第32話「領主の依頼」
牛頭巨人を討伐した事が、領主のアグラム伯爵にも伝わったらしい。
この魔獣が出現するのは珍しいので、話が行ったのだろう。
再び、城館に呼び出された自分達は、領主から直接に仕事の依頼を受けた。
いや、自分達は騎士の称号を彼から受けているから、これは命令なのかもしれない。
アグラム「無理にとは言わないので、勿論、君達が断る事はできる。だが、私としては、君達が適任と考えた上の依頼なのだ。」
伯爵は語る、何でも領内にある、オンガラの村で問題が起きたらしい。
アグラム「牛頭巨人のような強力な魔獣を倒せた君達だからこそ、この件の解決に協力して欲しいのだ。」
今回の問題は、村の住人が付近に出没する魔獣に襲われているので、退治して欲しいという、どこかで聞いたような依頼内容だった。
「どうしよう?」
キオウ「これは、領主様からの直接の依頼だからな。」
フォド「ここは、受けるべきでしょう。」
ナルルガ「そうね、困った人がいるなら、行くべきかもね。」
マレイナ「・・・・・・。」
全員で相談し、領主の依頼を受ける事になった。
伯爵家の馬車に揺られる事1日半、自分達はオンガラの村へ到着した。
村へ着くと、村長自ら迎い出てくれた。
村長「これはこれは、騎士殿、態々のお出向き、村の者一同、感謝しております。」
「いえいえ、そんな大袈裟な事は止めてください。」
キオウ「俺達、騎士にはなりましたが、ただの冒険者ですから。」
村長「いえいえ、そんな御謙遜を。」
今回は領主が騎士を派遣してくれたという形になっているので、その扱いも丁寧でどこかむず痒い。
「少なくとも、騎士殿は止めてください。そう呼ばれるのに、慣れていませんから。」
まずは情報集めだ。
村長に話を聞き、更に村の様々な人にも聞く。
村では、どこか人々の落ち着きがない。
それだけ魔獣が脅威だと言う事か?
既に、8人の村人が犠牲になっており、他にも幾人かの行方不明者がいるらしい。
村には冒険者ギルドが無く、当然、拠点としている冒険者もいない。
村人の目撃情報も不確かで、黒い影を見たとか空から突然に降りて来たや、暗闇からいきなり現れたと、核心に近付けるようなものが無い。
ただ、人々は、郊外にある一軒の建物が怪しいと口々に言う。
今日は遅いので、村長の家に泊めて貰い、翌日にその建物に向かう事にする。
皆が寝静まった頃、外で人が騒いでいるので目が覚める。
キオウ「何の騒ぎだ?」
「これは、ただ事じゃなさそうだぞ。」
フォド「行ってみましょう。」
寝ていた部屋を出ると、慌てた様子の村長に出会う。
「村長、何が起きたのです?」
村長「そっ、それが、例の魔獣が村に出たみたいなのです。」
全員で、その現場に急行する。
村はずれの一軒家を周囲の人達が、遠巻きに見守っていた。
その家の入口の扉は、大きく開けられていた。
自分とキオウが、家の中を覗く。
居間だろうか? 中は荒らされており、机などが倒されている。
そして、部屋の隅にそれはいた。
黒い小柄の人のようだった。
「大丈夫か?」村人かと思い、声を掛けてみたが違う。
黒いそいつが、こちらを向く。
鳥かトカゲを思わせるような尖った顔をしている。
その目が、異常に赤く光っている。
キオウ「こいつ!」
すかさず、キオウが戦槍を一突き喰らわせる。
槍を避けたそいつが、こちらに向かって来るので、家の外へと逃れる。
そいつも外に出て来た。
身長は150cmとやや小柄だが、背中にコウモリのような翼が付いている。
その開けた牙の生えた口には、血液らしき物がこびり付いている。
何だ、見た事の無い魔獣だ。
フォド「それは、魔族の小魔人です。」
(魔族? 魔界の住人というあれか?)
魔獣よりも知能が高く、危険な相手だというが。
この小魔人からは、知能の高さは感じず、何か邪悪で凶暴な生き物という感じだけがする。
魔族に攻撃が通じるのか解らないが、魔法の加護と武器にも魔法を掛ける。
ゆっくりと歩み寄って来る魔人に、魔法の呪文を放つ。
「魔法が効かないのか?」
呪文が当たるが、効いているようには思えない。
続けて武器で切り付ける。
痛みを感じたのか叫ぶ魔人。
「よし、武器なら効果がありそうだ。」
横薙ぎに長剣を振るうが、魔人が空に舞い上がる。
空を自由に飛ぶ相手は初めてだ。
すかさず岩塊を叩き込む。
ナルルガらも呪文を放つ。
魔法への耐性はあるようだが、畳み掛けると流石に利いたようだ。
再び地表に降りて来る。
着地を狙い再び切る。
だが、その爪に弾かれた。
爪が武器にも防具にもなるのだ。
だが、武器らしい物は他には無いようだ。
前衛の3人で囲み、切り付ける。
また空に飛ばれるのも面倒なので、その翼を狙う。
何度か切り付けて、片方の翼を半分ほど切り裂いた。
キオウ「やったぜ、これでもう飛べないだろ。」
空を飛べなくなれば、さほどに手強い相手ではない。
しかも、相手は1匹のみだ。
3人で、魔族を追い詰める。
そして、キオウの槍が奴の喉を貫き、マレイナの一撃が背中を切る。
断末魔の声を上げ倒れる魔人。
村人らの歓声が上がる。
だが、近くの家の屋根から、何かが飛び去って行った。
キオウ「おい、あれは?」
「まだ、いるみたいだな。」
小魔人が侵入していた家の住人は、既にこと切れていた。
どうやら、奴らは人を喰うらしい。
体の一部が噛み千切られていた。
休息を摂り翌日に備える。
夜が明けた。
目指すは、村の郊外の建物だ。
そこは池の畔にある一軒家で、かつては金持ちの別宅だったようだ。
今は空き家になり、数年は放置されているそうだ。
キオウ「結構、デカイ家だな。」
「ああ、部屋数が多くて、探すのが大変そうだ。」
フォド「二階のあそこを見てください。」
二階の窓が壊れているのが見えた。
あそこから、魔族らは出入りしているのだろうか?
1階の正面玄関から中に入り込む。
入った所は、広いエントランスのようになっており、奥に階段、左右に部屋への扉が見える。
中は、窓から入る光で問題無く見える。
「まずは、1階から調べるか。」
キオウ「ああ、2階は後回しだな。」
中は思ったよりは奇麗だが、床には何かが歩き回ったり引きずったような跡が、何カ所も残っている。
左右の扉を開けてみたが、居間や客間、厨房に浴室、使用人の部屋など、沢山の部屋につながっていた。
1階のどこにも、小魔人のいる形跡は無い。
階段を調べてみる。
2階に上がる階段と、下へと降りる階段がある。
マレイナ「地下もあるね。」
その前に、2階の窓の割れた部屋を目指す。
家主の寝室だったのか、寝台などが残っていたが、中は散らかっている。
ナルルガ「この黒いの血の跡かしら?」
キオウ「うわっ、これは服を切り裂いた物か?」
だが、2階にも小魔人の姿は無い。
フォド「残りは、地下室だけのようですね。」
「そこに奴はいるな。」
地下への階段を下る。
地下へ降りると、廊下になっており、扉が幾つか並んでいる。
多分、物置か何かに使っていた場所だろう。
扉の外側から中の気配を探るが、何も反応が無い。
どの部屋も物音1つ聞こえずに静まり返っている。
マレイナ「気配は、しないね。」
とりあえず、手前の部屋から1つづつ中を確かめる事にする。
扉を開け放つと、フォドに中へ光魔法の閃光を放って貰う。
迷宮などで照明代わりに使う光の玉よりも、光量がある魔法だ。
魔族ならば、光属性の魔法には弱いはずだ。
狙いは当たったようだ。
中で叫び声が上がる。
閃光が弱まって来ると、部屋の中に黒い物が蠢いているのが見える。
「いた、奴だ!」
小魔人が光を喰らって苦しんでいるようだ。
武器に魔法を掛けて、切り込む。
閃光に目の眩んだ小魔人は抵抗も弱く、滅多切りにしてやった。
マレイナ「廊下で音がしたよ。」
キオウ「まだ、いたか?」
他の部屋にいたのか、2匹の小魔人が廊下に出て来ていた。
1匹にキオウとフォド、もう1匹に自分とマレイナで切り掛かる。
地下室では、小魔人も飛んで逃げる事ができない。
数で押して、切り付ける。
小魔人が爪で受け、攻撃して来る。
飛ぶ事を防がれてはいるが、なかなかに動きが早い。
だが、確実に追い詰めて行く。
向こうも必死だが、こちらも本気だ。
討伐は終った。
地下室を見て回ったが、他には小魔人はいない。
マレイナ「これは?」
地下室には攫われた村人の痕跡が残されていた。
ナルルガ「生存者は、いないようね。」
村人らの遺品を探して、一先ず村へ戻る事にする。
村に戻って、再び村長の家に泊まる。
翌日、伯爵の派遣して来た兵士の一団が村に来た。
魔獣の正体が小魔人である事が解かったので、伯爵に連絡を入れておいたのだ。
1人の騎士に率いられた10人の兵士が派遣されて来た。
騎士の名はガラワン、伯爵に仕える騎士の1人である。
その日から数日、彼らと共に小魔人のいた邸宅と村の周囲の探索を行った。
その他にも、被害者の亡骸の回収なども行われた。
数日の探索の結果、他に小魔人の痕跡は見付からなかったので、今回の捜索は打ち切られる事になった。
村長ら村人に見送られ、兵士の一団と共にハノガナの街に戻った。
アグラム伯爵の城館で、騎士ガラワンと共に報告をした。
アグラム「そうか、相手は魔族だったか。だが、小魔人のような小物でも、この十年は見掛けぬ奴だな。」
ガラワン「はい、今回の出現は、たまたまなのでしょうか?」
アグラム「それは、まだ何とも言えぬな。何かの前兆で無ければ良いのだがな。」
取り合えず領内に警報を出し、王都にも報告する事になった。
今回の小魔人退治も、伯爵に褒められた。
迅速な対処は見事だと、大袈裟なくらいに言われた。
報酬として、各自20ゴールドを渡されて帰宅した。
ギルドに顔を出した日、ギルマスのナガムノに彼の部屋に呼ばれた。
ナガムノも、小魔人の事を直接に聞いておきたかったようだ。
ナガムノ「そうだったのか。魔族がこのアデレード地方に。私がギルマスになってからも、初めての事だよ。」
「そうでしたか。奴ら、なかなかに手強かったですよ。」
今後はギルドにも、魔族に絡んだ依頼が増えるのかもしれないなどと話し合った。
不吉な予感はする。