいつは屍霊人しりょうびとだ。触られないように注意して!」

屍霊人? 聞いた事はないがヤバイ奴には違いない。

フォド「そいつに触れられると、気を奪われます。」

武器を構え、魔法の力を付与する。


長剣で切り付けるが、手応えが無い。

並の攻撃では、ダメージを与えられないのだろうか?

他の死体ならば、切り付けるだけで体の一部を破壊できたが、こいつには効き目は今一のようだ。

近付くと、その両手を突き出してこちらに触れようとして来るが、それがこいつの攻撃方法らしい。

(これで、気を奪って来るのか?)

手に触れないように、距離を取る。

ガラワンや兵士達と取り囲むが、死体故なのか一向に怯む様子もない。

キオウ「流石は、遺体だぜ。これだけの相手に囲まれても、動きが変わらない。」

ただ、近付く者に反応し、手を向けて来る。

その容姿と、空洞となっている口からの呻き声が、何故か戦意を失わせる。

(こいつ、何度も切っても手応えが無い。倒せるのか、こんな奴を?)

既に死体となっている物を、再び死に至らせる方法はあるのか?

思い付いた事があり、胸の辺りに一撃を加えてみる。

札に当たればと思ったが、長衣に隠されてよく見えない。

ならばと思い、長衣の方を切り付ける。

徐々に長衣を切り刻み、その姿が露になる。


確かに、札は胸に張り付いていた。

キオウ「何だ、3つも付いてやがる。」

ガラワン「欲張りな奴だぜ。」

まるで三角形を形作るように、胸に3つの札が張り付いていたのだ。

そこに剣を叩き付けるが、外れない。

ならば、剣先で削ぎ落そうと狙うが、あの手が伸びて来る。

逃げ遅れた兵士が1人、その手に捕まれる。

片手に触れられただけかと思ったが、その兵士が、ばたりと倒れる。

一瞬で命を奪われたと思ったが、兵士の息はあるようだ。

ただ、立ち上がる体力も無い様子だ。

迷宮で出会った、動く石像の攻撃と似たような物か?

倒れた兵士を、他の兵士が引き摺って下げる。

フォドが彼に回復の魔法を掛けるが、なかなかに回復しないようだ。


戦い始めてから、すでに15分は経過しているであろうか?

何度も切り付け、死体の表面にもその跡が残るが、まだこいつの動きは止まりそうにもない。

腕を何度も切り落とそうとはしたが、切断はできない。

何とか動きを封じて、札を剥がせないものか?

ガラワン「こいつをぶっ倒す。そこを抑え込め!」

ガラワンが屍霊人の足を引っ掛け、強引に転倒させる。

倒れた所を数人の盾を持った兵士が、その盾で無理矢理に奴の両腕や体を抑え付ける。

ガラワン「よし、いいぜ。今のうちに札を引っぺがせ!」

すかさず、兵士が奴の上に跨り、ナイフで札を剥がしに掛かる。

ばたばたともがく屍霊人だが、1枚、また1枚と札が剥がされて行く。

ガラワン「あと、1枚だ。」

残り1枚となったが、屍霊人が口から煙を吐き出す。

「何だ?」(げほげほ)

ただ煙と思ったが、少し吸い込んでしまい咳き込む。

抑え付けている兵士らも、咳をしているところを振り払われ、屍霊人がむくりと起き上がる。

だが、その動きは、先程に比べて緩慢になっている。

息苦しさに耐え、屍霊人の首を長剣で一閃する。

「よし、今なら切れるぞ!」

そして、その両腕も叩き切った。

札が減って防御力も落ちていたようだ。

更に、長剣の切っ先で残った札を取り除く。

屍霊人が痙攣を起こしたように動いたが、ばたりと床に倒れた。

(終ったのか?)

呼吸ができるようになり、息苦しさから解放された。


地下室を調べてみる。

すると、大量の例の札が見付かるが、それ以外には何もない。

死体の手掛かりも、屍霊人が何でここにいたのか、手掛かりらしき物は見付からなかった。

仕方なく、全ての札を回収しただけで、地上へと戻る。

表に出ると、街の至る所で死体が崩れ落ちていた。

その胸の辺りには、札が落ちていた。

キオウ「もしかして、地下の奴を倒したからか?」

「ああ、みんな元の死体に戻ったみたいだ。」

ガラワン「札だけは、拾い集めておこう。」


 翌日から2日程、確認の為に、廃都市の中を歩き回った。

もう、動く死体とは遭遇しない。

取り残した札が無いか、念入りに調べる。

異常は無いようだ。

どうやら、これで今回の依頼は終ったようだ。

もしも、廃都市に異変があれば、アグラム伯爵に報告するように開拓民らに伝え、ハノガナの街に戻る事になった。


伯爵の執務室で、今回の依頼の報告をした。

アグラム「そうか、皆のもの、ご苦労であった。諸君らが集めてくれた札は、然るべき場所で調査を依頼している。結果が解るのは先になるだろうが、何かあれば通達する。」

伯爵の表情は、まだ難しそうなままだ。

アグラム「おそらくは、何者かが死者を蘇らせたのであろう。だが、それは何の為なのだ? ここまで大掛かりな事をしたからには、相手はまたやるだろうな。」

動く死体は差ほどの脅威は無いが、屍霊人が大量に出て来るような事があれば、厄介な事になるだろう。

領内及び周辺地方に、動く死体への警戒を呼び掛ける事になった。


約2週間振りの我が家である。

各自25ゴールドづつ報酬を受けて、懐も暖かい。

キオウ「さて、少し休むか?」

「ああ、今回も、少し疲れたよ。」

翌日から数日は、休養を取る事にする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ