第24話「市街討伐戦」
最近、伸び悩んでいる気がする。
地下迷宮の深層部での探索をしたいと思うが、まだ実力に不安が残る。
無暗に進めば、ただでは済まないだろう。
獣悪鬼という強敵は、今の自分達には少々手に余る相手だ。
だが、深層部では、あんな魔獣など小物の部類に入るだろう。
「どこか、腕を磨くのに、いい場所はないのかな?」
キオウ「難しいな。今の俺達なら鰐人が丁度いい相手かと思うが。」
マレイナ「水竜がいるから、あそこは行けないよね。」
「他で、探すしかないな。」
もう一度、迷宮の水辺の空洞を覗きに行ってみると、前よりも更に水位は下がってはいたが、まだ水竜はいた。
キオウ「やっぱり、まだいたか。」
「ああ、気付かれない内に、退散だな。」
マレイナ「向こうは、まだ気付いてないから、早く行こう。」
まだまだ、あの場所に奴は居座っている。
他の場所に行くしかない。
そんな時に、タイミング良く経験稼ぎになりそうな依頼が募集された。
少し前に、旧市街へ流れ込む魔獣の討伐を何回か受注したが、今も魔獣が旧市街へ入り続けているようだ。
もしかしたら、先日の河川の増水も、関係しているのかもしれない。
数日前にも、かなりまとまった魔獣の集団が目撃されたそうで、複数のパーティーへの依頼が出されたのだ。
それなりの経験がある冒険者であれば、参加は可能なようだ。
報酬は、討伐数に応じた金額が支払われるそうだ。
自分達も参加する事にしたので、知り合いのパーティーにも声を掛けてみた。
「どうする、行くかい?」
マグル「そうだな、旧市街なら近いし、美味しい依頼かもな。」
ラガン「おお、お前らも行くか。結構数が多いらしいから、いい稼ぎになりそうだな。」
マグルやラガンのパーティーも、参加するという。
ギルドに集まったのは、昼少し前だ。
今回は、20人近くの冒険者らに混ざって参加する。
行動は、各パーティー毎にするが、互いに連携できる距離を保って向かう。
ここまでの大人数での依頼は、初めてだ。
「路地1本が、互いのパーティーの受け持ちだ。旧市街の端から端まで、突き進んで奴らを片付けるぜ。」
「ああ、了解した。」
自分ら西方の炎風も、受け持った路地を進んで行く。
前衛の自分とキオウ、後衛のマレイナとフォドで真ん中にナルルガを挟んで進む。
最初に出くわしたのは、一角鬼の集団であった。
双角鬼1匹に7匹の一角鬼だ。
自分は双角鬼と切り合い、他メンバーもそれぞれが一角鬼と対峙する。
双角鬼と戦うのも久し振りではあるが、今となっては、さほどに手こずる相手ではない。
双角鬼の剣を割けて、切り込んで行く。
5分もしない間に、全て討伐する。
冒険者になり数か月、明らかに剣の腕前は上達したが、まだまだだ。
路地を進んで行くと、何度も魔獣の群れに遭遇し、それらと切り合う。
大食い鬼、狗毛鬼、そして、また一角鬼と、集団で現れる奴らを切り捨てた。
キオウ「今回は、結構、数がいるな。」
フォド「ええ、前回よりも多く入り込んでいるようですね。」
マレイナ「雨で森や山から沢山、移動してるのかな?」
「そうかもしれないな。」
相手も数が多いが、こちらも近くに他のパーティーがいるので、包囲される心配は無い。
たまに、路地で他のパーティーと顔を合せ合図を交わす。
今回侵入して来た魔獣は、人型が多いようだ。
討伐しても、連中の装備などは嵩張るので今回は回収はしない。
旧市街に来て、2時間は経ったであろうか?
他のパーティーが進んでいる路地の方角から、大きな物音が聞こえる。
そこを進むパーティーのメンバーの怒鳴り声も、僅かに混ざっている。
キオウ「派手に暴れているな。」
「でも、ちょっと変じゃないか?」
フォド「行ってみましょう。」
物音のする方に、急いで駆けつける。
大規模な戦闘が起きているのは、間違いない。
他のパーティーも、続々と集まって来た。
物音のする所に着くと、その路地を担当していたパーティーが、魔獣の群れに囲まれて押されている。
マレイナ「ああ、獣悪鬼に一角鬼も。」
キオウ「獣悪鬼の数はヤバいな、これは。」
強力な魔獣の獣悪鬼が、10匹以上はいる。
その魔獣の包囲網の横合いから、切り崩しに掛かる。
「すまない。助かる。」
冒険者らと数では、ほぼ同数だが、獣悪鬼がここまで多いと苦戦するであろう。
だが、今回は屋外なので、まだ離れた所にいる獣悪鬼は魔法での攻撃も可能だ。
それでも魔術師らが数発の魔法を放つと、連中は前衛に張り付くように距離を縮める。
(くそっ、これじゃあ魔法が使えない)
魔術師らも、味方を呪文の巻き添えにしない為に、詠唱を控えた。
互いの人数が増えたので、至る所で乱戦が繰り広げられる。
自分も、獣悪鬼の1匹と切り合いになる。
獣悪鬼は、やはり手強い。
先程の狗毛鬼や大食い鬼とは全く違うが、1対1で戦えるのが幸いだ。
己の剣技を尽くし切り合う。
切り付け、突きを入れ、胴を払い、奴の足も狙う。
それのどれもが受け流されるが、こちらも相手の剣先を全て避けている。
とは言いたいが、少しばかりは切り傷を負わされる。
だが、こんなのは、かすり傷の内。
相手の剣を跳ね上げ、胴を薙ぎ払う。
(まだ浅い。)
相手は伸びたこちらの腕を目掛けて切り掛かるが、それは避ける。
夢中になって戦っていたが、後衛の呪文が一角鬼を掃討し、数で徐々に獣悪鬼を押し始めつつあった。
手の空いた魔法を使える者が、魔力の加護を付与してくれる。
幾らか楽になり余裕も出て来たが、この効果は大きい。
少しづつ冒険者らは、獣悪鬼達を押し始めた。
あちらには、援護してくれる物は無い。
やがて、剣が立ち向かう獣悪鬼を捉えた。
剣先が、相手の喉をざっくりと切り裂いた。
厳しい戦いではあったが、他の冒険者らと共同で獣悪鬼も掃討した。
「やったな。」
「ああ、助かったよ。」
肩で息をしながら、互いの健闘を称える。
怪我人は出たが、致命傷になった者はいない。
神官らの手当で、無事に回復する。
短期間の休憩を入れて、再び捜索を開始する。
その後も幾度か魔獣と遭遇するが、獣悪鬼との戦いは無かった。
日も傾き始めたので、他のパーティーにも合図して街へ戻る事にする。
今回の自分達のパーティーの戦果は、獣悪鬼2匹、狗毛鬼16匹、大食い鬼9匹、双角鬼2匹、一角鬼27匹、角狼21匹。
他のパーティーも、同程度の魔獣を仕留めていた。
一回の依頼でこれだけの魔獣を仕留めたのは、初めてであろう。
報酬は1人6ゴールドとなった。
キオウ「これだけ倒せば、しばらくは、奴らも出て来ないだろうよ。」
「ああ、そうだな。獣悪鬼も、他の冒険者もいたから倒せたな。」
マレイナ「他のパーティーがいなかったら、厳しかったよ。」
「そもそも、少数の冒険者では、全滅したかもしれない。」
そうか、協力し合えば強敵も何とかなるか?
当たり前の事を忘れていた。
そうだ、あいつを倒すのを手伝って貰おう。