第29話「招集と叙任」
長く続いた狗毛鬼の討伐で経験が溜り、1つの目標を達成する事ができた。
ギルドのボードで能力を計測した結果がこれだ。
「戦士Lv.37」
「魔術師Lv.31」
「農夫Lv.7」
「剣術Lv.28」
「斧術Lv.23」
「棍術Lv.17」
「格闘術Lv.10」
「水魔法Lv.24」
「地魔法Lv.22」
「腕力+9」
「敏捷性+6」
「器用さ+5」
「土質鑑定+5」
「植物鑑定+4」
「植物育成+3」
そして、新たに、もう1つ職業が加わった。
「魔法戦士:Lv.1」だ。
魔法戦士は戦士と魔術師の双方を極めた者、具体的にはレベルを31まで上げれば選べる職業である。
上級の職業と言っても良いであろう。
武器での戦闘も、魔法も得意な職業である。
魔術師の職業を少し前に取得していたのは、これに就く為だったのだ。
マレイナも同じく、スカウトの職業を取得していたので、別の上級職になれた。
ついでに、マレイナの能力も表記しておこう。
「レンジャーLv.1」
「狩人Lv.37」
「スカウトLv.31」
「弓術Lv.32」
「剣術Lv.25」
「短剣術Lv.9」
「格闘術Lv.7」
「光魔法Lv.26」
「風魔法Lv.18」
「暗視+10」
「狩猟+10」
「敏捷性+9」
「器用さ+9」
「追跡+10」
「探索+10」
「隠密+8」
「罠解除+8」
「開錠+8」
レンジャーは、狩りや追跡、探索などのエキスパートである。
更には、魔法も得意な職業だ。
弓や剣、魔法も長けたマレイナに合った職業でもある。
自分らの成長を喜んでいると、思わぬ人物からお呼びが掛った。
その人物とは、ハノガナの街の城主である。
ハノガナの街の城主は、アグラム伯爵だ。
キオウ「おいおい、領主から呼ばれるなんて、何でだ?」
「何だろうな、今まで、縁も無かったのに。」
キオウ「何か、褒美でも貰えるんじゃないのか? ほら、白狗毛鬼も、この前倒したし。」
キオウの予測は当たった。
領主は、ギルドからの報告で白狗毛鬼の事を知り、それを退治した冒険者が先日の火炎剣を見付けた冒険者である事を聞き、自分達に興味を持ったらしい。
自分達「西方の炎風」は、城主の城館に招かれる事になったのだ。
マレイナ「私は、遠慮しておこうかな?」
キオウ「どうしてだよ? 領主の所なんか、滅多に行けない場所だぞ。」
マレイナ「私、そういう華やかな所は苦手だから。」
キオウ「そんなの気にすんな。俺だって、貴族に会った事も、礼儀の1つも知らんよ。」
ナルルガ「それは、気にした方がいいわよ。あんたの場合は。」
フォド「不慣れなのは、皆、同じです。折角のお招きですから、みんなで行きましょう。こんな事は、もう無いかもしれませんよ。」
そうか、マレイナは、両親の事もあるから、貴族には会いたくないのか?
でも、1人だけ、残して行くのも、どうかな?
「マレイナ、大丈夫だよ。みんないるから安心してくれ。何も喋らなくても、いいんじゃないのか?」
キオウ「そうそう、もっと気楽に行こうぜ。」
最初は、躊躇っていたマレイナも、自分達の説得で最後には同意してくれた。
一介の冒険者が城主に呼ばれる事など、滅多にある事ではない。
白狗毛鬼討伐が終了して数日後、自分達5人は、ギルド受付のヘルガに付き添われ城主の城館を訪問した。
アグラム伯爵、ハノガナの街の城主であり、アルデード地方全体の領主でもある。
領主となってから、彼で三代目であり、祖父の代からこの地方を治めている。
今年38歳、領主となってからは、7年が経過しているそうだ。
領主としては若い方で、物腰の柔らかい人物であった。
金髪で常に笑顔を浮かべ、冒険者である自分達へも親しげに声を掛けてくれる。
領主との面会の為にしつらえた、普段は袖を通すような事の無い高級な衣服を身に付けた自分達は、緊張しながら領主の質問に答えた。
通されたのは、伯爵の執務室かと思われる豪華な部屋であった。
アグラム「その白狗毛鬼とやらは、どんな奴だったのだ。」
キオウ「は、はい、今までに戦って来た魔獣よりも、その、手強い相手でして。そう、獣悪鬼とかよりも、遥かに武器の扱いも上手い奴でした。」
アグラム「ほう、君達は、獣悪鬼も普段から戦っているのか? やはり、腕は立つようだね。」
「いえ、最近になって、やっと渡りあえるようになったばかりで、まだまだ手強い相手です。」
皆、緊張しながら、伯爵とやり取りしていた。
だが、マレイナの緊張は、自分達とは意味が違う事だったのかもしれない。
何時もは陽気で話好きな彼女が、今日は大人しかった。
意図的に、目立たないようにしているようにも思えた。
自分達が迷宮で発見した火炎剣は、伯爵の持ち物となっており、この剣のお陰で「火炎の伯爵」という異名でも呼ばれるようになっていると言う。
実際に伯爵は火炎剣を使い、幾度かの戦闘も経験済みだそうだ。
勿論、今は戦争などが無い平時だが、腕試しの為に定期的に狩りや魔獣退治をするようである。
アグラム「どこか、腕に馴染む、素晴らしい剣だよ。あれを譲ってくれたのも、礼を言いたい。」
続いて、食堂に案内され伯爵との食事となった。
そこで出された料理、酒、菓子など今までに食べて来た物とは比べ物にならない程の美味であった。
キオウ「うわ~っ、すげぇ、旨いよ、これもあれも。」
ナルルガ「恥ずかしいから、落ち着きなさいよ。」
キオウ「でも、こんなの喰った事ないぜ。」
ナルルガ「せめて、その口の利き方、何とかしなさいよ。みっともない。」
食事中も伯爵との歓談が続き、冒険者になった切っ掛けなどが聞かれた。
マレイナは、その場でも下を向いて伯爵とは目線を合わせないようにしていた。
そして、城館での、数時間の滞在は終った。
帰りがけに各自、10ゴールドの報奨金を渡された。
更に後日、ギルドマスターの部屋に呼ばれた自分とキオウは、領主の使いから騎士の位を送られた。
「諸君らを騎士の位に叙する。卿の直臣になる訳ではないので、今まで通りに冒険者を続ける事は可能である。ただ、君らの身分を保障もするので、卿の求めにも応じて頂きたい。今後は、何かあれば通達致す。」
キオウ「はっ、謹んでお受け致します。」
「ありがたき幸せです。」
今後、自分とキオウは戦士ではなく、騎士を名乗る事が許されたのだ。
キオウ「やった、やったぜ、ついに、やったよ、おい!」
自分は騎士になるのはどうでも良かったが、キオウにとってそれは夢の1つだったようで、その感激する様に驚かされた。
ここまで興奮した様子の彼を、自分らは見た事が無かった。
これは、フォドの従姉のマルナカの占いが、的中したのかもしれない。
ナルルガ「あんた、騎士になったんだから、そのガサツな所とか、言葉使いを直しなさいよね。でないと、騎士の位は剥奪されちゃうわよ。」
キオウ「そんな~。そうか、まずは言葉使いだよな。ナルルガ嬢、御忠告、いたみ入る。」
ナルルガ「何か、あんたに言われると、寒気がするわね。やっぱり、向かないんじゃないの騎士なんて。」
キオウ「そんな事、ないだろ。」
騎士は一応は貴族の端くれではあるが、その権利は各自によって変わる。
領地や給金が支払われる者もいるが、今の自分達は騎士を名乗る事が許されたに過ぎない。
言わば、騎士の中でも最底辺の立場だ。
ただ、領主にも身分を認められた事にはなる。
今は恩恵も少ないが、今後は下手な事も出来なくなった。
勿論、下手な事などするつもりはないが。
ハノガナの街の冒険者の中にも、幾人かの騎士の称号を持つ者はいる。
生まれながらに騎士の称号を持ちながら、事情により冒険者になる者もいるのだ。
その他にも、何かしらの功績で、今回の自分達のように騎士の地位を認められる事もたまにある。
珍しくは無いとは言え、冒険者の中でも箔が付くのは間違いない。
しかも、自分達は強敵の白狗毛鬼を倒した実績もある。
白狗の騎士なる俗称も、一部では囁かれ始めていた。