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第33話「これも日常」

 ハノガナの街へ戻ると、何時もの迷宮通いが再開される。

目指すは、牛頭巨人(ぎゅうとうきょじんに遭遇した地域だ。

その辺りでも遭遇するのは、大角鬼か灰白巨人程度であった。

やはり牛頭巨人は、かなり珍しい魔獣だったのだ。

しばらく、迷宮での探索の日々が続いたが、そろそろ到達できる場所に限界が見えて来た。

迷宮は、更に奥まで広がっているのは、間違いない。

だが、今の状況では、その先に進むには体力が足りない。

以前のように、迷宮内で休息して更に奥に進むのが良いのだが、休憩できる場所が見付からない。

キオウ「ちょっと迷宮で行ける場所が、限界になって来たな。」

「どこか、休憩できる場所が見付かればいいけど。」

ナルルガ「そういう所、深い場所には無さそうね。」

マレイナ「探せば、あるかもよ。」

とりあえず、拠点となりそうな場所を探す事にする。

どこか狭まった、魔獣らの目に付かない場所があれば良いのだが。

だが、都合よくそんな場所は見付からなかった。

数週間は探ってみたが、成果は無い。

今、探っている地域は、洞窟の中で行き止まりが無い。

どこか、袋小路になったような場所でも、見付かれば良いのだが。

結局、良い場所が見付からず、他のルートから迷宮に挑む事にする。

彷徨った日々も、魔獣らとの遭遇で経験と資金稼ぎにはなったので、無駄な時間では無い


新たなルート探しが始まった。

白狗毛鬼を追うという選択もあるが、単独のパーティーで行うには、まだ自分達の実力は足りない。

そこで、まだ潜った事の無い迷宮の入口を探す。

幸いな事に、そんな入口は沢山ある。

中には、今までに入った地域と同じ所につながる場所もあるだろうが、それはその時の話だ。

その入口は階段状になっており、そのまま下りの道となっていた。

キオウ「随分と、下に続いているな。」

「ああ、思ったよりも早く、奥へ行けるかもな。」

マレイナ「やっと平らになったね。もう、中層くらいには来たんじゃないのかな?」

どうやら、いきなり中層に達するような、中級冒険者以上の者達が来るような場所のようだ。

ただ、大勢の冒険者らが出入りしているであろう痕跡があり、珍しい場所ではないようだ。

水平に伸びる回廊を奥に進む。


所々枝分かれしているので、目印を付けて進むのは毎度の事だ。

そして、また下へと続く階段を見付けたので下る事にする。

既に、中層に完全に入った深さには達しているだろう。

ここまでは、何にも遭遇する事なく進んで来た。

魔獣とも出くわさないとは、ハズレな場所なのだろうか?

階段の先は、水平になる。


 その先で、遭遇したのは、家守人やもりびとだった。

身長150cm程の人間より少し小さい位の連中だ。

鰐人わにびとの親戚と言っても良いかもしれない。

家守人は、手足の吸盤で天井や壁にくっ付いての移動も出来る。

その口には短刀が咥えられており、それで切り掛かっても来る。

余り人間らには友好的ではない連中で、「迷宮の追い剝ぎ」の別名がある。

冒険者らを襲って、その装備や道具を狙って来る。

立体的な素早い動きに翻弄される。

キオウ「こいつら、素早いな。」

マレイナ「壁も自由に動けるなんて。」

だが、数は3匹と、そうは多くはない。

正体さえ解かれば、対処は可能だ。

ただ、体色を変える事ができるので、待ち伏せを喰らった。

マレイナが探知しなければ、致命的な攻撃を受けたかもしれない。

呆気なく勝負はついた。

さほどに強力な相手ではないだろう。

先を進む。


その後も、家守人の待ち伏せに幾度か遭ったが、何とか切り抜けた。

通路の左右には、小部屋が並んでいたが、どこも空振りだ。

マレイナ「何も無いね。」

キオウ「ああ、多分、他の冒険者が持って行ったんだろ。」

「既に、開拓済みって訳か。」

やがて、通路の行き止まりに出た。

単なる行き止まりではなく、床に穴が開いている。

キオウ「穴、だな。」

ナルルガ「下の階層に、行けそうね。」

フォド「降りてみましょう。」

縄梯子を使い、下に降りる事にする。

穴の大きさは、人が楽に入れるくらいにお大きい。

縄梯子を残したままにするが、家守人に盗まれないか心配がある。

まあ、盗まれた時には、魔法で岩の足場でも作って登れば良い。


下に降りても、上と似たような通路が続いていた。

この深さは、中層でも深い所か、深層の入口位の場所に達しているか?

通路の床には、砂埃が溜まっている。

足跡があるが、人間に近い物の痕跡ではなさそうだ。

何かしらの魔獣が、徘徊しているのだろう。

用心して先を進む。

すると、前方から這うようにして近付いて来る物がいる。

歩みを止め、武器を構える。

長さ1mを越えた大型のトカゲと遭遇した。

頭や背中には、何本もの細かい棘が見える。

フォド「砂棘すなとげトカゲみたいですね。」

本来は、砂地に棲むトカゲ型の魔獣だが、こんな迷宮の中にも出没するのか?

砂棘トカゲ3匹が、速度を上げて近付いて来る。

頭や背は棘に守られているので、その横腹を狙う。

長剣の剣先で腹を切り裂く。

「一撃では倒せないか。」

キオウ「また来るぜ。」

その口が大きく開けられた。

(あれは?)

何かを吐き出すのであろうと、予想して避ける。

口から砂が吐き出される。

あの砂に何の効果があるのか解らないが、避けた方が無難だろう。

吐き出された砂が、石のように固まる。

キオウ「固まった。」

「ああ、あれに当たると、身動きできなくなりそうだ。」

地味な攻撃だが、避けるにこした事はない。

また、砂棘トカゲが、大口を開ける。

その口目掛けて、魔法で水塊を叩き込んでやった。

「よし、やったぞ。」

苦しみもがくトカゲ。

そこを長剣で切り裂く。

戦闘は終った。

数も少なく、さほどの苦戦もしない。

また、先を急ごう。


 しばらく通路を進んでいると、その天井だけ高くなる。

何か先にあるのだろうか?

やがて、広がった場所に出る。

何やら人の手の入った空間だ。

空間の奥に、一段高くなっている場所がある。

その上には、箱状の物が置いてある。

マレイナ「罠とかは、仕掛けてないみたい。」

箱に近付くと、人の背丈よりも長い長方形の箱である事が解かる。

キオウ「何か、棺みたいな大きさだな。」

(棺? 石棺か、これは?)

その石で出来た蓋を横にずらして中を見てみる。

すると、予想通りというか、幅広の包帯のような物に巻かれた遺体のような物がある。

その遺体は、胸の前で手を組むよう安置されており、その腹には1本の剣が置かれていた。

遺体を見ていると、僅かに動きがある。

キオウ「うおっ、動き出したぞ。」

マレイナ「何、これ?」

後退ると、その遺体の上半身がゆっくりと起き上がる。

遺体の胸の前には、剣が握られている。

遺体の動きは止まらず、やがて起き上がった。

そして、そいつは剣を構えた。


遺体が動き始めた。

初めての経験に、背筋が凍る思いをする。

死者が蘇るなど、子供の頃に聞かされた、おとぎ話や何かの与太話くらいしかない。

こちらも、武器を構えて戦闘態勢を取る。

石棺から降りてゆっくりと、その「動く遺体」が近付いて来る。

長剣で切り付けると、思いの外早い動きでその剣に受け止められる。

キオウ「おいおい、こいつは死体じゃないのかよ。」

フォド「なかなかの反応速度ですね。もしかして、生きているのでは?」

「ああ、そう考えて戦うのがいいかもしれないな。」

キオウと2人左右から切り付ける。

流石に2人には反応できずに。その体を切り刻まれる。

だが、その動きは止まらない。

腕を1本切断してみる。

キオウ「こいつ、痛みとか感じないのか?」

「やっぱり、死んでいるのか?」

ここまで来ると恐怖しかない。

こんな剣の攻撃の利かない相手は、初めてだ。

ナルルガの火炎矢が放たれる。

燃え上がる遺体。

やがて、その動きが止まり、崩れ落ちるようにして床に倒れた。


燃えた遺体を調べてみた。

胸の辺りに金属のふだなのか何か装飾品のような物がある。

マレイナ「何だろう? これ?」

フォド「あの動く石像の物に似てもいますが、こちらの方が小さいですね。魔力も感じます。」

ナルルガ「そうね。どんな魔法かはまでは解らないけど、確かに感じるわ。」

遺体が動いたのも、その札の影響だろうか?

そう考えないと、遺体が動くなど考えられない。

それと遺体が使っていた剣を調べてみたが、これは装飾などはしてあるが普通の剣であった。

札も剣も一応は持ち帰る事とする。

石棺には、何も他には残されてはいなかった。

今回の探索はここまでにして街へ戻る。


 ギルドに札と剣を提出したが、札は正体不明との事で後日清算となり、剣は30ゴールドで買い取って貰った。

以前の石像の金属片の事も思い出し聞いてみたが、今も正体不明らしい。

今は、剣になかなかの価格が着いた事に満足しよう。

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