第31話「巨人の巣窟」
武器も防具も強化できたので、勇んで迷宮深層を目指す。
進む毎に、魔獣が強くなって行くが、装備を強化した事により楽に切り抜ける。
大角鬼とも、互角に立ち向かえる。
キオウ「武器と防具、強化して正解だったな。」
「ああ、思った以上に調子がいい。」
ナルルガ「2人共、調子に乗り過ぎないでね。」
それでも、面倒くさい相手もいる。
迷宮内で、また大空洞に出た時に、不意に襲い掛かって来た奴らがいる。
集団で呪文を投げ掛け、更には、投石具で石礫を飛ばして来る。
灰小鬼の仕業だ。
こいつらは、一角鬼の一種と言われているが、角状の突起が無い。
灰色の体色をしていて、接近戦よりも魔法や飛び道具を使う。
そいつらが、集団で待ち伏せしていて、一斉に襲い掛かって来るのだ。
キオウ「くそっ、こいつら、厭らしい攻撃をして来るな。」
マレイナ「数も多いいよ。」
フォド「本当に面倒です。」
魔法の障壁を展開しつつ、こちらも魔法と弓で応戦する。
20匹はいるだろう集団に、半ば包囲されつつ戦っている。
だが、こちらの魔法と矢が確実に1匹づつ片付けて行く。
半数以上も倒すと、蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
キオウ「たっく、逃げ出すくらいなら、最初から仕掛けて来るなよ。」
ナルルガ「逃げ足だけは、速いわね。もう、いないわ。」
更に、大空洞を進む。
すると、何か硬い物を引きずるような物音が響いて来る。
フォド「何でしょう? あの音?」
ナルルガ「重そうな物を引き摺っているみたいね。あれも魔獣なのかしら?」
前方に、大きな影が2つ浮かんだ。
人型の影が、ゆっくりとこちらに近付いて来る。
マレイナ「何だか、大きくない?」
「ああ、大角鬼よりも、あいつらデカいぞ。」
半裸で、腰に何かの獣の毛皮を巻き付けただけで、手には巨大な木の棍棒を持っている。
その巨大棍棒を、地面に引きずるようにして持っていた。
棍棒を引きずる音が、先程から聞こえていた物音の正体だ。
キオウ「まるで、丸太だな、あの棍棒は?」
「あんな奴を持つような奴は、ヤバイぞ。」
半裸の皮膚は白く見え、頭髪は無い。
これは、灰白巨人と呼ばれる大型の魔獣だ。
その身長は、230cm位はあるだろうか?
巨人と呼ばれるが、これも鬼の一種である。
腕力と体力に優れた魔獣で、厄介な事に、武器でのダメ―ジは回復する性質がある。
魔法か魔法の加護を加えた武器でしか、ダメージを与えられないのだ。
幸いな事に、こちらは魔法の加護の付与された武器を持っている。
更には、魔法の力も加える事もできる。
自分は、長剣に地属性の魔法を掛ける。
名付けて大地剣、地属性のダメージを加える事ができる上に打撃力を強化できる。
ナルルガは、キオウの戦槍とマレイナの片手剣に火属性の魔法の火炎剣を掛ける。
フォドは、全員に魔法の加護を付与した。
接近戦の前に魔法で攻撃し、続いて切り掛かる。
キオウが1匹の灰白巨人に突き掛かり、自分とマレイナが2人でもう1匹に切り掛かる。
灰白巨人が、巨大棍棒を振り回す。
キオウ「うおっ、あの丸太を軽々扱ってやがる。」
マレイナ「あんなの当たったら、大怪我しちゃうよ。」
ナルルガ「キオウ、気を付けなさいね。」
キオウ「何で、俺だけ。」
棍棒を大きく振り抜いた所を狙い、切り付ける。
手応えはあったが、体力が多い為に致命傷ではない。
次の攻撃をまた避けると、今度はマレイナが入れ替わって攻撃する。
その繰り返しだ。
手傷を負い、苛立ち始めた灰白巨人の攻撃の速度が増す。
だが、その分、攻撃が更に荒くなる。
引き続き、マレイナと交互に剣で切り付ける。
徐々に、奴にダメージが蓄積されて行く。
やがて、相手の動きが止まった。
そこへ強撃を加えて止めとする。
「くそっ、まだダメか! もう一発!」
再度の強撃で、今度こそ仕留める。
キオウも相手を追い込んでいた。
そこへ、支援に駆け付ける。
3対1では、怪力の灰白巨人でも勝ち目はない。
勝負の決着が着いた。
力は強いが、武器の扱いは雑な相手だった。
だが体力は桁違いに多く、討伐の時間も係る。
キオウ「ふう、こいつら体力あり過ぎだろう。」
「数が出て来ると、面倒だな。」
次に、3匹の灰白巨人に遭遇するが、長期戦になりはしたが討伐は成功した。
街に戻りギルドで報酬を各自20ゴールド受け取る
別の日、ギルドで灰白巨人と大角鬼の討伐依頼が出ていたので、2つ共受注して迷宮に向かう。
1つは何でも、大角鬼の角を10本集めて欲しいとの依頼内容だった。
キオウ「大角鬼の角か。何に使うんだ?」
マレイナ「いいじゃない。丁度、最近、回ってる所にいるから。」
「まあ、そうだな。多めに集められるなら、獲って来よう。」
まずは、大角鬼を求めて歩く。
だが、探し求めていると、なかなかに遭遇できないのが不思議だ。
キオウ「迷宮あるあるだな、探してる魔獣には会えませんってか。」
フォド「確かに、それは不思議ですよね? 迷宮の中で、それを操作しているのでしょうか?」
ナルルガ「まさか、そんな事は。でも、あるかもね。」
だが、遭遇したのは灰小鬼の一団だった。
少々距離が近いが、岩塊弾を炸裂させると逃げて行く。
やがて、念願の大角鬼に出会ったので討伐する。
その数、4匹。
マレイナ「まだまだ、数が足りないね。」
キオウ「あと、1匹いればな。」
「まあいいよ。次を探そう。」
次は、灰白巨人に遭遇した。
キオウ「何だよ、お前じゃないよ。」
「いや、こいつの討伐依頼も受けてたから、丁度いいよ。」
ナルルガ「誰かさん、忘れないでね。」
だが、体力のある巨人を相手にするのは疲れる。
力闘の末、巨大な相手を倒した。
そして、大角鬼らとすぐに遭遇し、目まぐるしく戦いが続く。
気が付けば、大角鬼を10匹、灰白巨人は6匹を討伐していた。
大角鬼の角が20本も手に入った。
ギルドに戦果の報告と素材を届けると、丁度、角の依頼者が来ていた。
赤ら顔の小柄な禿げたオヤジが、にやにやと笑いながら礼を言って来る。
角は、特殊な薬剤の原料になるらしい。
大量の角を獲って来たので、また依頼したいという。
去り際に自分とキオウ、フォドに「冒険者さんらには、お安くしておきますよ」と囁いて赤毒蛇堂のオヤジは帰って行った。
今回の稼ぎは、各自22ゴールドになった。
またのある日、迷宮へと出掛ける。
最近出かける辺りは稼ぎが良いが、その分、危険も多い。
魔獣らは、体力も腕力もある手強い相手ばかりだ。
大角鬼を倒しては、角集めも忘れずにやっておく。
マレイナ「また、何か来るよ?」
キオウ「今度は、何だ? 何匹いる?」
マレイナ「何か、いつもと違うな、これは。1匹しかいないよ。」
しばらく進むと、前方に何かがいる気配がする。
何か大きな人影が空洞の先にいるのだ。
その数は、マレイナの言う通りに、1匹だ。
朧げに見えるそれの頭に大きな2本角が見えた。
ナルルガ「大角鬼?」
キオウ「いや、そんな奴よりも、体も、もっとデカイし、角も長いぞ。」
「ああ、灰白巨人よりも、あれは大きい。」
近付くと、そいつの息遣いが聞こえて来る。
何か獣のような荒い息遣いだ。
その顔が見えた。
フォド「あれは、牛に見えますね。」
250cm位の巨体の上に、牛のような頭が乗っている。
フォド「あっ、これは、牛頭巨人です。皆さん、滅多に出会えない大物です。用心してください。」
(牛頭巨人だって?)
その正体が解かり、汗が滲む。
魔獣の中でも、かなりの強敵だが数は少なく珍しい相手だ。
魔法は使わないが、その腕力、体力は灰白巨人を遥かに超えるはずだ。
魔法の加護と、武器にも魔法を掛ける。
そして、最初から全力の魔法を使う。
大炎球に岩塊弾、近付いた所へ風神閃と呪文を畳み掛ける。
だが、まだ倒れない。
キオウ「これだけの呪文でも、まだ動くのかよ!」
牛頭巨人が、大型の鎚を頭上に振りかざし、そして振り下ろす。
大空洞に、凄まじい音が響く。
振り下ろされた大鎚が、洞窟の地面にめり込んでいる。
「何だ、あの力は」
マレイナ「こいつ、ヤバいよ。」
そして、また振りかざす。
とんでもないバケモノだ。
あれを受ければ、即死級だ。
火炎鞭を巻き付け、岩塊を撃ち込む。
少し怯んだ所を切り付ける。
「ぐおおおっ‼」
凄まじい咆哮。
だが、傷口が少しづつ回復している。
灰白巨人と同じように、武器のダメージを回復するようだ。
しかも、その回復速度が早い。
武器に魔法の力を付与していても回復するとは、手強い相手である。
回復される前に攻撃を続け、ダメージを与えて行かないと。
相手の攻撃を避け、接近しては武器で切り付け、離れたら魔法を放つ。
前衛3人の交互の攻撃で攪乱し、後衛も呪文を放つ。
苛立っている様子の牛頭巨人。
興奮して大鎚を体の周りで回転させる。
狙いは荒いが、これも喰らえばただでは済まない。
距離を取って、呪文の攻撃に切り替える。
そして振り回しが終ったら、また近付き切り付ける。
そんな事を既に、20分は繰り返しているだろうか?
キオウ「くそっ、こんなに消耗するのは水竜以来だぜ。」
「ああ、早いとこ勝負を付けないと、キツイな。何か無いか?」
(そうだ、あれだ。)
さっと後衛の所に下がると、呪文を唱える。
「下がれ」と前衛2人に叫ぶと、瞬時に反応してくれた。
取り残された牛頭巨人、その足元に穴を魔法で開ける。
穴に落ち込む巨人。
その頭が少し見える位だ。
そして、その穴を魔法で狭めて動きを封じる。
身動きのできなくなった巨人の頭へナルルガが大炎球を連発する。
断末魔の叫びを上げる巨人。
その眉間を目掛けてキオウの戦槍の一撃が貫く。
頭を完全に打ち砕かれて、その動きは止まった。
長い戦いは、終った。
討伐の証に、地面に突き出たその2本角を切り取った。
どっと疲れが吹き出す。
「はは、何とかやったな。」
キオウ「ああ、相棒、さっきの魔法は良かったぜ。」
ナルルガ「あんな呪文の使い方もあるのね。やるじゃん、サダ。」
ギルドに戻ると、大角鬼の角採取の依頼が出ていたので集めた角を渡して報酬を受ける。
各自で、38ゴールドの収入となる。
赤毒蛇堂のオヤジのにやけ顔が頭に浮かんだ。
「えっ、サダ達、牛頭巨人を倒したのかよ?」
「凄えな、俺は出会った事も無いよ。」
「前に出たのも、何年か前じゃないのか?」
牛頭巨人の討伐も、ちょっとしたニュースとなって湧いた。